真面目で堅物な医学生が、無二の友の仇を討とうとして、逆にとんでもない魔性の女に完膚なきまでに返り討ちにされてしまうお話。
おそらくは近代あたりを舞台にした創作寓話です。あるいは怪奇譚。ホラーやファンタジーと言えなくもないのですけれど、お話そのものの構造としてはきっと昔話に近い。
タグにもある通り「ファム・ファタール」の物語なのですが、そのファム・ファタールであるところのユリエさんの造形がもうとんでもない。なんかもう、「女という名の激甚災害」みたいな存在。なにしろ外見から中身まで、その男にとっての理想を完璧に体現して、つまりは、
「ファム・ファタールという概念を妖怪化したものに、そのままサキュバスの能力まで乗っけた」
みたいな、この手のつけられなさ加減が本当に最高でした。無敵すぎる……ついでに、主人公の性格や気質の、もう見るからにこういうのに弱そうなところも。キャラクターの相性の時点で負けが確定している……。
彼女が男たちに残していく、一生消すことの叶わない致命的な傷跡。残りの人生を完全な抜け殻として歩むほどの、完全な劇薬としての〝甘く幸せな思い出〟。ある意味では理想の終わり方というか、きっと誰しもが心の奥底、無意識に抱えているかもしれない甘美な破滅願望を、そのまま味わわせてくれるかのような作品でした。