chapter5 楽しげな会話や食事音は、不穏な気配を感じさせない

GM デザートイーグル号に乗車した初日。日が暮れると、一番過ごしやすい時間になる。

 ……皆さんは、夕食をどうしますか? ビリーのカード貯金を使ったから、三食全ては難しいかもしれませんが、夕食だけなら割と豪勢にいけそうです。

アクルゥ (ビリーに気遣って)でも、いいんですか?

ビリー ン? なに、つまんねぇこと気遣ってんだよ。それぐらい奢ってやるから、パーッと楽しんでくれた方が、俺も嬉しいぜ?

ヘレン おー、ビリーが格好つけてる……。さすが、過去を振り返らない男は違う。

ビリー ま、なにせ、俺はイケてるガンマン、“ビリー・ザ・ソニック”だぜ!(ウエスタンハットをくいっとキメる)。

アクルゥ そ、それじゃあ、遠慮しないで頼ませていただきますね、ビリーさんっ(笑顔)。

ビリー おう、好きなものを頼め頼め。ヘレンも、デザートでもなんでも、食べていいぜ。

ヘレン 大丈夫。ヘレンは、最初から遠慮する気はない。

ビリー そいつは重畳ちょうじょう




GM ――そんな会話をしながら、三人が食堂車に入ると、そこで今朝会った少年とメイドと執事がいるのを見かける。

  /身なりのいい少年 「――あれ、奇遇だね。こうして何度も会うなんて、なにか運命を感じるね。……せっかくだから、一緒に食事でもどうかな?」と、少し大きなテーブルに促しますが。

ビリー (肩をすくめて)ま、アレコレ過ぎたことは、どうでもいいか。ご相伴しょうばん、預かるぜ。

アクルゥ 食事はみんなでの方が楽しいですよね、ハイ!

GM では、少年だけでなく、メイドや執事も一緒に席にかけて、ウェイターには適当に料理や飲み物を頼み始める。

ヘレン (割り込むように)まずは、甘い物を! 後、ワイン!

ビリー とりあえず、ビールだビールッ! 後、肉。何はともあれ肉ッ!

アクルゥ (メニュー表を指さして)あ、このページの右端から左端まで、順にお願いします。飲み物は、氷水でお願いいします。えへへ、贅沢しちゃいますっ!

GM/身なりのいい少年 「ハハ、もう気持ちのいいぐらいバラバラだね。おっと、そういえば自己紹介がまだだったね。ボクの名前は、ハイエ。それで、メイドがソーリで、執事がグーマだ」



 *強盗三人組ハイエナ・サソリ・アナグマは名前にこだわりはない、という設定。



GM 執事のグーマは頷くだけ。メイドのソーリは、立ち上がりスカートを割と大胆に上げたカーテンシーをします。まあ、スカートの丈は長いので、ひざ上ぐらいまですが。

ビリー おぉ!?

ヘレン ……ビリー、見過ぎ。

GM/ハイエ&ソーリ 「ああ、いや、申し訳ない。彼女は元冒険者なんで、礼儀作法は割と適当なんだよ、うん(苦笑)。ほら、はしたないから、スカート下しな」「お坊ちゃま。分かった、デス」

アクルゥ えっと、ハイエさんはもしかして、貴族様ですか?(おそるおそる)

GM/ハイエ 「え、違うよ。ボクはしがない商人さ。今回も商売のために共和国に向かっている最中でね。彼らはその護衛とか仲間とかそんな感じ」

ビリー ……なるほどねぇ、元同業者ってことか。おっと、俺の名前はビリー、“ビリー・ザ・ソニック”。見てのとおり、冒険者をやっているぜ。

GM/ハイエ 「へぇ、君があの冒険者Billy the Sonicなんだ……」

アクルゥ (深々と)わたしは、アクルゥ・ベドウィヌと言います。わたしもビリーさんやヘレンさんの冒険者お仲間です。ハイ!

