chapter12 お互いに天敵であると本能で理解している

GM さて、今度は一等列車の護衛チームです。

(三人 お、おう)

GM 時間軸も、何度も巻き戻るようで恐縮ですが、“蛮族列車強盗団バルバロス・トレインレイダーズ”の襲撃の少し前です。




セイゲン ……ジャン、アターシャ。少し様子がおかしいでござる。仮眠中すまんが、起きるでござるよ。

ジャンクォーツ ……んが、うぇい……もう交代時間~? ……って、なんか列車停まっちまってるんだけど。なんかあったっしょ?

セイゲン どうやら、列車前方にケガ人が見つかったと車掌殿に聞いたでござる。……しかし、どうにも落ち着かん。念のため、全員キース様のそばに仕えるべきだろ思ってな。起きて支度をするでござる。

ジャンクォーツ ふわぁぁぁぁぁ……ウェイ、しゃあね、起きるっしょ。(あたりを見回して)……アターシャちゃんは、もう行っちゃった?

アターシャ (ぬいぐるみを抱きしめながら、可愛く寝息)すぴー。

一同 可愛いかよ!?(笑)

ジャンクォーツ うぇい、そりゃずるいっしょ(笑)。ちょっと、起こしづらい!?

セイゲン (アターシャを揺り起こして)アターシャ、起きるでござるよ。アターシャっ。

アターシャ (がばっと起きて)……なんだ、セイゲン。なにかあったのか?(キリッ)(一同笑)

GM ともかく、支度を終えて、キースのいるコンパートメント個室に戻る途中のこと。デザートイーグル号の初日に夕食を持ってきた女給仕とすれ違う。早朝の調理準備の手伝いなのか、結構大きな荷物を持ってヨタヨタと、狭い通路を歩いている。




 現在、魔道列車デザートイーグル号は、かなり慌ただしい状況になっていた。

 夜明け前後は、早朝の乗務員の食事や、乗客の朝食の準備に加えて、この砂漠が暑くなる前のメンテナンス準備などが行われる。

 本来であれば、女給仕はまだ寝ていられる時間であったのだが、先ほどの緊急事態で、ベテランの同僚たちはケガ人の急患の手伝いとして駆り出されていた。

 そして、そういったスキルのない女給仕は、早朝の調理手伝いの方に交代となったのであった。



「ウェイ、そこのおねーさん、大丈夫? オレ、ちょっと手伝おうっか?」

 共和国で流行りの髪型で、ピアスをした青年は、狭い通路でぶつからないように端によけていた女給仕に、片手で“壁ドン”をするかのように、少し距離が近い体勢で声をかける。

「あっ、いえ、その……」

 ワタワタと、慌てる女給仕はまともに言葉を返すことはできない。


「おい、ジャンクォーツ。何をナンパをしているっ。通路の邪魔だ。さっさとその邪魔な図体をどけて、キース様の元に向かうぞ」



 不機嫌を隠しもしないアターシャの声が、ジャンクォーツに容赦なく浴びせかける。

 だが、それに対して、へらっとした軽い口調で返す。



「いやぁ、可愛い女の子なら手伝うのは当たり前っしょ? もちろん、アターシャちゃんもその一人だけどね♪」



 黙ってさえいれば、モテると護衛仲間によく揶揄やゆされるジャンクォーツのウィンクを、前方のアターシャに飛ばすものの、整った眉をひそめるだけであった。

 そして、そんなことをふと思い出してしまったアターシャは、少し俯きながら強い口調で言い返してしまう。


「勝手にしろ、ジャンクォーツ。私たちは、先にキース様の元にいく。貴様は、そこでナンパでもなんでもしていろっ」


 少し荒い足音を立てながら、先頭車両の方へどんどんと歩くアターシャを見てセイゲンが慌てながら、ジャンクォーツに声をかける。


「アターシャ、待て。……まあ、キース様も拙者たちを呼んでいる訳ではござらん。ジャン、そちらの女性をお助けした後、一等列車まで来てくれ」

「ウェイウェイ。しかし、あららー。アターシャちゃん、怒っちゃったっしょ」

 同僚である二人の背中を、苦笑いで見送った後、ジャンクォーツは笑顔で、女給仕に声をかける。




ジャンクォーツ つーわけで、その荷物を食堂車まで運ぶの手伝うっしょ。可愛いおねーさん?

