chapter17 “巨万の魔石”で創るべきモノ

GM さて、ちょっと一悶着があって、落ち着いて話をできるようになったことにしましょう。まず、要領の得ない“アナグマ”の代わりに、この部屋にいた眼鏡の男が話します。

 彼は、ラージャハ帝国で鑑定士をやっており、一等乗車券の本来の持主です。

一同 は!? え、あれって最初の頃に、強盗三人組に殺された人じゃ!?

GM はは、何を言っているんですか。一言も「殺した」だなんて、言っていませんよ。

(ビリー そんなのグロい描写を避けただけだと思うだろ、普通……)

GM ともかく、彼はケガは負わされたものの、脅されつつも協力を要請されます。

  /“ハイエナ” 「“巨万の魔石”のこと、買い取らない?」と。



GM 研究対象としても、興味があった彼は、“ハイエナ”たちを手伝うことを承諾。傷も“サソリ”にポーションで回復してもらい、今に至るということです。

(ヘレン これ、一種のストックホルム症候群?)

GM まあ、そういう部分もあるかもしれません。それ以上に、“巨万の魔石”の魅力もあったのが一番の理由です。そして、“アナグマ”から預かり、“巨万の魔石”の研究、調査をしているのが現状です。

 ここで、これまでにあった“巨万の魔石”の効果や使用条件などが、冒険者チームにも共有されます。



 *“巨万の魔石”。効果は、一体を望むモノに変換する。但し、対象は“常に単体のみ”。二体目以降に使用した場合、一体目の効果を自動的に解除。生命抵抗で効果消滅。実際には、マジックアイテムではなく、意思なきナノマシン状の魔物であり、分類としては“魔神”と“魔道機”。



(ヘレン 後、“奈落”の強い気配がする……ってこと?)

GM そうですね、“巨万の魔石”は決して、聖なる力や、魔道機などの機械的な力でもありません。簡易的な“奈落の魔域シャロウアビス”のようなものを作り、この世界のルールを捻じ曲げて、対象を別のモノに変換する……歪んだ力だと思ってください。



GM/眼鏡の男 「そして、これを見て欲しい」と目の前にあるコップをリンゴに変えて。そして、元のコップに戻す。「恐らく、これで、行方不明になったも、元の姿に戻ったものと推測しています」

ビリー どういう、ことだ?

GM/眼鏡の男 「この“巨万の魔石”の話をしてきた友人がいましてね。このデザートイーグル号の乗車券を融通してきてほしいと言ってきたのですが、翌日、彼の家に行ってみるともぬけの空になっていました。そして、恐らく、この“巨万の魔石”によってなにか別のモノに変換させられたのだと……今なら分かります」

ヘレン あ、この“巨万の魔石”は対象を一体のみだから……?

GM/眼鏡の男 「そうです。効果が切れて、今頃、どこかで“人”の姿に戻っているはずです。まあ、この列車からは観測しようがないので、どのような状態なのかは分かりませんが……」

アクルゥ ううん、ラージャハ帝国の首都なら、問題はないんでしょうが……。こればっかりはさすがに分かりませんよね(苦笑)。

GM/眼鏡の男 「ともかく、私の半分の目的は、“巨万の魔石”に巻き込まれた友人を救うことにあったので、これで達成できたはずです」

ビリー ともかく。すまんが、アクルゥ……救命草をもっと、頼む……。まだ、完治してねぇ……。

アクルゥ あ、ハイ。

GM/“アナグマ” 「グルゥ……」と、リカント語でゴメンと謝る。

一同 なんで、可愛くなってるの!?(笑)

GM え、なんか皆さんが“ハイエナ”や“サソリ”を一緒に助けてくれそうだから?

ビリー まだ、細かい事情も分かってないのに、そこまで仲良くなってねぇよっ!?



 *ここで、大雑把には強盗チームや護衛チームのこれまでの経緯も共有できたことにした。“アナグマ”の見聞きしたことや、眼鏡の男の推察もあるとは、注釈を入れておく。



ビリー しっかし、どうする……“巨万の魔石コレ”。

GM/眼鏡の男 「現状では、キース・アイデンスを中心に、“アナグマ”というよりも“巨万の魔石”を探している状態です。そして、“ハイエナ”と“サソリ”の二人は、今もなお捕らわれています」

ヘレン でも、相手も“ハイエナ”や“サソリ”の存在を隠しているということは、“巨万の魔石”のことを隠したいということ。というか、元を考えれば、強盗をしている側が悪いとも言える……し。

アクルゥ でも、なんで“巨万の魔石”のことを隠すんでしょう?

