chapter9 走行中の魔道列車に乗り込むには

 走行中の魔道列車に乗り込むには、いくつかの方法があるが、小難しいことはさておこう。単純に、列車と同じ速度を出して乗り込むか、逆に速度を落とさせて乗り込めばいい。


 まず、前者だが魔道列車の速度は、実はそこまで速くはない。

 デザートイーグル号は、重量のある13両編成であり、また常に最高速度ではない。時速にして40km~60km程度となる。

 その為、馬であっても短期間であれば追い抜くことも可能な速度である。

 時に、一流以上の冒険者であれば、全力疾走するその脚力だけでも追いつける者も出てくることがある。



 ただし、ここは砂漠という走るのに適していない場所であること。

 また、魔道列車の最大の強みは速度よりも、その持続性にある。魔道機関モーターと線路により、その速度を保ち続けることができる。


 その為、一度離されれば、追いつくことは容易ではなくなる。



 そして、後者の手段。

 いかに魔道列車の速度を落とすか――そういった話になるのである。






 時刻は、夜明けより少し前。

 デザートイーグル号は、当初の予定よりやや遅れていたものの、大きなトラブルに巻き込まれることもなく、順調と言える走行を続けていた。


 外気温は、氷点下を下回っており、もっとも寒い時間帯となる。

 水気さえあれば、雪が降ってもおかしくはないが、ここは砂漠であるため、いくつもの偶然が重ならない限りは、砂漠に積雪することはない。

 夜勤中のドワーフ運転機関士も、帝国に鉄道が開通してからこのカスロット砂漠で積雪を見たという話は聞いたことはない。しかし、もしも、降雪にでもなった場合は、万全な砂漠対策はしているデザートイーグル号ではあるが、積雪は想定されていない為、最悪、砂漠の真ん中で立ち往生もありえる話である。

 もっとも、ラージャハ帝国出身者の場合でも、砂漠で積雪を見ることは人生で一度あるかないかぐらいの頻度らしいので、本当に運が悪かったとしか言えない状況になるのだろう。



 運転機関士が、そんな益体もないことを考えていると、走行中の列車のその遠くの線路の上に、なにかの影が目に入る。

 暗視能力を持つドワーフであったのは幸か不幸か。

 その影が、壊れた荷馬車と、ぼろいマントの人が力なく倒れているのに気付く。


 即座に、運転機関士はデザートイーグル号の速度を落とし、列車護衛に連絡するのであった――




GM さて、ぐっすりと眠っている皆さん。ここで、異常感知判定をお願いします。

 成功した人は、デザートイーグル号が停車しており、なにやら、少しだけ騒がしいことに気付きます。

ビリー (ヘレンを揺らして)おい、ヘレン起きろ。なにかおかしいぞ。

ヘレン (毛布に丸まりながら)……なぁに。むにゃむにゃ……。

アクルゥ (籠手をはめながら)少しだけ、緊迫した空気ですね。警戒しても損はありません、ハイっ。

GM そのあたりで、列車アナウンスから「ポンッ」と小さな音がして、その横にある小さな緑ランプが、オレンジ色に変わっているのに気付く。

ビリー 窓の外を見てみるが、どうなってやがる?

GM 先頭列車付近で、なにやら灯りを持った数人が、線路の前の方に歩いていくのが見える。ただ、暗視能力がないビリーでは、細かいことは分かりません。

アクルゥ ヘレンさん、これメイジスタッフを持ってください。後、一応、防具もつけておきましょう。

ヘレン (うとうととしながら)……ばんざーい。

アクルゥ (苦笑して)ハイ、着させてあげますから、それまでに目を覚ましておいてくださいねっ。

ビリー (窓の外を警戒しながら)なにがあったか、ちょっくら乗務員に聞いてくるか? まあ、列車の護衛がいるから、なにかあってもそいつらがなんとかするはずだが……。

GM では、そうこうしている内に、三等列車の通路を武装した列車護衛が、静かに通り過ぎていく。

ヘレン ……起きた。(通り過ぎる護衛たちに)なにかあった?

GM/列車護衛たち 「……いや、大したことじゃないよ、お嬢ちゃん。ちょっとケガ人が見つかったらしくてね。安全確認のため、列車内を見回りしているだけだよ」



(ヘレン (突然豹変して)嘘だッッ!!!)