GM/女給仕 「はい、いいえ!? その、お客様にお手伝いしていただくことは……」

ジャンクォーツ いいのいいの。そのお客様からのご要望なんだから、受けて入れてちょうだい。

GM/女給仕 「ちが、えっと、そのあたしは……婚約者がいるので!? そういった、そのナンパは困りますっ!!」

ジャンクォーツ (笑顔のままで)うぇいうぇい。別にナンパじゃなくって、純粋なお手伝いだから、気にしないでいいっしょ(荷物の大半を持って)。んじゃ、行こうか?



GM ……本当に、二手に分かれてよかったんですか?

(ジャンクォーツ まあ、オレはスカウトとかないけど、キース様はオレたちよりも強いし、なんかあっても大丈夫かなーって。それよか、この後のことを考えると、先頭車両に戦力が集まり過ぎているのが、ちょっと気になっちゃったっしょ)

GM フム……では、まずは、先頭車両の方から処理しましょう。



GM という訳で、セイゲンとアターシャは、キースのいる一等車両にたどり着きました。窓から見える外の光景は、ちょうどケガした人が列車のそばに運び込まれているところです。

セイゲン キース様、戻ったでござる。

GM/キース 「ああ、すまないね。おや、ジャンクォーツの姿がないようだが?」

アターシャ フン。あいつは今、ナンパで忙しいようだ。

セイゲン いやいや、違うでござるよ。少し困っていた女性を助けているところでござる。

GM/キース 「そうか。まあ、別に構わないよ。それにしても、砂漠の真ん中で、ケガ人ね……砂漠の民かなにかだろうかね?」

セイゲン さて、拙者には分かりかねますが……。

GM そう言ったところで、ケガ人がレッサーオーガになり、“蛮族列車強盗団バルバロス・トレインレイダーズ”の襲撃が始まります。

 そして、一等列車には車掌がやってくる。

  /車掌 「アイデンス様。安全なところへご避難ください! ここは危険です」

  /キース 「……避難は不要だ。私たちは、私たちで戦う力がある」

セイゲン それでは、キース様。拙者たちはあの襲撃に参戦を?

GM/キース 「いや、もう少しだけ様子を見ようじゃないか。見たところ、ほとんどは取る足らない蛮族ばかり。唯一、あの列車強盗のリーダーらしき蛮族だけは、少しはやれそうだが……」

セイゲン しかし、あれだけの数……、犠牲者が出るやもしれませぬっ!

GM/キース 「セイゲン。私の言葉が聞こえなかったのかな? 私は少し様子を見ると言ったのだ」

セイゲン く……分かりました。

アターシャ ……。

GM/キース 「車掌も、伝えた通り、私たちは避難はしない。こんなところで時間を取るより、他の乗客のところに行きたまえ」という言葉を受けて、車掌も畏まりましたと言って、部屋から出ていく。




 ……。

 …………。

「うぇーい。来年、結婚をねぇ……。まあ、オレはこう見えても結構強いから、なにがあっても、オレが守ってやるっしょ」

 女給仕の事情を少し聞いたジャンクォーツは、落ち着いた声で、妖精武器化したレイピアを構える。

 全属性を付与しており、かつ、魔法武器化をした美しい装飾のされた剣である。

 そして、それを扱うジャンクォーツの熟練度は、実は妖精魔法使いフェアリーテイマーとしての実力と比べても、勝るとも劣らない一流レベルであった。



「傷一つなく、無事にその婚約者に会わせてあげるっしょ!」



 そして、ジャンクォーツが相対しているのは、食堂車の連結部の扉から入り込もうとする“双子の魔神”であった。




GM セージもスカウトもないジャンクォーツでは、さすがに魔物知識判定も先制判定も無理か。双子のような2部位を持つ一体の魔神が、襲い掛かってくる。

ジャンクォーツ (気楽に)まあ、こっちは妖精魔法で召喚もできるから、なんとかなるっしょ。うぇい、攻撃カモン!

GM/双子の魔神 「「キャハハハ、死んじゃえーッ」」と声を揃えて、“双子の魔神”は、空を飛びながら2部位の同時攻撃をしてきます。命中15。

ジャンクォーツ ……ん、思った以上に強くはない? 4以上で回避可能――楽勝っしょ!

 そして、オレの手番では、前回の反省chapter6を活かして選んだ属性――範囲魔法が使える“炎”の妖精魔法! 《マルチアクション》で〈ファイアブラスト〉+近接攻撃! よっしゃぁ! クリティカルして、炎の23点ダメージ。双子の右側に、レイピアで……。こっちも、クリティカル!