ヘレン こんなロクでもない危険物。安易に海外から持ち込むのは色々と問題。使い方を誤れば、国一つぐらいならたぶん、滅ぼせるかも。

アクルゥ そっか。それにマジックアイテムではなく、魔物の一種なんですよね? さすがに、“魔神”はまずいですよね……。

一同 う~ん……(悩む)。



 *その間、色々な意見は出るものの、話がそれたりとなかなかまとまらない。特に、“巨万の魔石”というバランスブレイカーなアイテムがある分、話が色々な方向に飛んでいくのだ。例えば、『綺麗なキース・アイデンス作戦』――“巨万の魔石”を使って、清い心を持ったキースにする(→割と非人道的)。『“巨万の魔石”コピー作戦』――別のモノを、“巨万の魔石”に変換する。GMからは、それはナノマシンの一つになるだけな為、効果はない。せいぜい、姿形だけを似せることしかできない旨を通達する……etc。



GM 実は、GMとしても、このシナリオでは、一つの正解はないとは思っております。せっかくなので、各チームやその目的なんかを整理してみましょう。それで、見えてくるものもあるかもしれません。




【冒険者チームの目的】

・出稼ぎのために、キングスレイ鉄鋼共和国に向かう

・金稼ぎはそこまで重要ではない



(ビリー そうやって考えると、俺たちは割とシンプルだな。要するに、“巨万の魔石”はいらねぇな、俺ら)

(ヘレン ヘレンはみんなで旅や冒険ができれば、それで満足)

(アクルゥ まあ、お金はほどほどに。美味しいものが食べられれば、それで幸せですしね。……あっ、でも、“巨万の魔石”で究極に美味しい物へ変換させたら……)

(ヘレン アクルゥ、せめてやるなら食べ物で。じゃないと、お腹でもとに戻った時にえらいことになる(忠告))




【護衛チームの目的】

・キースの護衛

・“奈落の魔域シャロウアビス”に残してきた仲間の救出

・金稼ぎは重要ではない



(ビリー ある意味で、厄介だな。特に、仲間の救出の可能性が、“巨万の魔石”にあるところがなぁ……)

(アクルゥ ううん……確かに、なんとかなりそうなんですけど。いいアイディアが、思いつかないんですよね)

(ヘレン …………、GM。ヘレンたちは、ある程度は事情はもう知っている前提でいいよね?)

GM はい。“奈落の魔域シャロウアビス”で起きた事象も含めて、参加してきたセッションぐらいの情報は得られています。

(ビリー おっ、名探偵ヘレンの再登場か?)

(ヘレン ビリーも考えろ)

(アクルゥ わ、わたしも頑張りますっ。ハイ!)




【強盗チームの目的】

・“巨万の魔石”の入手

・金稼ぎは重要



(ビリー いやぁ、こいつら、シンプルでいいわ。難しいこと考えてなくて(笑))

(アクルゥ 強盗なんですけど、なんか無邪気なヒールみたいな?)

GM 1点補足しておきます。彼らの目的ではありませんが、強盗チームは基本的に

(三人 えっ!!?)

GM ああ、皆さんに作ってもらったデータや設定をもとに、背景をこちらである程度作らせていただきましたが、彼らは“殺し屋”ではなく、“強盗”です。

(アクルゥ でも、あんなに『殺す』みたいなのを連呼していましたが……)

GM いや、あれはあれでいいんですが。まあ、組織では“殺し”は仕事だったんですが、組織崩壊後はそういうのが嫌で、無駄な“殺し”はしないぐらいです。別に、必要であれば“殺し”はします。

 まあ、そういったところを眼鏡の男は気づいて、一緒についてきているという感じです。『殺す殺す』言っているのは、昔の名残みたいなものだと思ってください。

(ヘレン ……となると、ますます、放っておけない)




【キース・アイデンスの目的】

・“巨万の魔石”の共和国への持ち込み

・“奈落の魔域シャロウアビス”に残してきた仲間の救出はしたいが、諦めている

・金稼ぎは不要




(ビリー こいつなぁ……、絶妙に面倒臭ェ)

(アクルゥ 困りましたよねぇ。それに、強いですし。たぶん、守りの強い護衛チームと攻撃力のあるこの人がいると、戦闘では勝ち目がほとんどないんですよね(苦笑))

(ヘレン ……でも、最初の目的“巨万の魔石”は、実際には優先順位はかなり低いはず)

GM その通りです。そもそも、キース・アイデンスの目的は、いずれも強い気持ちが存在していません。

(アクルゥ もしかして、一番説得しやすいってことですか?)

(ビリー いや、そう簡単に、うまくいくとは思えねぇな(苦笑))




GM ちなみに、眼鏡の男の目的は、行方不明だった学者を元に戻したことでほぼ達成。後は“巨万の魔石”について少しでも研究させてくれれば、全面的に協力をしてくれるそうです。

アクルゥ (ぽつりと)正直、“巨万の魔石”なんてない方が、うまくいきそうな気がしますよね……。

ビリー いっそ、この列車の窓から、捨てちまうか?

ヘレン あ……そっか。その手があったか。

ビリー え、マジで捨てちまうのか?

ヘレン そうじゃない。“巨万の魔石”で創るべきモノはほぼ決まっていた。でも、アクルゥが言う通り、“巨万の魔石”そのものが邪魔だった。だから――




「“巨万の魔石”を、“奈落の魔域シャロウアビス”で発生した“魔道機化の病”の特効薬作成魔道機に変換する――」



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