一同 急に怖いよ!!?(笑)

GM いきなり変な病気を発症しないでください(笑)。



GM ……えっと、外を警戒しているビリーが、最初に気づきます。夜の線路を歩いていた護衛たちが、ケガ人を数人で運んでいるようです。

ビリー (ぼそりと)なんか、うさん臭ぇな。

アクルゥ (列車護衛たちに)わたしでよければ、神聖魔法でお助けしますが。

GM/列車護衛たち 「(少し顔を見合わせて)それは、助かります。しかし、こちらにも回復魔法が使える者もおりますので、ご安心ください。ただ、もしもの時は宜しくお願いいたします」

アクルゥ 分かりました。その時は、いつでもおっしゃってください。

ヘレン ヘレンもちょっとなら使える。ヘレンのことも、コレ次第で頼るといい(指で輪っかを作る)。

GM/列車護衛たち 「はは、もちろん。その時は相応のお金を支払わせてもらうよ。それじゃあ、我々は仕事があるので」

 とそのまま、後部車両に向かっていこうとする、その時――




 先頭車両付近の列車脇。

 列車護衛たちは、血まみれの服を着た男を、列車のそばまで連れてきて、ケガの手当てをしようと服の下を調べようとすると、服こそ血まみれであるものの、その下には傷がないことに気付く。

「こいつはッ!?」

 列車護衛は一歩引いて、武器を構え始める。

「バレちゃあ、仕方ねぇ。げひゃヒャ、殺せ、殺セぇ!!! オレたち、“蛮族列車強盗団バルバロス・トレインレイダーズ”が、皆殺シだァァァァァ!!!」

 目を赤く光らせて、ミチリと人皮が弾ける音がすると、即座に2mほどの巨大な異形の姿になる。

 “レッサーオーガ”と呼ばれる人肉を好み、そして、人族の心臓喰らうとその姿をとることができる――蛮族だ。



 砂丘の少し上から、蛮族語で「全員ヤレ!」という掛け声と共に、停車している列車の周囲から、異形の姿が大量に現れる。

 その数、三十体。



「くそったれ、多いぞ!!?」

「“蛮族列車強盗団バルバロス・トレインレイダーズ”!? なんで、奴らがこんな砂漠に!!?」


 一方で、列車護衛の数は十五人と、蛮族たちの半分であった――




GM という訳で、ちょっと特殊な戦闘に入るので、ルールを説明します。ゴチャゴチャしているので、少し長いですが我慢してください。



 *戦闘レギュレーションに興味がない人は、読み飛ばしても問題ありません。リプレイ上ではルール面では大幅にカットしますので、以下は参考程度です。




【戦闘ラウンド進行について】


GM 今回の戦闘は3ラウンド区切りでイベントが進行していきます。大きな節目は6ラウンド後と12ラウンド後。

 6ラウンド終了時に魔道列車デザートイーグル号が走り始め、12ラウンド終了時には一定速度となり、列車の外にいた場合は置いてけぼりです。もしも、なんらかの移動手段がなければ、カスロット砂漠の真ん中に取り残されることになります。

(一同 うわっ!?)

(アクルゥ ということは、12ラウンドで戦闘は強制終了ということですね)

GM いえ。基本的には9ラウンド終了後は、敵味方全員が戦闘を中止して列車に乗り込むパートだと思ってください。

(アクルゥ あ、それはそうですっ。砂漠に取り残されたら、嫌ですもんね)

(ビリー いや、俺の〈オートモービル〉があるから、それで列車には追いつくことはできる。後、余った経験点で取ったライダー技能で〈タンデム〉があるから、なんとか無理やり三人乗れることにしてくれねぇか?)

GM ……まあ、短時間なら、三人全員が乗車のみの行動。かつ、最高速度も出せないということで、12ラウンド後でもギリギリ追いつけることにします。二人乗りなら、1時間以内であれば追いつけそうですが……。しかし、なんでレベル1で〈タンデム〉を?

(ビリー (爽やかに)そりゃ、女の子と密着したかったからさ!(サムズアップ))

(ヘレン いっそ、清々しい。ま、今回はぐっじょぶ!(返しサムズアップ))




【NPC同士の戦闘ルールについて】


GM 『蛮族三十体vs列車護衛十五人』の大規模戦闘となりますが、そこは細かいルールは使わず、NPC同士の戦闘は、基本的に5人ずつのパーティに分かれて、『レベル×人数=ポイント』で3ラウンド毎に戦闘結果を出します。

 『レベル×人数=ポイント』の差が、±2以内なら3ラウンドで決着はつきません。差額3~5以内なら、高い方が敵の低いレベルの二人か、高いレベル一人を倒せます。差額6以上で高い方が相手を全員倒せます。

(ビリー ちなみに、俺らがその戦闘に介入した場合はどうなんだ?)