GM/双子の魔神 「ギャアアアァァァァ!!!」「み、ミギノぉぉぉ!!?」と右側が落ちます。まさか、一人でここまで、圧勝されるとは……。



 *そして、ジャンクォーツにこれ以上魔法を使わせることもなく、魔神を落とされる。尚、ジャンクォーツの行動で、食堂車の立てこもり(二等列車と三等列車の行き来防止)フラグが未然に防がれたことになる。



ジャンクォーツ ウェイ! これで婚約者がいなかったら、女給仕ちゃんも、マジ、オレに惚れるっしょ!

一同 (苦笑しながら)そうだね……。

GM えっと、じゃあ、その期待に応えて。

  /??? 「な、なんて、素敵ザマス!? あたくしの騎士ナイト様!!!」と一等列車から避難してきた、熟年のご婦人の黄色い歓声が……。

ジャンクォーツ ちっげーっよ!!?(一同爆笑)



(アターシャ しかも、ザマスって(笑)。……よかったな、ジャンクォーツ。恐らく、相手はお金持ちだぞ)

(ジャンクォーツ オレはお金より、もっと大切なものが欲しいッ(笑))



GM さて、再び、キースのいる一等列車。

 激しくノックがされて、焦る声で「この列車に、蛮族が乗り込まれました! 急いで、避難をお願いします! ここを開けてください!」と、何度も扉を叩く。

セイゲン そんなに叩かなくとも、今、開け……ム?

アターシャ 「セイゲン、おかしい。ついさっき車掌が来たばかりだぞ。……確か、人間に化ける蛮族レッサーオーガが入り込んできたな……」ここは、真偽判定を……。

GM/キース と、真偽判定をする前に、キースが黙って銃を抜いて、扉に向かって銃弾を撃つ。

一同 えっ!!?

GM/扉の向こう 「グギャアアァァァ!!? ……ナ、なんデ、分かっタ……」と蛮族語が聞こえてくる。

セイゲン き、キース様!? もしも、間違えたら、とんでもないことになっていたでござるッ!?

GM/キース 「――私は、避難は不要だと一度伝えただろう。それを守らなかった者に、を与えただけのこと。相手が、蛮族だろうか人族だろうが、関係はないだろう?」と穏やかに笑う。

セイゲン そ、それは……(絶句)。

アターシャ わ、私は蛮族語は分からないので、咄嗟に扉を開けて、外の様子を見てみるが。

GM 列車の床には、《人化》が解けて、元の姿を現したレッサーオーガの死体がある。

アターシャ (少し一安心して)どうやら、間違いなく蛮族だったようだ。……しかし、すでに列車内部には、蛮族が入り込んでいるようだ……、が。

GM/蛮族リーダー 「ほう……。まだ、避難していない者が一等列車にいようとはな」と、廊下の向こうから、堂々と歩いてくる上位蛮族の姿がある。

 青黒い肌に、身体のあちこちに黒い宝玉があり、“ティエンス”であるアターシャには、即座にソイツが、蛮族と魔神の融合種“ディアボロ”であることに気付く。




 “ディアボロ”――魔法文明時代末期に生み出されたという蛮族と魔神の融合種で、魔人化と呼ばれる凶悪な姿を取ることができる上位蛮族にあたる。

 その中でも、アターシャの目の前にいるディアボロは、かなりの歴戦であると思われるたたずまいをしており、実力で言えば、アターシャよりも上であろう。


 そして、アターシャの生まれ――“ティエンス”もまた、魔法文明時代末期に魔神を殺すために生み出された種であり、身体の一部に宝玉が生まれつき埋め込まれており、光り輝いている。

 そして、ディアボロにも同じような黒い宝玉が輝いており、まるで対のように存在するこの二つの種族は、お互いに“天敵”であると本能で理解しているのだ。




アターシャ ディアボロか……殺すッ!!!

GM/ディアボロルテナント(以下、ディアボロ) 「弱小種ティエンス如きが……吠えるなッ!」

セイゲン 待て、アターシャッ!? 狭い廊下そこで戦うのはまずいでござる。一歩引くでござるよ!!



GM はい、ここで戦闘に入ります。敵はL10のディアボロルテナントが一体のみ。

(アターシャ 確か、狭い廊下では1対1タイマンになるのだったな……。しかも、私たちだけでは先制は取れないではないか……)

GM いや、そこは安心してください。キースはスカウトL11です。

(セイゲン 助かるでござるッ!)

(ジャンクォーツ ウェイ、キース様。スカウトまで持ってるのか……(苦笑))

GM でも、《運命変転》も使わないし、指輪も割らないから、3以下で失敗します。誰がダイス振る?