ヘレン ヘレンは、ヘレン。ビリーの保護者。

GM では、一通り、自己紹介が終わったとこで、各自の頼んだ飲み物と軽い食べ物がテーブルに並べられる。

ビリー (周囲を見回して)――それじゃあ、この魔道列車の旅路と、この出会いに。

一同 「「「乾杯Cheersっ!!!」」」




 複数のグラスのぶつかり合う音が、食堂車に響き渡る――




 ……。

 …………。




 辺りはすっかり暗くなり、周辺には街灯などまったくない砂地が広がるのみ。そして、ガタンガタンと線路を走る音だけが、カスロット砂漠に鳴り響く。時折、先頭車両から聞こえる汽笛や水蒸気を出す音に、動き始めた夜行性の動物がその音に驚いて、身を隠していた。


 天候もよく、砂嵐などの強風も起きていない穏やかな砂漠の夜に、魔道列車デザートイーグル号は、キングスレイ鉄鋼共和国に向けて順調に走り続ける。

 そして、デザートイーグル号の運転機関士は、ライトに照らされた後ろに駆け抜けていく線路と大量の砂を見つめながら、少し気の抜けたあくびを漏らしていた。


 後、数時間もすれば夜勤組と交代して休憩に入れることになっている。そして、この初日が何事もなく終われそうなことに、一安心していた。

 魔道機トラブル、天候トラブル、列車強盗、蛮族の襲撃……1ヶ月以上も走り続ける魔道列車には、トラブルはつきもの。

 だが、せめて初日ぐらいは何事もなく過ごしたい。

 それが、デザートイーグル号に従事している全員の願いでもあった。




 だが、この世の中にはひねくれた連中というものは、少数ながらいるものだ。平和や平穏を望む者がいる一方で、争い事やトラブルを望む者もいる。




 デザートイーグル号、一等車両。

 豪華な扉をノックする音。

「アイデンス様、お食事をお持ちしました」


 キース・アイデンスが買い取った一等乗車券は、1車両丸ごと個室にした特別車である。その中には、シャワートイレ、冷暖房魔道機や簡易冷蔵庫完備など至れり尽くせりの超豪華車両であった。

 その価格は、一般の生活費10年を軽く凌駕する。

 今回、発車直前にという、かなり強引な方法で乗り込んでいるのが、キースとその護衛たちなのであった。


 その結果、重量オーバー気味になったデザートイーグル号は、実は共和国への到着日時が2、3日ほど遅れる見込みであることを知っている者は少ない。まさに、『大金貨で頬をぶん殴る』……そんな成金や貴族を揶揄やゆするような言葉にふさわしい行為をしていた。


 『無理難題をお金で押し通す貴族』という噂は、すでにこのデザートイーグル号の従業員を中心に広がっている。

 しかも、それが今朝起きた発砲事件と合わさることで、その評判は最悪のものと言っていい。




 今回、この一等車両に食事を運ぶ仕事を、先輩たちから無理やり押し付けられた若い女給仕は、少しだけ要領の悪い女性であった。

 来年、結婚を控えた女性は、資金を貯めるために給料のいい帝国・共和国間の魔道列車で働くことにしたのだ。

 往復で2カ月以上。

 今回の乗車が終われば、目標金額をほぼ達成できるのだが――やはり、給料がいいのは、大なり小なり命の危険があり、拘束時間もある為である。

 そんな彼女は、まさに粗相をしないか、いきなり銃で撃たれないか……そんな不安に駆られながら、“噂のお貴族様”に夕食を持ってきたところであった。




「――食事か。入るでござるよ」

 扉を開けたのは、このラージャハ帝国では珍しい金属鎧を着こんだ“リルドラケン”であった。

 温度を感じさせない爬虫類固有の瞳を細めると、女給仕に入室を促してくる。

 戸惑いを隠せないまま、恐る恐る料理を乗せたカートを押しながら、豪華な一等車両の部屋に入る。

 部屋の中央には、豪華な革張りのソファでくつろいでいる貴族と思われる美形の男性。そして、その傍らには、銅色髪に長身の真面目そうな女性と、逆に少しチャラい感じの茶髪の青年が立っているのが、女給仕の視界に入ってきた。


「ウェーイ、飯だぜ! キース様、オレも一緒に食ってもいい? ついでに、酒も!」

「ジャン。キース様に失礼なこと言ってはならぬぞ。それに、今は護衛中でござる。食事なら後に。それと、この列車にいる間はアルコールも禁止でござるな」

「ウゲッ、酒禁止!? マジでかッ!? 1ヶ月も禁酒とかムリっしょ! アターシャちゃんも、セイゲンのおっさんになんか言ってくれよォ」

「……ジャンクォーツ、喧しいから黙れ。もしくは、口を縫うか、舌を引っこ抜くぞ」

 アターシャと呼ばれた美しい女性からは似合わない暴言が、鋭い視線と共に、チャラい男に向けて流れるように放たれる。

 その女性の額には、結晶化した美しい宝石が輝いており、“ティエンス”と呼ばれる種族だと分かる。ティエンスは、人よりも強靭な肉体と精神力を持っており、その昔、魔神を倒すために作られたといわれている人族だ。


