chapter19 物語には始まりがあれば、終わりもある

 これは、カスロット砂漠のとある場所。

 周辺には、砂丘しか見当たらず、唯一の人影が感動に打ち震えていた。

 一人の細身の男が、笑いながら身体についた砂を払う。

「素晴らしィ、経験ッ!! まさか、砂になって空を舞う経験ができるなんて、ボクぁ……幸せだ!!? あぁ、“巨万の魔石”……研究したいィ!? というか、ここはどこ!?」

 ラージャハ帝国で、変わり者と言われる学者は、やはり変わったままであった。

 彼が、偶然、とある砂漠の民に拾われなければ、砂漠の真ん中で死んでいたかもしれない。


 そんな彼が、その砂漠の民の特殊な染色技術と裁縫秘術に魅了されるのは、また別のお話。

 そして、彼の知的探求心を満足させて、ラージャハ帝国の首都に戻るのは、数カ月もの後になるのであった。






 これは、魔道列車デザートイーグル号の発車時刻の少し前のこと。


「キミ、これをあげるデス」

 手足を銃で打ち抜かれた薄汚れた少年にそっと近づいて、高価なポーションをかける、機械人間ルーンフォークのメイドの姿があった。

「ありゃ、助けてあげるの?」

 コクリと頷くメイド。

「子供。放っておけないデス」

「ハハ、いいね。そういうの善人ぽくって、僕は嫌いじゃないよ」

 自発的にそういった行動をした少女に対して、エルフの少年は嬉しそうに微笑む。

 ジリリリリリという音が鳴り響く。

「ほら、行くよ。列車に乗り遅れちゃうよ」


「バイバイ」

「グガァ」


 どこか無邪気に手を振るメイドと執事を連れて、三人は列車に乗り込んでいく。



 少年が痛みで意識が朦朧としながら、見上げた時。

 なんとなく、サソリのマークと、その奥に、なんだか見えてはいけないものが見えてしまったような、そんな混濁した記憶だけが少年に残されたのであった。






 “蛮族列車強盗団バルバロス・トレインレイダーズ”の襲撃の翌日。

 再び、隠れ潜んでいたという蛮族を撃退するために、もうひと騒動があったという。激しい銃撃戦のような音が、一等列車の屋根から聞こえてきて、しばらくすると静かになった。