(アターシャ そこは責任をもって、私が振ろう。(ころころ)6で先制だな)

(セイゲン ウム、こちらもなんとか魔物知識判定は成功したでござる)



GM/キース 「フム、存外……つまらなそうな相手だな。諸君らだけで、まずは攻撃するがいい」とゆっくりと拳銃に弾丸をこめ直している。このラウンドのキースの行動はそれだけです。射線にも入っていないしね。

アターシャ ディアボロルテナントは、魔法が使えず、呪い攻撃をしかけてくるのか……ならば、制限移動で下がりつつ、|〈プロテクションⅡ〉をキース様を入れて、三人に。

セイゲン ならば、拙者は扉の入り口付近まできて、《ディフェンススタンス》をしつつ、自分に〈セイクリッドシールド〉や各種補助で回避と防護点を上昇させるでござる!(→防護点+9/ダメージ減少3/回避+1)

GM/ディアボロ 悲報。すでに、人間形態ではセイゲンへの攻撃がほぼ通らない件について(笑)。

 それでは、こちらは武器攻撃+《魔人の眼光Ⅱ》をセイゲンにします。……はい、よけられましたね(遠い目)。




GM 次のラウンドになりますが――実は、ここでやっと全ての3ラウンド目が終了します。

 ここで、各チームの状況を整理すると以下の通りです。




【冒険者チーム】

ビリー:先頭車両の左外(蛮族と乱戦中/移動不可)

ヘレン:中央車両の左外(蛮族と乱戦外/移動可能)

アクルゥ:後方車両の左外(蛮族と戦闘終了/移動可能)



【護衛チーム】

ジャンクォーツ:中央車両の中(魔神と戦闘終了/移動可能)

アターシャ:先頭車両の中(蛮族リーダーと乱戦外/移動可能)

セイゲン:先頭車両の中(蛮族リーダーと乱戦中/移動不可)



【強盗チーム】

“ハイエナ”:中央車両の右外(魔神と戦闘終了/移動可能)

“サソリ”:中央車両の右外(魔神と戦闘終了/移動可能)

“アナグマ”:中央車両の右外(魔神と戦闘終了/移動可能)






 ……。

 …………。




 魔道列車デザートイーグル号の機関室。

 一度、停止させてしまった魔道機関モーターを再起動かけるために、マナチャージクリスタルを使いながら、回転数を徐々に上げていく。

 機関士たちは、慌てることなく、それでいて迅速に作業を行っていた。

 その機関室に、レッサーオーガたちが乗り込んでくる。

 何事かと、振り返る機関士たち。

 その背後から、複数の魔神たちの姿もあった。




 先頭の運転席にいるドワーフの運転機関士は、すでに息も絶える寸前であった。

 突然乗り込んできたレッサーオーガに襲われ、椅子にぐったりと血まみれで倒れ込んでいる。

 レッサーオーガは、ドワーフの胸――心臓あたりを、ヨダレを垂らしながら見てやっていた。




雑魚フッド風情がうっとしいんだよッ!? この“ビリー・ザ・ソニック”に敵う訳、ねぇだろッ!!!」

 巧みに、敵味方入り混じる乱戦の中を駆け抜けながら、この戦場を支配していく。

 つい先ほどまで、絶望するしかない戦力差があったのにも関わらず、たった一人でバイクで乗り込み、この戦況を覆した男。

 自称イケてるガンマン――しかし、この男の逸話に嘘偽りなし。

 雇われた列車の護衛たちは、このガンマンの背中を見て、この後の勝利を確信するのであった。




 先頭車両付近の乱戦。

 目の前の、蛮族に優勢になりつつある中央車両付近の乱戦。

 そして、後方の勝ちとき

「ヘレンは、ビリーの保護者。だから、先頭車両に行く。うん、決定」

 誰かに聞かれている訳でもないのだが、ひとりごちる。

「……それに、先頭列車付近に……“奈落”の、気配?」

 失われたはずの目から、ジクリとした痛みを感じる。

 顔に覆われた包帯を少し手のひらで抑えながら、先頭車両の方へと足を向ける。




「ビリーさんやヘレンさんがいるんです。もう、外は大丈夫でしょうか……?」

 戦闘に勝利した後方列車の護衛たちは、中央列車の付近に目をやり、急いで向かい始める。

 そこで、アクルゥには、数日間とはいえ、一緒に列車に乗ってきた人たちの顔が浮かぶ。

 あまりお金のない、ちょっと擦れた印象を与える人が多い後方列車の乗客たち。中には、あの老婆のように、騙くらかそうとする人もいるが、どうにもその“したたかさ”は嫌いにはなれなかった。