「ウェーイ。アターシャちゃん、オレには相変わらずキツイっしょ~? ツンデレ、これってオレに対するツンデレだと思う?」

 と、リルドラケンのセイゲンや、キースにまで同意を求めるも、誰一人賛同を得ることができない状況であった。




 そして、そんな会話にまったく入り込めず、ひたすらに存在感を消そうとしている女給仕に向けて、キースが立ち上がり、そばに寄ってくる。


「フム、食事はそのままで構わない。後で、誰かに食器は持って行かせるから、気にしないでくれていい」

 近づいてくるキースを見ると、例の噂を思い出し、一歩引きそうになるのを懸命に抑えながら、女給仕はなんとかお辞儀をする。

「おっと、これはチップだ。取っておきたまえ」

 と、結構な大金を渡すと、退出を促され、女給仕は再度お辞儀をした後、扉を閉める。その瞬間、防音がしっかりされた一等車の個室内の音は、漏れ聞こえなくなる。


 何はともあれ、明日の食事は別の人に持って行ってもらおう。

 そんなことを固く誓いながら、短時間で強張っていた身体をほぐして、自分の持ち場へ戻っていくのであった。




「さてと、セイゲン、アターシャ、ジャンクォーツ。まだ、魔道列車が出発して1日目だ。そんなに気を張っていては、1ヶ月ももたない。のんびりといこう、のんびりと。

 ……そうだ。せっかくだ。今回の旅路に、献杯でもしようじゃないか」


 キース自らが、高価なワインをグラスに注ぎ、三人に配る。



「生き残った我々と、そして、死んでしまったあの者たちに」



 そのキースの浮かべる爽やかな笑顔には、心の痛みなどは一切感じさせない晴れやかなものであった。

 しかし一方で、先ほどまで軽口を叩いていたジャンクォーツすら、一瞬で無口になり。アターシャはその宝石のような美しい瞳に怒りの色を隠さず。

 セイゲンは、人には分かり辛いリルドラケンの表情をしながらも、握りしめたグラスを割らないようにするするので精いっぱいであった。


 そして、静かにグラスを掲げる。

 三人には、高価なワインの独特な苦みが、まるで仲間の血を飲み干してしまったような感覚に陥り。

 これ以上ないぐらいの気分が最悪なのだと、改めて思い知らされるのであった――




 …………。

 ……。




アクルゥ (語彙力低下中)しゅ、しゅごい、です。まさか、あのサボテンがこんなにも、上品で美味しいステーキになるだなんて……(感涙)。

ビリー (豪快にフォークでかぶりついて)俺には、ちと上品過ぎる味付けだな。もっと、こう油ドーン、肉ドーンって感じの下品な味付けの方が好きだぜ。野菜サボテンステーキには、マヨネーズだな! (ウェイターに)マヨネーズと塩コショウを頼む!

ヘレン (ステーキに)はちみつ、はちみつ♪(どばどば)

GM オー、マジかぁ……。料理に対する冒涜を見た気がする……。

 ちなみに、エルフのハイエは、野菜料理中心。メイドは小食なのか、ほとんど食べてない。一方で、大柄な執事はナイフとフォークの両方に大きな肉を突き刺して、豪快に飲み込んでく。

ビリー おお、いい食いっぷりだねぇ。俺も負けてられねぇな! 肉の後は、このビールで油を胃に流し込む……くはー、ウメぇ! 食事だけなら、魔道列車サイコーだな!

