chapter18 ロクデナシの理屈
「――つまり、諸君らは“巨万の魔石”はもうない。そこにある“特効薬製造機”にしてしまった、と?」
一等列車の部屋で、優雅にソファに座っているのは、キース・アイデンス。
キングスレイ鉄鋼共和国の自称貴族の男であった。
「ああ、そうだ。こいつの代わりに、エルフの少年とルーンフォークの少女を、返してはくれねぇか?」
一方で、キースに相対するのは、列車の中だというのにウェスタンハットを脱ぐことなく、無精ひげも生えたままの冒険者の“ビリー・ザ・ソニック”であった。
お互い、拳銃を扱うものとして、いつでも武器は抜けるようになっているものの。
剣やメイスといった武器を持っている周囲にいる者たちに比べれば、見た目にはさほど迫力はない。
ここには、この列車の一流以上の実力者たちが全員揃っており、広いはずの一等列車の個室でも、狭く感じるほどだ。
この部屋の主であるキース・アイデンスの傍らには、護衛であるジャンクォーツ、アターシャ、セイゲン・ダインの姿が。
そして、その横には、拘束された強盗の“ハイエナ”、“サソリ”の姿がある。
一方で、相対しているのは、“ビリー・ザ・ソニック”とその冒険者仲間であるヘレン、アクルゥ・ベドウィヌの姿が。
そして、強盗である“アナグマ”がそばにいた。
鑑定士である眼鏡の男性は、戦闘能力がない為、廊下で待たせてある。
この中では、キースの実力が飛びぬけており、それ以外の者たちは僅差の実力の持ち主ばかりである。
そういった意味では、キース側の方が有利ではあるものの、特効薬の話を聞いたジャンクォーツたちは、まさに求めていたものであり、最悪、護衛任務を放り出してでもそれを使うために、ラージャハ帝国に戻ることを考えているほどであった。
そういった意味で、後はキースさえ、この交渉を素直に受けてくれさえすれば、全てが丸く収まるといっても過言ではない状況である。
GM/キース 「そうか、特効薬か。しかし、そう簡単にいくつもの作れるものではあるまい。専門家が必要ではないのか?」
ヘレン それなら、大丈夫。ラージャハ帝国の鑑定士はその専門家の能力がある。
GM/キース 「作り出すのに、どれほどの時間がかかるかも分からないのでは?」
ビリー 悪ぃが、同時に二十人以上もの特効薬を一気に作れるほど、万能なものは無理なのは、キース・アイデンス様にだって分かってるんだろ?」
GM/キース 「――いいだろう。それに、余計な火種を失くすために、“巨万の魔石”そのものをその特効薬製造機にした……というのは、正直に言おう。感嘆に値する」と、優雅に拍手をする。
一同 おっ!
アクルゥ (こそこそと)うまく、いきそうですね?
ヘレン (こそこそと)ヘレン、天才。
アクルゥ (こそこそと)ハイ。ヘレンさんはすごいですっ。
ヘレン ……えへへ。
GM/キース 「しかし、だ。それはそこの盗人が、私から盗み出した物。もともとの所有権は私にある。私の元に、私の物が戻ってきただけのこと。貴族から盗みを働いた者には、それ相応の罰が必要だと、思わないかね?」
ビリー そこは、寛大な貴族様の心をもって、許してはくれねぇか。そこに、あんたたちが望む物があるんだ。そいつで、満足じゃないのか?
GM/キース 「盗んだ物を取り返してくれたことには、お金で報酬を払おう」
ビリー おっと、そいつはありがたい話だが、俺の希望はそこにいる……。
GM/キース 「(ビリーの言葉を遮って)これは追加依頼として、もしも、そこにいる残りの盗人も引き渡してくれたら、さらに、報酬を払おうじゃないか。どうだね? わざわざ犯罪者をかばう理由はあるまい?」と、にこやかに微笑む。
ビリー あー……まいったぜ。確かに、俺には、そんな義理はまったくないんだが……。なんとなく、
そして、なんとなく――
「
と銃を抜き放つ。
しかし、それよりも早くキース・アイデンスの方が銃をビリーの方へ向ける。
「商人のようなつまらない交渉はやめようじゃないか。せっかくなら、貴族らしく決闘で決めよう。私に勝てたのなら、盗みのことは、見なかったことにしてやる。金も払ってやろう!!!」
「はははっはははははは、あんた、それは貴族らしいんじゃねぇ。ロクデナシの理屈って奴だぜッ!!!」
GM/キース 「セイゲン、その今にも壊れてしまいそうな特効薬製造機を守っていろ。決闘は私一人で充分。そこの盗人や冒険者諸君。全員でかかってきてくれて、構わないよ」ということで、最終戦闘になります。
GM 最終戦闘には、護衛チームは全員不参加なので、キース一人。そして、ビリーたちの他に、“アナグマ”だけが強盗チームから参戦します。
ビリー まあ、“決闘”とか言ってるが、もはや、子供の
GM お、分かってくれますか。自分に思いつかなかったことを、やってくれた冒険者の皆さんへの嫉妬と羨望です。先に言っておきます。この戦いはもはや、勝ち負けは重要ではありません。
勝っても、負けても、同じ結果になります。
ヘレン だったら、ヘレンたちは勝つッ!
アクルゥ そうですね。ここまで来たら、最後は笑ってみせましょう! ハイ!
