chapter3 舞台に、役者が揃い始める

 が見つかったのは、カスロット砂漠のとある“奈落の魔域シャロウアビス”の探索中であった。




 事の始まりは、砂漠の美しい星空の下、オーロラを間近で見たいというキングスレイ鉄鋼共和国の酔狂な金持ちと、その護衛たち。


 幸か不幸か、その金持ちの願望が果たされることになった。

 間近どころか、真上にオーロラが発生し、その金持ちともども、魔域に取り込まれることになった。


 その迷宮は、凶悪の一言に尽きた。

 見たこともない奇怪な植物と魔道機文明と思しき機械の構造物が混ざりあい、生命を冒涜したかのような醜悪な森が無限に広がっている。時折、魔域に響き渡るサイレンや機械音と共に、森の一部が蠢くのだ。加えて、昼かと思えば夜になったりと、時間感覚や方向感覚などを全て狂わされる。

 何より危険なのは、魔神と思しきモノが魔道機に浸食されている、もしくは、その逆なのか……ともかく、生物なのか機械なのか分からないモノが跋扈しており、そのいずれも圧倒的な力を有していた。

 そして、年老いて前線は退いたものの、その昔、“壁の守人ウォールガーディアン”を務めたことがある護衛隊長を一瞬で八つ裂きにされた時、すでに護衛をしていた者の半数は命を落としていた。



 そして、最大の戦力を失った彼らでは、魔域の中心である“奈落の核アビスコア”を破壊できるわけもなく、偶然に見つけた脱出口から、命からがら逃げだした。その時、外に出られたのはその金持ちと、二十名以上いた護衛の内――わずか三名であった……。


 乗ってきた“砂上船”は魔域の中に取り込まれてしまい、周囲には広がる砂漠。

 そして、彼らの手元には、失った砂上船の代わりにと、愚かな金持ちの命令で無理やり持ち出した魔道機と思しき物。幾何模様の魔晶石らしき材質でできた、立方体の箱があった……。




 ……。

 …………。




「知っているかい? この間、バカな貴族が、魔域に巻き込まれてたって話」

「ふーん、それで、デス?」

「…………」

「なんでも、そこであるを見つけたらしい。そいつは、鑑定結果で“巨万の魔石”と言われたらしいよ」

「……なんで、曖昧なの、デス?」

「その鑑定士は、その日のうちに行方不明になったからさ。詳しい鑑定結果は、闇の中……今頃、その鑑定士はどこかの砂の下で眠っているんじゃないかな?」

「…………」

「しかも、貴族は乗ってきた砂上船もその時に壊したみたいでね。共和国には“デザートイーグル号”に乗って帰るらしいんだ。そして、例のブツも一緒に運び込むらしい」

「らしい、らしいって……それ、本当なの、デス?」

「うん、一等乗車券を貴族の関係者らしき奴が定価の数倍以上で買い取ったとか、そんな話を聞いてね。ちょっと、探ってみたんだよ」

「じゃあ、ソレ頂き、デスね?」

「だね。列車なら色々と読みやすいから、ボクらにもチャンスは充分ある。だから、ここにある乗車券を使って、まずは舞台となる魔道列車の下見でもいこうか。

 分かったかい、“サソリ”、“アナグマ”?」

「分かったデス、“ハイエナ”。要するに、殺せばいいのデスね?」

「……おデ、わかル。みなゴろシ」

「うん……もしかしなくても、分かっていないよね、君たち?」



 呆れる様な少年と、る気にあふれた少女と、大男。

 その三人が立つ床には、ヒューヒューと喉から空気を吐き出す、血まみれの男の姿があった。


「あ、ごめんごめん。苦しかったよね? 色々と教えてくれて、ありがとうね。それから、この一等乗車券も、もらっておくね。

 だから、そのお礼に――君も、今日からあの鑑定士とお仲間にしてあげる。じゃあね、おやすみ~」


 無邪気な微笑みを浮かべながら、手をひらひらする。


「“アナグマ”、宜しく」


 大男は、無言で巨大なモールを振り上げた。




 ……。

 …………。




アクルゥ 分かっていますか? 雨季の間は魔道列車は走りません。

ビリー YES、マム!

ヘレン (こくこく)

アクルゥ そして、この“デザートイーグル号”に乗れなければ、次の列車は雨季の後になります。その意味も分かりますよね?

