chapter14 彼女を選んだとしても、彼女は私を選ばない
汽笛が鳴り響き、魔道列車デザートイーグル号の車輪がゆっくりとだが、回転し始める。
線路の周辺の戦いは、最初は列車の護衛側は多勢に無勢ともいえる戦力差はあったが、強力な範囲魔法が飛び交うと、次々とその戦況はひっくり返り、襲ってきた“
陽動も兼ねた蛮族の裏側で、魔神たちも列車に乗り込んでいったものの、そちらも
“
別に、彼らが全員仲間という訳でもないにも関わらずだ。
そして、列車が動き始めると同時に、外の蛮族たちは全員倒される。
まだ、列車は亀ほどのスピードしか出ていないが、もう数分で列車はスピードに乗り始めるので、列車に雇われた護衛たちは、戦利品を拾うこともなく、次々と列車に乗り始めるのであった。
カスロット砂漠の夜空には、少しずつだが、東の方からうっすらと夜明けの前兆が見え始めていた――
GM/ハイエ 「どうやら、機関室に蛮族が入り込んでいるみたいだよ!!! 僕たちは、運転室にいた蛮族を倒したから、そっちはお願いしてもいいかなー!!?」という声が、先頭の機関列車から、エルフのハイエから、ビリーたちに声をかけられる。
ビリー はっ、この状況で疑う理由はねぇ! 機関室にこのまま突っ込むぜ、ヘレン!
ヘレン 列車ももう動き出すし、ずっと走りっぱなし。一息もつけない。ヘレン、この戦いが終わったら、甘い物いっぱい食べる……。
ビリー (走りながら)お前、それは死亡……いや、脂肪フラグか。太るぞ。
ヘレン (こちらも走りながら)――それは、身長と胸にいくから、大丈夫。
ビリー (ヘレンの体型を見て)どうやら、目に砂が入っちまったようだ。涙が止まらねぇ……。
ヘレン (
GM そんなところで、機関室にたどり着きます。
ビリー (ドガッと扉を蹴り開けて)“ビリー・ザ・ソニック”、華麗に参上!(拳銃を構えて)
ヘレン その保護者、ヘレン参上っ!(メイジスタッフを構えて)
(アクルゥ (羨ましそうに)いいなぁ……(ぽつり))
GM えっと……老婆とポーズ決めてみます?(フォローのつもり)
(アクルゥ なんでですか!?(一同笑))
ヘレン (ころころ)魔物知識判定は成功。
GM レッサーオーガ二体と、魔神インプ五体が、機関室を襲撃しており、魔道機関を守るために、すでに負傷者が出ている状態です。
ヘレン インプは、ヘレンに任せるといい。今日、何度目かの〈ファイアボール〉! (ころころ)インプ全滅。フフ、まだ、
ビリー ヘレン、お前……まだ、
GM/レッサーオーガ 瀕死の状態で、ビリーに攻撃してきますが……避けられますよね。
ビリー 仕方ねぇ。レッサーオーガに止めを刺すぜ……。「あばよっ。来世では、もうちっとマシなもんに生まれ変わるんだな!」
GM では、これで戦闘終了します。機関室も無事なので、列車は問題なくスピードをどんどん上げていきます。
ヘレン 苦手だけど、操霊魔法の回復魔法を、負傷者に使っておく。
一等車両のコンパートメント個室。
ひとしきり、キース・アイデンスの笑いが空しく響き渡る。
そこには、自称貴族の優雅さや余裕はなく、ただただ絶望や虚無、そして狂気を混ぜた聞いている者を不安にさせる笑いであった。
「――残念だが、色々とここまでのようだな……」
襲撃をしてきた“
まるで、同じモノを見るかのように、部下であるはずのセイゲンやアターシャも見る。
そして、その瞳を見た瞬間。
セイゲンは
「アターシャ、そこから離れるでござるッ!!」
キースの銃口は、アターシャの方を向いていた……。
アターシャ クッ! 私の実力では、キース様――キースの攻撃をよけられんっ!
