chapter11 暴れるなら、気持ちよく何も考えずに楽しく

「……テき、来ル」

 ぼそりと呟いたのは、常に熊顔になっている獣人リカントの“アナグマ”であった。

 その為、リカント語でしゃべっており、勉学が得意とは言えない機械人間ルーンフォークの“サソリ”もリカント語を必死に覚えたという経緯がある。

 一方で、“ハイエナ”はそれなりに語学は達者で、大陸の共通語やエルフ語以外にも五種類の言語を操ることができる。

 その一つである蛮族語により、今回の列車襲撃が“蛮族列車強盗団バルバロス・トレインレイダーズ”であることに気付く。


「アハハハ、いやぁ、これは“ひょうたんから駒”だね」

「ひょうたんからコマ、デス?」

「あー、まあ、“嘘から出たまこと”と言いかえようか。ともかく、逆にこれはチャンスだよ」


 “ハイエナ”が考えていたのは、そんなに難しい話ではない。

 単に、噂話程度に列車強盗の話を少しでも広めておき、この魔道列車デザートイーグル号での理由を作っておきたかっただけだ。



 例えば、この列車に乗っている“巨万の魔石”が盗まれた時のために。



 “ハイエナ”は、遠謀深慮えんぼうしんりょではない。

 だから、今回のこの噂話も、うまくいけばいい、ぐらいの軽い気持ちでそれとなく広めていた。結果的に、の“蛮族列車強盗団バルバロス・トレインレイダーズ”が出ようが出まいが、関係はない。

 やることは、シンプルに誰よりも早く奪い取る――“ハイエナ”も、ゴリ押しで物事をなしたいタイプなのだ。



 過去の経緯で、まともに教育を受けられなかった“サソリ”や“アナグマ”は、年相応以下に常識や知識が大きく欠如している。

 そして、実年齢で言えばエルフの少年である“ハイエナ”が年長者であったから、仕方なく考えて物事に対応しているだけなのである。




 大熊の獣人リカントである“アナグマ”は、実年齢で言えば10歳以下。

 生まれてから年を取らない機械人間ルーンフォークの“サソリ”にいたっては、4歳である。




 とある組織で育てられた彼ら三人は、余計な教育は受けさせてもらえず、ひたすらに肉体技術を叩きこまれていた。


 唯一、持前の知力と見た目のことがあり、“ハイエナ”だけがいくつかの言語を覚える機会に恵まれたのである。

 そして、組織崩壊後も“殺しの技術”と“壊れた価値観”以外、何も持たない“サソリ”と“アナグマ”では、まっとうな生活をおくれる可能性は極めて低かった。



 その為、あの灼熱と極寒のカスロット砂漠で、である彼ら三人は、飲まず食わずで過ごしたことも幾度とある。

 それでも、なまじ頭のいい“ハイエナ”は、兄弟のように育った二人を見捨てることもできず、こうして強盗として裏街道を生きてきたのであった――




 *【サノバガンこそこそ噂話7】噂話3の補足。強盗三人組は、闇組織の教育方針で魔法技術を教われなかったよ。唯一、“ハイエナ”だけがセージ技能をなんとか取得したんだ。

 ちなみに、“アナグマ”は《獣変貌》をとくと、実は美少年らしい!?(一人称オデ系美少年)




GM 今回は、大規模戦闘前後の強盗チーム編になります。ここで、うまくことを運ぶと、他のチームの敵が減ったりします。

(三人 おおおー!?)

GM 君たちの目的は、邪魔する列車強盗たちを蹴散らしながら、一等列車を目指すことになります。

(“アナグマ” みなゴロし! オデ、大好キッ!)

(“サソリ” やるデス、やりまくりデスッ! ぶっ殺しデスデス!)

(“ハイエナ” うわぁ……テンションたっかいなぁ(苦笑)。まあ、僕ら三人ともが肉弾戦しかできない脳筋だから、難しいことは考えなくていいのはイイね!)

GM さて、全員が9レベルのスカウトやレンジャーをお持ちの皆さん。異常感知判定をお願いします!

(三人 成功(デス)!)

GM では、今回の列車強盗の大規模襲撃ですが。不自然に列車の左側に寄っていることに気付きます。そして、そこで右側の窓から外を見ると危険感知20で判定願います。全員《暗視》持ちなんで、ペナルティはありません。

(“サソリ” ギリギリ成功デス)

GM 他の二人は、さすがに失敗ですね。では、二等車両の方へ、なにもない砂漠に足跡だけが近づいてくることに“サソリ”だけが気づきます)

(“ハイエナ” ……っと、なるほど。この条件だと、それに気付ける可能性はあるのは、確かに、僕らだけかもしれないね? なんだろう?)

GM (“ハイエナ”が魔物知識判定に成功)敵はレベル9の魔神“ゴードベル”が一体。《完全に透明》能力を持っている通称、“姿なき魔神”です。他にも短距離なら空間移動も可能で、列車内部で戦うとなると割と厄介な能力かと思います。

(“アナグマ” オデたち、魔法使えナい。強敵……)

GM ちなみに、“蛮族列車強盗団バルバロス・トレインレイダーズ”は、時折、蛮族以外にも魔神を使うこともあると聞いたことがあります。

(“サソリ” それで、“ハイエナ”どうするデス? 魔神、放っておくデス?)

(“ハイエナ” あー、なるほど。こいつを放っておくと、列車に侵入は間違いなくされるわけだ。つまり、僕らじゃないが戦うことになるってことか。いやらしいなぁ(苦笑))



“ハイエナ” ……うん、決めた。“サソリ”、“アナグマ”……この襲撃を機会に、僕らは一等車両を右側の外を回って目指すよ。今、列車内の通路は動きづらいからね。

“アナグマ” (頷いて)分かっタ、“ハイエナ”はいつも正しイ。

“サソリ” (小首を傾げて)魔神アレは、どうするデス……?

