chapter4 善良な国民の味方
――ラージャハ帝国駅。
この国唯一の駅であり、雨季が訪れる前の魔道列車“デザートイーグル号”に乗ろうとする大荷物を持った乗客たちやその見送り、大勢の駅員や乗車員らが集まり、駅構内は非常にごった返している。
特に、この時期の列車は、通常よりも車両を増車して連結する。その結果、若干スピードを落とすことになるが、それでも、乗車率は100%となるほどの大盛況となる。
人が集まるところに、商売あり。
「旅のお供に」「ラージャハのお土産」など、各種のお店らしきものもあり、今、この国で一番人が集まっている場所が、この駅であるといわれても何もおかしくはないほどの混雑ぶりだ。
そして、人が多ければ多いほど、ロクでもない連中も自然と増えるのは世の常である。
「キース様、荷物を運び終わったでござる」
うやうやしく畏まる――少し変わった言葉遣いの護衛に対し、
年は、30代前半だろうか。金髪碧眼に、ビリーの無精とは異なる、整えた顎ヒゲを生やしている。ヒゲを剃れば、20代にも見えるかもしれない気品を持った美丈夫である。
「フム、これで後は共和国に帰るだけだな。……思わぬ損害と、思わぬ収穫。さて、我が家ではどう評価されるかな?」
キース・アイデンス。
キングスレイ鉄鋼共和国のアイデンス家の三男にあたり、王権制度ではなく議会制度である共和国においては貴族は存在しない。しかし、アイデンス家は歴史深い元老院にも議席を持つ由緒ある家の一つにあたり、貴族を自称している少し変わった一族である。
アイデンス家は、領地にある鉱山から安定的に鉄鋼や魔晶石などを共和国内外に供給しており、魔道機開発にも力をかけていることから、経済大国である共和国の中でも最上級国民とでも言える。その為、他国の下手な貴族と比べても、圧倒的なまでの地位と財力を持っているのだ。
跡継ぎである長男やそのスペアである次男と違い、好き放題に生きていたせいか、30代にして独身。今回も砂漠でオーロラを見たいと、観光気分で“歪みの砂漠”に訪れた変わり者であった。そして、その結果、高価な砂上船を壊し、その代わりに“
そんなこれからを思案するキースに対して、苦々しい思いで見つめる護衛たちの姿があった。
切磋琢磨して、共和国を守るべく鍛えてきた仲間たち。
そして、強く、尊敬していた隊長。
それが、例の事件のせいで、一瞬で失われ、ここに残っているのはわずか三人だけであった。
本来、アイデンス家の息子であれば、護衛三人でも少ないぐらいだ。
しかし、少しでも早く本国であるキングスレイ鉄鋼共和国にキースを連れて帰るためにも、今はこの魔道列車しか手段がなかった。
そして、乗車券を短期間で大至急入手するために、少なくない予算を使うこととなった。その結果、冒険者を護衛として雇って、列車に乗せることも難しくなり、残った三人だけで護衛することなったのが現状である。
「さあ、諸君。色々とあって、大変だろうが。もう少しの辛抱だ。帰ったら、諸君らも褒美と休暇を与えよう。それまで、頑張ってくれたまえ」
と笑顔で、護衛たちを振り返った瞬間。
「ご、ごめんなさいっ」
幼い少年が、キースにぶつかる。
人々のごった返している中で、大仰に手を広げて振り返れば、当然である。
「ハハ、いいんだよ。善良な国民に、貴族である私は味方だよ」
にこやかに微笑みかけるキースの姿は、『ぶつかったのは少年のせいだが、心優しい私は許してあげよう』という、上からの目線がはっきりと分かるものであった。それを本人は自覚しているのかどうかは分からないが。
「あ、ありがとう、ございます」
そんなキースに対して、少し面を食らったが、ぺこりと頭を下げて足早に去ろうとする少年。
「うん、私は善良な国民の味方なんだよ。だから……」
「……?」
少年はなにか不穏な空気を感じ取り、後ろを振り返る。
そこには、拳銃を構えたキースの姿があった。
「
先ほどと変わらないままの笑顔で、容赦なく
少年の大怪我を負った左手には、高価な財布が握られていた。
そして、倒れた少年の頭部に、さらに撃ち込もうとする時、護衛の一人がキースの腕を掴む。