GM/キース いや、キースは銃口を即座に、ディアボロに向け直す。ただし、アターシャを、逃がさないように乱戦に巻き込む。
*ここで、キースに仕えていたルーンフォークのメイドの関係性を簡単に説明する。護衛メンバーでも知っているのは、護衛隊長とそれに近しい者だけ、という注釈つきで。
GM キース・アイデンスの今回の旅の目的は――このカスロット砂漠のオーロラに下で、ルーンフォークのメイドに“プロポーズ”をすることでした。
(護衛チーム三人 ……)
GM そこまでは、護衛チームとして知っていてもおかしくはありません。そして、彼女が“
ただ、さらに踏み込んだ事情は、君たちの隊長ぐらいしか知らないことだし、恐らく、護衛チームの三人とも、これまでのやり取りから、キース・アイデンスの詳しい事情には興味はないと、認識しています。
もしも、皆さんがキース自身に個人的に興味がある、というのなら、もう少しお話しますが。ただ、その内容は、このシナリオ的に重要な意味を持つ訳ではありません。
(護衛チーム三人 それは……(言葉に詰まる))
(ジャンクォーツ ウェイ……ってことはだ。キース様は、その婚約者であるルーンフォークのメイドさんが、“
GM いいえ。“
(セイゲン ――それは……いや、拙者からはもう言うまい)
(ジャンクォーツ セイゲンのおっさん、それはどういう……? あ、あぁー……(察した))
(アターシャ ……ムム、どういうことだ?)
GM そうですね。付け加えるとしたら、キースに仕えていたメイドの薬指には、いずれの時間軸でも、指輪をつけていませんでした。
そして、キースの持っている“巨万の魔石”――箱の中身は、極小のマナチャージクリスタルが埋め込まれた指輪……だったモノです。
*【サノバガンこそこそ噂話8】キース・アイデンスはカスロット砂漠の夜空の下、仕えていたメイドさんに、プロポーズを断られているよ。
GM/キース 「まずは、そこの蛮族を片づける。異論はあるまい? なあ、セイゲン、アターシャ?」と、濁った瞳で、笑いかけます。
アターシャ (先ほどの話を少し考えながら)……しかし、私はキース様に乱戦状態に持ち込まれているのだろう?
セイゲン ……今は、目の前のディアボロを撃破するでござるよ! そして、できれば、キース様とは話し合いでなんとかしたいところ……いや。するでござるッ!
アターシャ 不本意だが、仕方がない、か……。ジャンクォーツがいない以上、攻撃手段は私たちでは乏しいのだが、蛮族優先だな。
GM では、行動宣言をお願いします。
アターシャ (懐からぬいぐるみを取り出し)……く、すまない、わが友っ! 〈カース・ドール〉!(ぬいぐるみを破壊) ああ、抵抗されてしまった……。
GM/ディアボロ えぇぇ、逆恨みもいいところだよ!?(笑) ダメージ半減なんで、まだまだ大丈夫です。
セイゲン 拙者は、《ディフェンススタンス》を維持しつつ、……“巨万の魔石”に〈インスピレーション〉を使用するでござる。夜明け前なので、ここが使いどころであると見た!(ころころ)
GM それでは、“巨万の魔石”について説明します。
まず、その元になった物は、魔道列車の動力源と同じ――“マナチャージクリスタル”をはめ込んだ指輪となります。サイズは小さいので、MP1点を自動回復するものですが、希少価値はあるので、そこらの宝石よりも断然お高いです。後、指輪そのものもシンプルながら、お洒落な装飾もされている感じです。普段から身に着けても、いい感じに……。
(ジャンクォーツ めちゃめちゃ、いたたまれないアイテムっしょ!?(苦笑))
(アターシャ 言うな、ジャンクォーツ……)
GM さて、それが例の“
正確には、これは魔道機と魔神の性質を持っています。
一同 魔神!?
GM この変質した“マナチャージクリスタル”部分は、実は目に見えない
(セイゲン それは、破格の効果でござるが、かなりの危険物ではないか……?)