“ハイエナ” え? そんなの、邪魔するようなら、ぶっ殺していくよ。列車強盗あいつらの登場は都合はいいけど、所詮、“敵の敵”は、僕らの“敵”さ(にっこり)。

“サソリ” 透明になる奴、るの初めてデス(クスリと笑う)。

“ハイエナ” じゃあ、ド派手にいこう! “アナグマ”は列車の窓を叩き割ってくれ。列車内はもっと混乱していてもらおう!

“アナグマ” (巨大なモールを構えて)グガァァッ!!!




 ガッシャーンッというガラスの破砕音と共に、列車から即座に外に飛び出す強盗三人組。



 小難しいことはいい。

 暴れるなら、気持ちよく何も考えずに楽しくやるべきだ。



 この列車に乗っている全員が、今の彼らの三人の気持ちを理解できないものなのかもしれない。

 なぜなら、この状況下で、幼い頃に遊んだ時と同じように、彼ら三人は心の底から無邪気に楽しんでいるのだから――




三人 (ころころ)

GM うん、余裕で先制は取られましたね。強盗チームからの攻撃です。




 まず、最初に魔神に駆け寄ったのは大胆にスカートを捲し上げ、身体を回転させながら“なにもない”空間に回し蹴りを放つ“サソリ”であった。


 その時に、太ももにある『サソリ』の入れ墨タトゥーもチラリと見える。そして、両足のブーツには、小さなブレードが仕込まれていた。

 その際に、波打つスカートの裾と白い太ももの隙間から、ちらちらと見える部分があり、愚かな男性だけでなく、例え、女性であったとしても、最初の彼女の大胆な一撃に、一瞬の動揺を覚えることも少なくない。



 その事実だけを持って、“サソリ”は深く考えもせず。

 “ジンクス”のように、最初の一撃の致命傷の高さを経験則だけで捉えていた。

 そして、組織の教育もあり、羞恥心がほとんどない彼女は、この蹴り技主体の技術を異常なまでに成長させていったのであった。




“サソリ” 《飛び蹴り》からの、《二刀流》+《追加攻撃》で蹴りの四連デス。あはっ♪ 命中低くても、2回命中デス。

 ――命中したので、非合法ポーションを使用。麻痺毒の効果で、回避DOWNデス♪



 *“サソリ”には、非合法ポーションとして、いくつかの毒の効果(生命抵抗有り)があるオリジナルポーションの使用を許可している。使用条件として《ポーションマスター》の戦闘特技の使用、攻撃が命中した時のみとしている。



“ハイエナ” よくやったよ、“サソリ”! これで、僕らも攻撃が通りやすくなる。

“サソリ” (大胆にスカートの裾を手でつまみながら)お任せデス♪

“ハイエナ” 僕も《ファストアクション》+《二刀流》で四連。切り刻むよッ! (ころころ)全て命中! ……ダメージはしょぼいけどね(苦笑)。

“アナグマ” 《ファストアクション》、ツブ、れロッ! (ころころ)27点、28点ダメージ。

GM/ゴードベル 全員の攻撃で、HPが半分以上は削れたね。ただ、多少マヒしても透明能力は伊達じゃない。……一番脅威に感じた“アナグマ”に二回攻撃。(ころころ)さすがに、透明だと命中するか。ダメージは21点、15点。

“アナグマ” グガァァァァ!!

“ハイエナ” うーん、僕らはお金が少ないから、全力で武器にお金を使った分、防具は安物しか買えなかったんだよね(苦笑)。

“サソリ” 《タフネス》+《超頑強》持ちの“アナグマ”ならまだ、大丈夫デス。

“アナグマ” グガァ!(頷く)

“ハイエナ” まあ、そうなんだけど。回復手段も、僕ら少ないからねぇ……。次で、コイツを潰し切るよ、いいね?

二人 (頷く)



GM それでは、次のラウンド。

“ハイエナ” 二刀流! (ころころ)……ごめん、一撃外した。

“サソリ” 三連蹴り、デス! (ころころ)まだ、HP残ったデス……。

“アナグマ” 《全力攻撃》で、ブチ、ノメスッ!!! (ころころ)34点ッ!




 ドガンッという、重い音と共に、砂地に異形の人型の跡ができる。

 黒い染みが、砂地に吸われていくのを眺めながら、“アナグマ”はのっそりとモールを持ちあげて、“ハイエナ”の方を褒めて褒めてと見る。


「ハハ、よくやったよ、“アナグマ”! いやぁ、ちょっと僕らにはちょっと相性悪かったみたいだけど、それでも敵じゃあなかったね。“サソリ”、ポーションで“アナグマ”の傷を治してあげて。その後、一等列車にすぐに向かうよ」

「分かった、デス。……“アナグマ”、こっちデス」



 戦闘中とうってかわって、“サソリ”のローテンションの声に、素直に近づいてくる大柄な“アナグマ”。

 はた目には、少女と大柄な熊男に見えるが、年齢で言えば二人とも10歳にも満たない子供なのであった。



「へえ、コイツってこんなナリだったんだね……。なんか、学会とかで発表したら、お金になるのかな……?」

 “ハイエナ”はファストスパイクで、透明な死体を突きながら少し考える。




「……ま、どうでもいいか」




 こうして、この大陸でも稀な“姿なき魔神”の形の跡は、カスロット砂漠の無限に降り注ぐ砂粒によって、徐々に消えていったのであった。


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