 ロクでもない連中筆頭――“ヤモリの尻尾”の常連客なんかも、なんだかんだ言って、バカ騒ぎはするものの、本気で嫌がることはしない人ばっかり――いや、セクハラみたいな行為には、容赦なく実力こぶしで語ってあげたが。

 嫌な恥ずかしい記憶も一緒に思い出してしまったが……ともかく、後方車両の人たちが心配になり、様子を見ようかと思案する。

 そう考えて、アクルゥ・ベドウィヌは、後方車両の列車の方へ、走り慣れた砂漠の上を駆けていった。




「ウェイ。セイゲンのおっさんは、頑丈だから大丈夫だけど。ああ見えて、アターシャちゃんは割と弱いところもあるから、助けに行こうかなっと」

 そう呟きながら、列車の屋根に登っていく。

 斥候などの技術を一切持たないジャンクォーツは、下手に狭い列車の廊下よりも、屋根の上からの方が確実に向かえそうだから、という理由で登っていく。

 では、なぜ列車の外ではなく、少し危険が伴う屋根なのか。

「こういう時は、やっぱ、英雄ヒーローは屋根の上から登場っしょ!」

 幼い頃に聞いた英雄譚では、列車の窓を破って、颯爽さっそうと現れるというのがあった気がする。

 記憶があいまいで、登場したのが英雄だったのか悪党だったかはすっかり忘れていたが。

 それは、ジャンクォーツの残念なところでもあるかもしれないし、いいところなのかもしれない。




 列車の右側を、足音もなく駆け抜ける三人。

 速さで言えば、大柄であるが獣人リカントである“アナグマ”が一番で、“ハイエナ”、“サソリ”の順番になる。

 遅れがちな“サソリ”を、たまに“ハイエナ”が振り返り、先行する“アナグマ”に少しスピードを落とすようにと声をかけている。


 社交性がある“ハイエナ”を除いて、昔いた組織連中でも“アナグマ”や“サソリ”は笑っている姿を見た者はいない。

 しかし、熊顔が笑うと、牙むき出しで、『笑顔とは本来攻撃的なものであり……』とか思い出すぐらいだし。

 “サソリ”に至っては、指で口角を伸ばして「にっこにこ」と言って、笑っていた。

 まあ、そんな二人の笑顔もなんだかいいもんだ……と思える“ハイエナ”も大概ではある。そんな分かり辛い笑顔ではあったものの、こうして、砂漠を駆けるだけでも、三人は心の底から楽しんでいるのであった。


 例え、それが数メートル先で蛮族や魔神たちに列車が襲撃されていようとも。

 彼ら三人には、関係のないことであった――




 一等列車の特別車両。

 そこには、一人の蛮族ディアボロと、盾を構えたリルドラケンセイゲンと、少し離れたところに、ティエンスアターシャと、宮廷服を着たキースたちが、一触即発の状態であった。



 ただ、鉄壁の構えディフェンススタンスをするセイゲンを前に、ディアボロはこのままでは勝ち目はないことにうすうす気付いていた。しかし、そんなことよりも、先ほどから気になることがあり、思わず口にする。



「貴様のところから、“奈落”の匂いがする。何を持っている?」

 後ろで優雅にことを構える貴族風の男性に、ディアボロが視線を送る。

 そして、その言葉の内容に、思わずキースの方へ、セイゲンやアターシャも視線を向けてしまう。



 しかし、その言葉に初めて動揺を見せるキースの姿があった。

「まさか、この“巨万の魔石”から?」

 一瞬、呆然と懐から箱を取り出すキース。



「そうだ、その箱のから、ひどく臭うぞ」



 キースはその言葉の意味を咀嚼し、すぐに合点がいったのか、その瞳から薄暗い光が宿る。



「……そうか、そういうことか。もはや、これはそういった類に堕ちたモノなのか――……く、ふは、くくくっくっく」




 あの“キース・アイデンス”とは思えない笑いに、セイゲンたちはなにか、とてつもなく嫌なものを見たのを感じる。



「そうか。“奇跡”は――無かったのだな……」



 それは、まるで。

 暗い、黒い、深い、奈落の底からのような笑顔だった。






 魔道列車デザートイーグル号の騒乱は、まだ終わらない。






ソードワールド2.5リプレイ・サノバガン!

「砂漠縦断列車で、ロクデナシ共と踊る(中編)」――END.


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