アクルゥ ハイ! 本当にみんなで乗れて、よかったです!(笑顔)

ヘレン (無表情で)これには、ヘレンもニッコリ。




 食堂車での楽しげな会話や食事音は、不穏な気配を感じさせないほど、にぎやかなものとなった。




 ……。

 …………。

 食堂車のビリーたちの乾杯。

 一等車両でのキースたちの献杯。


 そして、もう一つの乾杯と宴会が、カスロット砂漠の荒野で行われていた。




 は、この物語では中央の舞台に上がることができない端役なのかもしれない。

 しかし、“デザートイーグル号”の発車時刻のように――この“巨万の魔石”を巡るバカ騒ぎの始まりの合図のようなものだ。


 ただ同時に、この物語に相応しいロクデナシ共ではある。




「げひゃひゃ、コいつは前哨祝いダ! お前たチ、飲めぇ、食べろぉ、飲メぇ!!!」

 木製のコップを、巨大な酒樽に直接突っ込んでよそい、再び酒宴の輪に入っていく人影たち。

 彼らは、音を外しながらも、陽気な歌を口ずさみ、肩を組んでダンスを踊る。

 極寒の砂漠の下、たき火もつけず、星明りだけで騒いでいるその姿は、遠目にはただのおかしな酔っ払いにしか見えない。


 しかし、暗視に優れるエルフやドワーフらが、彼らの姿を見れば、顔をしかめることであろう。

 人影のところどころに、異形と思われる姿が見られており、その装備はちぐはぐ。中には、奪った物なのか、サイズもあっていない。

 また、彼らが囲っている酒樽の横には、食い散らかされたラクダが倒れており、その死体から、直接、ナイフや剣、時にその爪をもって、ラクダ肉を適当に刻み、直接、口に運んでいるのだ。


 食糧不足になりやすい砂漠の民であっても、よほどのことがない限り、生肉を食すことはない。

 しかし、彼らには、生肉を食べることに忌避感もなく、汚らしくクチャクチャと食べ散らかすことが、食事のマナーと言わんばかりに、こぞってやっている。

 そして、ラクダのそばには、すでに“元がなんなのか分からない肉塊”が、飛び散っていた。味で言えば、間違いなくラクダ肉より落ちるはずの“二足歩行のソレ”を、彼らはなによりの“ご馳走”だと信じて疑っていない。

 辛抱強くない彼らは、ラクダ肉よりもソレを先に食べ尽くしてしまったのだ。



「ダンナぁ、もうすぐあそこに、列車がくるんでショう? こんナ“ご馳走”を、いーっぱいいーっぱイ、運んでくれるなんザ、スゲぇ話だ。もう今かラ、楽しみで楽しミで、仕方がねエぇよ。ダンナぁ~」

 少し小柄な異形の一人が、少し離れたところに座る男性に声をかける。

「せいぜい、今を楽しんでおけ。どうせ、後2、3日は列車は来ない。列車を襲った後に、また、こうして宴を開けばいい……」

「へい、そうさせてもらいますサ。ああ、幼体がいイなぁ……未熟な筋肉を、踊り食いシながら、プチプちと噛みちギって、悶えるサマを眺めるのガ……なによりも楽しいンだゼぇ……」

 妄想……というには、その小男の口からは、思い出すかのようにヨダレがこぼれ落ちることから、経験済だと思わせるものがあった。

 一方、“ご馳走”自体にはさほど興味のない男は、腰かけた荷車だった残骸に腰かけながら、遠くにうっすらと輝くオーロラを眺めている。

「デザートイーグル号、か……」

 ぽつりと、その名を呟くのは。

 とある“人族の敵”――“蛮族”の一人であった。




GM/ハイエ 「ああ、そういえば、こんな話を知っているかい? 近頃、この西部を騒がしている連中がいて――」

ビリー ……ああ、聞いたことある。なんでも、幹部クラスの首には、スゲー賞金がかけられてるって話だろ?

GM/ハイエ 「そうそう。彼らは――」




 は、“蛮族列車強盗団バルバロス・トレインレイダーズ”と呼ばれている――





 ……。

 …………。

 舞台となるのは、大陸南西部に広がるカスロット砂漠。

 別名、“歪みの砂漠”と呼ばれる荒地を縦断する魔道列車デザートイーグル号。


 ラージャハ帝国発・キングスレイ鉄鋼共和国行きの列車に乗り込むのは、曲者揃いのロクデナシ共。

 そして、列車で起きる“巨万の魔石”を巡る大騒ぎ。


 誰も彼もが、巻き込み、巻き込まれ。

 バカみたいに踊って、踊らされる。


 最後に笑うのは、いったい誰なのか!?

 Let's dance!!!






ソードワールド2.5リプレイ・サノバガン!

「砂漠縦断列車で、ロクデナシ共と踊る(前編)」――END.

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