「おやめくだされ、キース様。ここでそのようなことをなされば、貴方様とはいえ、ただでは済まないでござる」
「…………ふむ、そうだね。せっかくの魔道列車に乗り遅れてしまっては本末転倒か。仕方ない、この辺で余興はやめておこう」
と、睨み付ける護衛に尻目に、キースは優雅に拳銃を懐にしまう。
辺りは騒然となり、駅員が何事かと駆け寄ってくる。
そして、キース・アイデンスは血まみれの財布を拾いながら事情を説明。そのまま無罪となり、魔道列車に乗り込んだ。
少年は、重症。
適切な処理を受ければ、命には別状はないと診断された。
しかし、スリを働くような少年が、どこまで適切な処理を受けられるか。そして、片手片足に大怪我をおった子供が、この国で生きていけるのか。
――それは、誰にも分からない。
それらを間近で見ていた護衛三人は、自らの思いを封じ込めるように無表情となり。
その惨状を聞いた冒険者の三人は、一等列車にはできるだけ近づかないでおこうと話し合い。
強盗三人は、つまらない貴族だと思っていた相手が、想定外な相手だと気づき、逆にやる気を増すのであった。
「諸君らは、私よりも弱い護衛なのだから。せっかく残ったその命を大切しながら、この列車旅行を楽しもうじゃないか。なあ?」
貴族を自称するキース・アイデンスの笑顔は、少年を射殺しようとする瞬間も、護衛が半数以上を失った時も。
そして、魔域から脱出する際に、幼い頃から仕えていた従者が身代わりになって死んだ時も、変わらなかったという――――
GM といった事件があったことを、君たちは三等列車の中で聞くことになった。ちなみに、後数分ぐらいで、この魔道列車“デザートイーグル号”は出発することになります。
ビリー (ウエスタンハットを深くかぶり直し)やれやれ。随分と軽い銃の引き金を持つ、貴族様もいたもんだな……。
ヘレン ま、ヘレンたちは関わらなければいい話。一等列車なんて、そもそも入れない。
アクルゥ (少し暗い顔で)そう、ですね……。
一同 …………。
GM というところで、ジリリリリと駅構内にベルの音が鳴り響く。
/アナウンス 「まもなくラージャハ帝国発、キングスレイ鉄鋼共和国行きの“デザートイーグル号”の発車時刻になります。お乗り遅れのないよう、お気をつけください。まもなく……」と、繰り返される。
発車時刻。
乗車員たちが列車の扉を次々と閉め始め、鍵をかける。
そして、シュッシュッシュッという蒸気が立ち上がる音と共に、ガタガタと列車が揺れ始め、窓の外の景色が動き始めた。
少しずつスピードを上げる列車内部には、各駅の到着予定日など告げるアナウンスが流れ始める。一週間後にはカスロット砂漠を抜けた先の駅で、半日がかりの整備と補給するが、それまではひたすらにこの過酷な砂漠を走り続けるだけである。
そして、砂漠縦断後も様々な国を経由して、1ヶ月ほどで共和国に到着する予定となっている。
現在、夜明けから少し経っただけなので、気温はそこまで上がっていない。
しかし、後もう少しすれば、外気温は40度、50度へとどんどんと上昇していき、ビリーたちがいる三等列車は、外の砂漠ほどではないが、30度後半ぐらいまでに上がる。
そして、夜は10度以下までに下がる。
尚、二等列車、一等列車の順に、過ごしやすい温度に抑えらていく。
そんな寒暖差がある三等列車の中で、発砲事件から流れた微妙な空気を払拭するために、ビリーが二人に声をかける。
ビリー ……とりあえず、朝飯でも食おうぜ。つっても、携帯食料しかないが……まあ、ないよりはマシだろ(ごそごそと薄汚れた背負い袋をあさり始める)。
一同 ……。
アクルゥ (なにかに気づいて)あ……、それでしたら、ちょうどいいものが。
ヘレン (少し期待する声で)え、なになに?
アクルゥ ええ、せっかくの列車旅行の最初の食事です。少しでもいいものを食べましょう(にっこり)。
二人 (アクルゥのカバンから、少し見えたものに気づいて)へ、へぇ……。
アクルゥ ハイ!
二人 やっぱり、サンドウォームかぁぁぁ!!?