 (少し強い口調で)ビリーさん、ヘレンさん?

ヘレン (こくこくこく)

ビリー (正座しながら)YES! YES! YES!

ヘレン (はっと気づいて)も、もしかして……よ、よろいぬきおしおき

ビリー いや……あの顔はNO……!?

ヘレン じゃ、じゃあ……ついかこうげき……?

アクルゥ (笑顔)

ビリー (絶望した顔で)NO!? NO! NO!

ヘレン もしかして、りょうほぉうぅぅぅ……!?

アクルゥ ハイYESYESYES! 神様にお祈りしてくださいOH MY GOD!(にっこり)

二人 ぎにゃー!!?(再起不能リタイア!)




GM ……君たち、息ぴったりだね(笑)。

三人 いぇーい!(ハイタッチ)

(アクルゥ ……それにしても、わたしたちの乗車券1枚しかないんですが!? これ、シナリオ終わってません? もう、ほとんどお金ないですし……)



 *今回は単発シナリオの為、PCたちは限界まで買い物している。つまり、キャラクター作成段階で、ほとんど現金を残していないのだ!(ゲーマーの習性)

 ちなみに、賭け事で持ってかれたアルケミストカードは演出ノリであり、ビリーが失った有り金はわずか30Gでした。アクルゥの家に入れたお金も演出である。



(ビリー 俺の持っているアルケミストのSランクカードを何枚か売れば、乗車券の一枚や二枚!)

GM 待って待って。データと演出を基本分けましょう。一応、考えてはあるので安心してください。

(ヘレン ん? 列車の護衛任務がある、とか……?)




GM さて、君たちが駅前で遊んでオラオラしていると。先日、ビリーから乗車券を勝ち取った身なりのいい少年と、メイドと執事が歩いてくる。

  /身なりのいい少年 「あれ、そこにいるのは……確か、先日の……?」

ビリー あ……てめぇは、あん時のクソガキ!? 俺の乗車券、返しやがれ!

GM/身なりのいい少年 「いや、返せって。そのチンピラ的な発想にドン引きだよ……」(GMの本音)

ビリー なんだ? 乗車券がなくて、指くわえながら駅前にいる俺たちを嘲笑あざわらいにでも来たのか? アアン?(イキリ)

ヘレン く、なんて、外道……! 絶許ぜつゆるッ。

GM/身なりのいい少年 「(苦笑しながら)いや、ボクらもそこまで暇じゃないよ。そして、誹謗中傷もそこまでいくと、なんかどうでも良くなるね……。まあ、いいや。もしかして、君たちはあの列車にどうしても乗りたかったのかい?」

アクルゥ (少し涙目で)はいぃ……、雨季が来る前に、どうしても共和国に行きたくって。でも、お金がなくってどうしようかと……。



(ビリー バッカ、アクルゥ! ここで弱味を見せてどうする!? もっと強気に行け! 下手なことを言ってると、吹っ掛けられるかもしれねぇだろ?)

(ヘレン ビリーの台詞は、単なるクソ雑魚チンピラの悪態じゃなかった……? ヘレン、意外(驚愕))

(ビリー いや、そんなに褒めんなよ(照れ))

(アクルゥ えっと、褒めてませんよね、それ?(辛辣) で、でも、だったらどうすれば……)

(ビリー (肩をすくめて)そんなの、GMがなんか考えているから、大丈夫だろ?)

GM うーん、本当にロクでもない連中だな、君ら!(笑)



GM/身なりのいい少年 「どうやら、お姉さんの方は二等乗車券が1枚あるみたいだね。……そうだね、一つ、ここは商談と行こうじゃないか。ここに、買っておいた3枚の三等乗車券がある」とぴらっと乗車券を取り出す。

 「君たちの持っている二等乗車券1枚と交換しないかい?」

ビリー ……話にならねぇ。値段が全然違うだろ。二等乗車券は三等乗車券の10倍以上だぜ?

GM/身なりのいい少年 「いや、そうでもないよ。この後、出発するこの列車は、すでに三等乗車券も全て売り切れだ。どうしても列車に乗りたい連中からすれば、複数枚の乗車券は価値はかなり上がっているんだ。それに、1枚だけの二等乗車券は、一人までしか乗れないからね。高くは売れるかもしれないけど、乗車券3枚を手に入る機会はもうないんじゃないかなぁ」

ヘレン だったら、ヘレンは、アクルゥの“ペット”扱いで乗る……! これで、残り必要な乗車券は1枚!