GM PCたちは『レベル×人数=ポイント』にはカウントされません。普通に攻撃をしかけてください。NPCたちは、PCの攻撃以外ではHPもMPも一切減りません。HPゼロになった時に、『レベル×人数=ポイント』の計算から除外されます。

(ヘレン となると、ヘレンたちが倒しきれなかった場合は意味がない。だから、集中攻撃の方がいい?)

GM まあ、そうなります。ちなみに、1ラウンド目で敵集団を全滅させた場合には、NPC列車護衛たちは他のNPC同士の戦闘の参加できることとします。




【列車での戦闘について】


GM これは、列車内部で戦闘が起きた場合です。

 まず、列車内の狭い通路で戦闘する場合。人一人が通れる広さなので、最大二人までの乱戦になります。三人目以降は、スカウト技能の《影走り》がない限り、その乱戦を通り抜けができず、自動的に後衛扱いとなります。

(ビリー 俺も《影走り》は持ってねぇから、事実上、通路での戦闘はタイマンか)

GM 但し、三等列車の場合は、両脇の椅子の上でも戦闘可能です。ただ、足場や視界が悪いので、全ての行動ペナルティー2となります。移動も、主行動を使っての制限移動までしかできません。

(ヘレン 唯一、回避ができないヘレンは、気を付けないと)

GM ちなみに、列車内でこのペナルティがないのが、一等列車のコンパートメント個室ぐらいになります。後は、狭いので、同じ状況になります。



GM 続いて、列車の屋根での戦闘の場合。まず、屋根の登り降りは、はしごがある場所か、1ラウンドかければ誰でも判定なく移動できます。ただし、登攀判定に成功すれば、即座に移動可能とします。これは、「スカウト・レンジャー技能+敏捷」か「冒険者技能+筋力」のどちらでも構いません。

(三人 ふむふむ)

GM 後は、6ラウンド終了後の列車が走行時の話です。走行中の列車の屋根で、行動する場合は、肉体系の判定に行動ペナルティー1が入ります。

 また、1ラウンドの終わりに、移動や回避なども含めて肉体系の行動をした場合には軽業判定をして失敗したら転倒します。ファンブルをしたら、列車から落ちかけるので次のラウンドで主行動で、登攀判定をして登ってください。

(ヘレン ぐぬぬぬ、またしてもヘレンだけ厳しい扱い)

(アクルゥ ビリーさんもわたしも、スカウトやレンジャー技能を持っていますからねぇ……ファンブル以外は成功しますし)

(ビリー そういや、護衛チームは全員持っていなかったな(苦笑))




【冒険者・護衛・強盗チームの戦闘について】


GM では、最後にビリーたち冒険者チーム以外の話。つまり、ジャンクォーツ・アターシャ・セイゲンの護衛チーム。“ハイエナ”“サソリ”“アナグマ”の強盗チームについて説明します。

(アクルゥ あ! もしかして、助けてくれるんですか!?)

GM まず、列車内放送で、『蛮族を倒したら、報酬が出る』旨の通達が出ます。

(ヘレン うん。これで、金欠のヘレンたちは参加決定)

GM 即断即決ありがとうございます(笑)。

 一方で、護衛チームや強盗チームには、彼らの目的があり、最初の3ラウンド目はこの戦闘に参加しません。後は、イベントを挟みますので、都度、状況を変化させます。

(一同 ほうほう)

GM まあ、それはその時にでも。

 初期位置は、魔道列車デザートイーグル号の先頭車両付近の一等車両に、“護衛チーム”。真ん中の二等車両に、“強盗チーム”。後方の三等車両に、皆さん“冒険者チーム”がいる感じです。



 *【サノバガンこそこそ噂話6】シナリオ段階では二等車両にビリーたち“冒険者チーム”。三等車両に、“強盗チーム”を配置する予定だったよ。でも、ビリーの乗車券賭け事の余波で、上記のように変更になったんだ。ビリーが一等乗車券を入手できていたら、もっと護衛チームとの絡みがあったかもしれないね。




GM さて、説明も長くなりましたが、後は実際にやりながら見ていきましょう。戦闘開始です!

一同 了解!!!


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