GM まずは、先制判定。キースは25です。
ビリー 高ェ! ファンブルかクリティカルなら……(ころころ)出目7。無理。
GM/“アナグマ” (ころころ)“アナグマ”も無理でした。
ヘレン 〈ブリンク〉を使用。
GM/キース 「ここでは、少し狭いか? せっかくだ。列車旅行を楽しもうじゃないか」と窓の鍵を〈ノッカー・ボム〉で壊し。
ビリー お、おい!? それはスカートが……!(振り返る)
ヘレン 押さえてる。だから、ビリーは前だけ向けばいい。
アクルゥ (しっかりと押さえながら)大丈夫ですから。
GM/キース そのまま、列車の屋根の上に登って行ってしまう。せっかくなんで、できなかった走行中の列車戦闘をやりましょう!
一同 GM……(憐みの視線)。
GM 同情されてる!?(笑)
ヘレン これで、登らずに補助魔法いっぱいかけて、ゆっくりと時間をかけて行ったら、どうなる?(一同笑)
GM やめてあげて!?(笑)
……えっと、セイゲンを筆頭に「キース様を、宜しく頼む! そして、感謝している」と言って、護衛チームが圧をかけてくる(笑)。
ビリー 登攀判定に成功すると、すぐに屋根の上に登れるんだよな?
GM はい。そして、走行中の列車の屋根で、肉体的行動にをすると、ラウンド終了時に軽業判定が必要です。後、少しだけ足場が悪いので、肉体系行動にペナルティ1があります。
ヘレン 仕方ない。ヘレンはみんなに〈プロテクション〉をかけつつ、登る。
GM キースは列車の屋根の中央に優雅に立って、君たちを待ち構えています。そして、《ファストアクション》分で〈エフェクトプロテクター〉を使い、特殊効果の魔法を無効化させます。
ビリー じゃあ、俺も登攀して(ころころ)、〈キャッツアイ〉と〈ターゲット・サイト〉+〈バースト・ショット〉! 命中27! (ころころ)YAHOOO! クリティカル、ダメージは22点!
GM/キース 「ぐっ……なかなか、いい腕をしているようだ」と、“消魔の守護石”5点分を割ります。
アクルゥ それでは、続いてわたしも登攀後に、接敵! 〈キャッツアイ〉+〈マッスルベアー〉と、《変幻自在》+《魔力撃》×2。「ベドウィヌ流弐ノ型。
一同 初めて聞いたよ!?(笑)
GM/キース (ころころ)ごめん、両方とも回避しました(笑)。
アクルゥ うぅ……、昨日、せっかく考えてきたのに……。
GM/“アナグマ” こちらも、〈キャッツアイ〉+〈マッスルベアー〉と《全力攻撃Ⅱ》。「グガァァァァァ!!!」(ころころ)当たって、38点ダメージ。え、38点!?
ビリー GMが、自分で驚いてる(笑)。
GM/キース 「馬鹿な……!? この私がここまで追い詰められるだと!?」というところで、ヘレン以外は軽業判定お願いします。失敗すると、転倒します。
(各自の出目を見て)全員成功と。あー、通常のPCデータを使うと、戦闘バランスが難しい(苦笑)。
GM/キース 次のラウンド。脅威度で言えば“アナグマ”なんだが、NPCを狙うのつまらないし、《超頑強》持ちだから、たぶん、倒せない。
ガンマン同士、銃で決めましょう。
ビリー カモンッ、エセ貴族ガンマン野郎!
GM/キース 「随分と口が悪いことだ。ここで、その下世話な口、黙らせてあげよう!」〈ホーミング・レーザー〉+〈レーザー・バレット〉の二丁拳銃。(ころころ)
ビリー (ころころ)よけられる訳ねぇ。
GM/キース ダメージは、24点、26点。
ビリー 俺も消魔の守護石を使って、HPを残す。残り、HP2点だぜ。
ヘレン ここはヘレンが! 《バイオレントキャスト》〈エネルギージャベリン〉! (ころころ)むぅ、抵抗された。ダメージは半減して9点。
アクルゥ ビリーさん、止めをどうぞ!
ビリー ハッ、じゃあ、ありがたく俺が頂くぜ! 〈クイックリロード〉〈ターゲットサイト〉〈バースト・ショット〉! (ころころ)出目悪ぃ! いや、《剣の加護/運命変転》!
GM/キース (ころころ)回避できません。
ビリー (ころころ)ダメージは18点。
GM/キース 消魔の守護石5点を割って、ダメージ13点。残りHP-2点。(ころころ)気絶しました。
一同 やったーっ!!!(ハイタッチ)
「これだから――
なんとも言えない表情を浮かべながら、キース・アイデンスが倒れていく。
……。
…………。
あのオーロラの下。
長年自分に仕えてきた、姉のようであり、母のような存在に
「キースお坊ちゃま……申し訳ございません。それを受け取ることはできません」
「なぜだ? 年か、身分か? 私はアイデンス家の直系とはいえ、三男だ。だから、問題にしないし、私は気にしな……」
泣きそうな笑いを浮かべる彼女に、全部です。
と遮るように、言われてしまう。
「先代からアイデンス家に仕えてさせていただいた御恩がございます。そして、もうわたくしも、長くないと」
ですから、最後に――
そして、全てはあの“奈落”に置いてきた。
最後に残された“物”に、なにかがあると思って持ち出してきたものの、結局は、“奈落”のものに過ぎなかった……。
しかし、キース・アイデンスは、格好悪くてもいい。
優雅でなくても、余裕がなくてもいい。
もう一度、みっともなくとも足掻いて見せようと、心に誓う。
その為にも、もう一度。
あの憎らしい“奈落”に戻ってやる――
…………。
……。
「待って、“アナグマ”さんっ! もう勝負はついたからぁ……いいんです!!!」
「グガアァァ!!?」
そんな気絶したキース・アイデンスに、まさに止めを刺さんとする、大柄の
「やべ、俺死にそう……」
「あくるぅ、がんばえー」
そして、そんな二人を、血まみれで意識混濁している
走行中の列車の上で、立っているのがやっとの
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