一同 計算がおかしい!?(笑)

GM/身なりのいい少年 「キミには尊厳プライドがないの!? ダメに決まっているだろ、そんなの。

 ……分かったよ。それなら、この人数分の携帯食料もあげよう。三等乗車券は食事は別料金だからね」ちなみに、二等乗車券は朝昼はビーフorチキンみたいな感じで、決められた料理を選んで食べられます。一等乗車券なら、一部の高級料理を除き、好きな時に好きなだけ飲み食い可能。

アクルゥ え、魔道列車の旅行に、携帯……食料……?(絶望の顔)

GM ……えーと、食事代払えるの? 魔道列車の食事は、割と高いよ。

アクルゥ (キャラクターシートを何度も見て)一週間ぐらいなら、なんとか。

GM 共和国までは、1ヶ月かかります。

ビリー フ……俺は、今や現金ゼロだぜ?(自慢げ)

ヘレン (小銭を見せる)限界まで、魔晶石と護符を買った。

アクルゥ (涙目で)ふぐぅ……わたしもですよぉ……。

GM/身なりのいい少年 「あ、なんかごめんね? ま、まあ、そんなに嫌なら、残念ながら、今回は縁がなかったということで……」

アクルゥ (震えながら)はぐぅ……わかり、ました……わたしの二等乗車券とこ、こ、こ……。交換、して、ください……!(ぷるぷる)

一同 血の涙!?

アクルゥ い、いいんです。みんなと、一緒に行きたかったので、これでいいんです(儚い笑顔)。

他二人 ……アクルゥ……。

GM/身なりのいい少年 「う、うん? なんか、ボクらが悪者みたいになって、色々と心外なんだけど……まあ、これで商談成立かな? そ、それじゃあこの辺で失礼するねっ」と三人分の三等乗車券と携帯食料を渡して、メイドと執事を連れて足早に駅構内に入っていく。

ビリー チッ、いけすかねぇガキだな……、足元見やがって……。

ヘレン (ぽつりと)でも、だいたいはビリーのせい。勝手に、ヘレンの乗車券も賭けたし。

ビリー ぐ……。(頭をボリボリと掻きながら)……しゃあねぇ、このカードをちょっくら売ってくるから。夕飯ぐらいは、みんなで美味いモンでも食おうぜ。な?

アクルゥ はいぃ……。

ヘレン (口元を緩めて)ン、分かった。




 年も種族もバラバラな、冒険者の三人組の男女。

 彼らは、悪態や軽口をたたきながらも、非常に信頼しあっているのが一目で分かる。そんな光景を尻目に、少年たちは歩いていく。


「宜しかったのデス。えー、と? お坊ちゃま?」

 どこかぎこちない口調の、メイド服を着た機械人間ルーンフォーク少女サソリは、身なりのいいエルフの少年ハイエナに話しかける。

「いや、いいんじゃない? なんか面白そうな連中だったし。楽しい旅になりそうだよね」

「グガァァァ」

 熊顔リカント執事アナグマは、それに同意して頷く。

「はは、さすがに好戦的だね。なにせ、お宝が手に入れば、すこぶるハッピーだし。簡単に手に入らず、戦いになったとしても……」



 それはそれで、楽しいじゃないか……。



 そんな狂気を孕んだ笑みを浮かべる“ハイエナ”に対し。

 残り二人も似たような顔をする。


 彼らは、三人組の強盗チーム。

 “ハイエナ”、“サソリ”、“アナグマ”という名前で呼び合い、お互いの本名すら知らない関係。しかし、お互いの実力は信頼しあっていた。

 その姿は、先ほどの仲の良い三人組の冒険者とは対照的で、それでいて、似ていた…………。




 かくして、砂漠を縦断する魔道列車“デザートイーグル号”という舞台に、役者が揃い始める。




 *【サノバガンこそこそ噂話2】シナリオ構想段階では、列車に乗せた“財宝”を守る“護衛チーム”と、それを狙う“強盗チーム”とで、PCたちが分かれて奪い合う話をGMは考えていたよ(元ネタは某『J○JO5部(伏字)』)。でも、GMの実力不足で諦めたんだ。だから、各チームが同じ人数なのはその名残かもしれないね。「この“ハイエナ”には夢があるッ!」

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