*“サンドウォーム”は、冒険者たちが美味しくいただきました。
GM ……それでは、
一人&二人 「ご馳走様でしたっ(合掌)」「「うごごごご……(悶絶)」」
GM 今日も雲一つない快晴(砂漠)で、三等列車の温度はぐんぐんと上がっていく。とは言え、ラージャハ帝国の下手な宿に比べれば、全然快適です。
そんな三等列車のビリーたちは、緊急事態を除き、二等列車以上には入ることはできません。例外が、二等列車と三等列車の間にある食堂車です。そこで、食事やお酒、その他の雑貨なんかも購入できます。
ビリー ふーん、なるほどねぇ……。しっかし、列車に1ヶ月間は長げぇな……(苦笑)。随分と退屈しそうだぜ。
GM 正確には、共和国に到着するまでは、35日ほどかかるみたいです。噂話レベルですが、通称リアニ計画と呼ばれる超高速列車ができれば、7日で帝国~共和国を踏破できるとか。
一同 へぇ……。
GM それと、勝手な想像ですが、砂漠を走行中は暑くなる前の朝方に簡易整備として、魔道機に入り込んだ砂を掃除したり、メンテナンスをしたりとかもあるので、実際の走行距離よりも時間がかかる……とは思っております。
GM ちなみに、この列車の到着駅は、キングスレイ鉄鋼共和国の首都、キングスフォールにある
アクルゥ (観光ガイドブックを眺めて)なんでも、キングスフォールは湾岸都市なんで、シーフード料理が有名みたいですね?
二人 ……(生温かい視線)。
アクルゥ それに、なんですか? この“香辛料と油の道”とか、もうもうもうっ!(ぱたぱたと手を振る)
ヘレン (後ろから、使い魔と一緒に覗き込んで)ねえねえ。なにか、甘いものとかないの?
アクルゥ (ペラペラとガイドブックをめくり)えーっと、“くれーぷ”なる甘味が売っているみたいですねっ。
ヘレン おぉー……クレープ! ヘレン、食べたい!
アクルゥ ハイ! ぜひ行きましょう、ヘレンさんっ! ビリーさんは、どこか行きたいところがあるんですか?
ビリー 俺? 俺は、酒場で聞いた“キャンディ食堂”にでも行くかな……。
ヘレン (首を傾げて)キャンディ? お菓子屋さん?
ビリー ま、大人のお菓子屋ってところだ。お前ら、お子様には早ぇよ。
二人 ん……???
*詳細は、SW2.5サプリメント『鉄道の都キングスフォール』を参照。
GM という訳で、そんな感じで旅路に思いを馳せていると……ランダムイベントが(ころころ)。そばに座っている老婆が、君たちに声をかけてくる。
/婆さん 「ふぇっふぇっふぇ(怪しい笑い)、お主たちは観光旅行かのう?」
ビリー (ヘレンと同時に)ハン、見てのとおり、金もねえ貧乏人だ。俺たちゃ、単なる出稼ぎ冒険者さ。
アクルゥ (ビリーと同時に)ハイ! 観光もして、美味しいもの食べるんですっ!
ヘレン (アクルゥと同時に)心配だから、保護者として、ヘレンがついて行ってあげてるだけ。
GM/婆さん 「(三人を見ながら)……ほうほう、なるほどのう。……ふぅむ、随分と面白いものを背負っていそうじゃのう。……せっかくじゃ。このババアめが、お主たちの旅のことを
ビリー (煙草を吹かせて)ハッ。占いなんざ、くだらねぇ。運命ってのはな、自分で切り開くもんだぜ?(ドヤッ)
ヘレン ……これが、賭けに負けて、無一文になった男の言葉(ぽつり)。
アクルゥ (本気で心配する声)そうですよ。ビリーさんは割と本気でどうしようもないんですから……自分を、そこまで信じてはいけませんよ?
ビリー あれー!? 俺、すっげぇディスられてるよなぁ!!?
GM 辛辣ぅ……。まあ、そんな君たちにお構いなく(笑)、老婆は床にカードを広げる。
/婆さん 「(その内の一枚を取り)こ、これは……“
一同 …………。
GM/婆さん 「恐ろしや、恐ろしや……。しかぁし! このババアお手製のお守りを買えば、
一同 ……(顔を見合わせる)……。
ヘレン
GM/婆さん 「あはひィっ! Zzzzzzzzz……」
ビリー (他のカード見て)クソババア。全部、“塔”のカードじゃねぇか……。
* ← To Be Continued.
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