GM そうですね。ただし、生命抵抗で対抗はできます。また、造り替えることができるのは、“常に単体のみ”なので、二体目以降は一体目を解除しないと、次の対象を選択できません。
(アターシャ しかし、“巨万の魔石”か……確かに、それだけの価値はあるかもしれんな)
(ジャンクォーツ 元が、フラれた男の婚約指輪でなければ、完璧だったっしょ)
(アターシャ だから、言うな!(笑))
セイゲン キース様……あなたは、その“巨万の魔石”で何をなさろうとしているのでござるか……?
GM/キース 「何を……? 何も」と空虚な笑みを浮かべる。「私に成したいことはない。何もない」
セイゲン しかし、それを使えば、もしからしたら、あの魔域で死んだ者を、復活させることも可能に……。
アターシャ そ、そうか。それも……!
GM/キース 「それで、誰を選ぶ? これで救えるのは一人のみ。例え、私が彼女を選んだとしても、彼女は私を選ばない」
一同 ぎゃーっ!? コイツ、面倒くせぇ!!?
(ジャンクォーツ ウェイ!? キース様……なんか一気に、悪党らしさがなくなったっしょ!? むしろ、謎の親近感すら覚えるこの感覚ッ!(笑))
(セイゲン う、ウム。なんというか、その……子供の屁理屈を聞いているような気分になるでござる)
GM ああ、ソレです。ソレ(笑)。甘やかされて育てられ、能力も高かったせいか、挫折もしてこなかった。
今回のプロポーズ失敗は、初めてキースの挫折だったのかもしれません。権力があるいい大人が、ふてくされるとスゲー面倒なんです……ええ(遠い目)。
(アターシャ GMの実感込めた感じがヤバいわよ!?(笑))
GM/GM? 「フハハハハ、
一同 誰ッ!!?(爆笑)
*閑話休題。
GM/キース そして、若干、置いてけぼり感のあるディアボロに対して、キースは八つ当たりのごとく、銃弾を放つ!(一同:大人げねぇ!?(爆笑))
懐からもう一つの拳銃を取り出し、二丁拳銃で〈レーザー・バレット〉を撃つ。これで、ディアボロはHP半分ぐらいになります。
アターシャ 強い……。しかし、複雑だな。
セイゲン う、うむ。キース様はレベル13でござる。敵対することは、あまり考えたくないでござるな。
GM/ディアボロ 「(傷を押さえながら)ここまでとは……仕方がない。《魔人化》! その“巨万の魔石”さえあれば、“
(アターシャ クッ、もう情報量が多くて、私では処理しきれん……、このディアボロにもなにか設定があるのか!?)
GM あ、単に共和国で失敗して、“
(三人 あー……そういうこと)
GM 少しだけ補足すると。それで無理やり集めた蛮族なんかも、自分の実力よりもかなり弱い連中しか集められなかった、という背景があります。
セイゲン 残念だが、拙者を倒さぬ限り、ここを通すことはまかりならぬでござるッ!
GM/ディアボロ 「うるさい、邪魔だぁぁぁ、人族めッ!!!」
ディアボロから膨れ上がる
元来の魔神でないディアボロ自身の身体も蝕むこの力は、半ば暴走に近い形で、解き放たれる。そして、鉄壁を誇るセイゲンや、英雄ともいえる実力を持つキースでも防ぎきることはできなかった。
そして、この中で一番華奢であるアターシャが、重傷を負うことになる。
口元の血をぬぐいなら、アターシャはひとりごちる。
「今の攻撃をもう一度受けると、さすがにまずい……な」
アターシャは、この場にジャンクォーツがいないことに、少しばかり弱気になる自分と、それを否定するもう一人の自分がいることを感じていた。
仕えている主――キース・アイデンスが、純粋に味方であったのなら、回復も簡単であったであろうが、この状況下ではどうなるのか分からない。
もう少しだけ、自分に正直になっていればよかったかもしれない。
そして、そんな自分はキースのことをどうこう言う資格はないのかもしれない。
そんな風に、自嘲気味なことを考えていた。
そんな一等列車の窓ガラスが割って、入ってくる人影があった。
そこには――
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