最果ての砂浜
モルフェウスに捧げます。
21/08/06
わたしたちは道に迷っていました。地獄のタクシーはいつの間にか舗装された道路を抜け、鬱蒼とした森に入り込んでいました。猛スピードでバウンドしながら坂を下る、標準仕様の乗用車の後部座席の車窓からは、傘の直径が1メートルはあろうかというベニテングタケの乱立する、怖気を覚えるような森の景色が千切れ飛ぶように流れてゆきました。
ふっと森を抜けると、突然目の前には砂浜が広がっていました。道は先の方で海に阻まれていた為に——尤も、わたしたちの通って来た、車の好き勝手に暴れた跡を道と呼んでもよいのならばです——わたしたちは車から降りる事にしました。
わたしは来てはいけない場所に来てしまったと思いました。
砂浜には足の踏み場も無い程に、見た事も無いヒレの黄色いくすんだ銀色の魚が打ちあがり、そこにありとあらゆる海鳥が——カモメ、ウミネコ、カツオドリ、アホウドリ、そしてサギやムクドリまでもが群がっていました。
海には波はほとんど無く、泡立つばかりでこちらを映そうとせず、一種藤色のような紅色のような、スペクトルに富んだ色合いをしていました。水平線の方や空には薄い雲が掛かっていて、常に生ぬるい風が強く吹き付けてきます。太陽は雲に遮られて、光の拡散した、ぼうっと巨大な形の無い塊になって鬱々とぶら下がり、飛び交う海鳥の影が時たまそれさえも隠そうとしてしまう、そんな様子です。
魚をよく見ようとしゃがんだわたしの肩に海鳥が塊になって覆い被さって来ました。慌てて払いのけた私の頬を、カツオドリのピンク色の足がかすめます。
最も奇妙に思ったのはその時でした。これほどまでに凄惨な光景が広がっているならばする筈の、海鳥達の生臭さや、そこら中に転がる魚の強烈な腐敗臭がしないのです。漂って来るのは僅かな海臭さのみで、それが余計に恐怖を搔きたてました。
ああ、わたしは通常の方法では帰れないのだと、この時確信しました。
尤も、何かありそうなモノもありました。半島のように突き出た砂浜の上に、先の無い、ローマの水道橋のようなアーチ橋の高架が何処かから続いていて、わたしたちから軽く10メートル以上は高い所に、小さなトロッコ列車と、ひとりのタバコを吸うおじいさんが居ました。
おじいさんはタバコをトロッコ列車のボイラーに突っ込むと、ぐるりとこちらに向き直り、まっ黄色の歯をみせてニタニタと笑いました。
その瞬間、トロッコは猛スピードで先の続いていない方へ走りだし、わたしは夢から覚めました。
夢日記 夢葉 禱(ゆめは いのり) @Yumeha_inori
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