第3話 二人で過ごす日々


 空が青い。そして、風が心地よく感じる。


「そこ空いてる。座れよ」

『いい風。気持ちいいね』


 サラは笑顔で何かを伝えようとしている。

きっと、この場所が気持ちよく感じるのだろう。

言葉はわからなくても、なんとなくわかった気がした。


「いただきまーす」

『いただきまーす』


 サラは日本語で俺と同じように『いただきます』と言ってきた。


「なんだ、少しは日本語話せるのか?」

『アイス、おいしいね』


 笑顔で何かを話してくるサラ。

俺の言葉は通じていないようだ。


 サラはそのあと終始笑顔でアイスを食べ、俺と一緒にモールの中を散策。

ゲームコーナーは各国共通なのか、それなりに二人で楽しく遊べた。

お昼もフードコートでハンバーガーを食べて、一日中モールの中で過ごした。


 すっかり日も暮れ、そろそろ帰る時間。

来るときは一言も話していなかったサラも、帰るときは何かを一生懸命俺に伝えようとしていた。


「だいぶ遊んだな。明日はどうする?」

『今日は一日楽しかったよ。日本に来てから毎日退屈でね』

「行きたいところとか、見たいことろあるのか?」

『テラスでアイス食べたとき、なんだかほっとしたよ』


 明日になれば、また明日どこか行きたくなるかもしれない。

今日、無理やり決める必要はないだろう。


 しばらく歩くと家が見えてきた。


「やっと着いたー。疲れたな」

『ついちゃった……』


 少し寂しそうな顔つきになるサラ。


「誰もいないのか?」

『きっと、今日も帰ってくるの遅い。また、お家で一人か……』

「なぁ、一緒に家でゲームでもしないか? オヤツとジュースくらいなら出すぞ」

『ジュース?』


 家にサラを連れていき、母さんに事情を話す。

母さんも大丈夫だと言ってくれたし、俺の部屋でゲーム大会だ。


「このこのこのっ」

『んっんっんっんっ』


 格闘ゲームで白熱する。


「まがれぇぇぇぇぇ!」

『まけるなぁぁぁ』


 レースゲームでバトルする。


「サラ、オセロ強いんだね」

『ふふん、また私の勝ちね』


 オセロでぼろ負けし、夜も更けていく……。


「サラちゃーん、お父さん今夜遅くなるって。だから一緒にご飯食べましょ」


 サラは理解しているのか、ちょっと不安になる。


 初めて四人で夕食を取った。


「どうだった? 一日楽しかったか?」

「まーね。一日モールでぶらぶらしてた」

「達也、サラちゃんとラブラブなんて……」

「母さん、ブラブラしてただけだよ。アイス食べて、ゲームして、雑貨見て」

「そう……。明日はどうするの?」

「決まってない」


 サラも一緒に夕飯を食べる。四人で食べる夕飯はちょっと楽しい。


「サラちゃん、お父さん帰ってくるまでうちにいていいのよ」

「そうだそ、達也もそう思うだろ?」

「どっちでもいい。どうせ家は隣なんだ。すぐに帰れるし」



 言葉は通じないけど、一緒にいる時間が増えた。

サラの父さんが帰ってこないときは、ほとんどうちにいて遊ぶことが多い。


「これはおにぎり。わかるか? おにぎりだ」

「オニギリ」

「そうそう。こっちが目玉焼き。今朝食べただろ?」

「メマダヤキ」


 ここ数日、サラと遊びながら俺は日本語を教え始めた。

言葉の壁はあつい。俺が外国語を覚えてもいいかと思ったが、サラが日本語を覚えたいといってきたらしい。


「で、これが動物園。こっちが水族館。あと、遊園地」

「ドーブルエン、スイソクカン、ユゥエンティ」

「ん、だいたいオッケー。サラは覚えるの早いなー」

「タツヤ、ニホンゴ、ウマイ。ワタシ、ニホンモスキ」


 日本語うまいって……。

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