 そして、捕らわれていた二等列車の乗客三名も救われたのだ。

 それを撃退したのが、キース・アイデンス率いる護衛たちと、たまたま居合わせた冒険者たち。

 その際に、キース・アイデンスと“ビリー・ザ・ソニック”は共に、重傷を負ったという――






「ウェイ! だったらさ、オレからの救出依頼っしょ! これから、超クソみたいな“奈落の魔域シャロウアビス”に、助けられそうな連中が二十人以上いるんだろ!?」

「ジャンクォーツ、貴様一人では、払いきれんだろう。わ、私も一緒に依頼を出してやる。だから……」

「アターシャちゃんが、少しデレた!? ここで!!?」

「うるさいうるさいうるさい!!!」

「あー……ここは、アイデンス家の依頼にできぬか、なんとか話をもっていきたいところでござるな。キース様に少し話してみるか……」






「はぁ、手に入ったはずの“巨万の魔石”も無くなってるし。もう本当に、骨折り損のくたびれ儲けだよ。というか、実際に、骨折れてるし……」

「ポーションは、もうこれ以上ないデス。使いきっちゃったデス」

「まあ、いろんな人に使ってたもんねぇ。はぁ……」

「でも、大丈夫デス。舐めておけば治る、デス」

「グガァ」

「いや、ボクは君らみたく、頑丈じゃないからね? 繊細なエルフだからね? 一緒にしないで欲しいよ……いや、本当に不思議そうな顔して、首を傾げないでくれるかな!?」






「あー、ともかくこれで終わった! 今回のは、マジしんどかったわ。もう、当分、列車には乗りたくねぇ」

「でも、なんだかんだで、皆さん無事でよかったですね! これで、共和国に行けば、わたしを待っている新たな国のご飯が……」

「……アクルゥ。残念なお知らせがある」

「え、ヘレンさん、どうしたんですか?」

「たぶん。この列車は次の駅で折り返し運転になり、帝国に戻る。もしくは、大規模修理でかなりの足止めになる」

「な、なんでですか!?」

「みんなでボカスカ、列車で暴れ過ぎ。ちゃんとした修理が必要だと思う」

「えぇぇぇぇぇ!?」

「まあ、アクルゥ、落ち着け。そもそも、お前……あそこで騒いでいる護衛連中の救出作戦とやら……放っておけねぇだろ」

「あ……は、ハイ。そうですよね、そうですよねぇ……」

「お、ビリーが乗り気? ヘレン、意外」

「なんつぅか……俺の冴えねぇカンが告げてるんだよ。なんかどうやっても、巻き込まれるっていう予感が……」




 そんなビリーからのぼやきが、ため息と共に零れ落ちた時。

 どこからともなく、ひらりひらりと、一枚のカードが舞ってくるのに気付いて、ビリーが掴み取る。


 ペラリと捲った表には、“ロクでもない暗示”が描かれていたのであった…………。






 ……。

 …………。

 こうして、ロクでもない連中が集まれば、何事もなく終わることはなく。

 やはり、バカ騒ぎは続くことになるのである。






 これは、隠された真相であり、知るのは一部の者のみ。


「ヘレンさん、残念ながらこの“巨万の魔石”そのものを創り替えることはできません。変換できるのは、あくまで一つのみ。これは、一つのようでいて小さなモノの集まりです」

「ン、鑑定士はさすがに分かるか。でも、これが残っていると、色々と面倒。だから、これはあなたが預かっておいて」

「いいんですか? 私が悪人ロクでもない人間だとも限りませんよ?」

「その時はその時。まあ、どうせ特効薬の件で当分は付き合うんだし。そこで見極める」

「分かりました。では、ひとまずコレは私がお預かりしておきます。必要になったら、言ってください」

「分かった。宜しく――」






 ――物語には始まりがあれば、終わりもある。

 だから、“デザートイーグル号”と“巨万の魔石”を巡るロクデナシ共の物語は、なのだと、言わせてもらおう。


 なぜなら、彼らが本来目指したはずのキングスレイ鉄鋼共和国にも着いてもいないし、救わなければならない連中が両手では数え切れないぐらいいる。

 彼らの長い人生におけるほんの少しだけ――魔道列車に乗って、バカみたいに騒いで踊った――そんな数日間のお話をお見せしただけだ。


 この後、彼らにはあの凶悪な“奈落の魔域シャロウアビス”に挑む話やら、キングスレイ鉄鋼共和国に行った後の話もある。

 そもそも、その前にあの冒険者たちがいかに出会い、そして、仲間になったのか。いや、それを言うなら、あの護衛たちや強盗たちにだって、出会いや別れの話がある。

 まあ、ソレは機会があれば、いつかお話することもあるかもしれない。

 だから、彼らの物語バカ騒ぎはここでのだ。






 ……。

 …………。

 そうそう、最後に。



 列車の女給仕と護衛だった幼馴染の二人は、今回の騒動で、思わぬ特別報酬が支払われたことにより、予定よりも早く結婚できたということを。


 そして、その時の二人は、結婚式の出席者全員の笑顔で祝福されながらも。

 その場にいた誰よりも、であったということを。


 ここまでお読みいただいた貴方の為に、ここに書き記しておこう。






ソードワールド2.5リプレイ・サノバガン!

「砂漠縦断列車で、ロクデナシ共と踊る(後編)」――END.




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ソードワールド2.5リプレイ・サノバガン! 「砂漠縦断列車で、ロクデナシ共と踊る」 SHIN12 @shin1221

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