銀の皿


 モルフェウスに捧げます。


 20/01/11


 あなたは——そして私たち一行は、教会を訪れている。

 あなたが正面の方から覗き込むと、側廊の奥の方に、ぼろぼろの布を被った恐ろしく腰の曲がった老婆、あるいは老人が、純銀の皿をゆっくり、ゆっくりと押して中へ入って行こうとするのが小さく見えている。

 あなたには銀の皿の中身が見えない。しかしあなたはその皿に、見た者の認識機能に壊滅的な崩壊を齎す、ヒトの血がなみなみと注がれている事を直感的に認識する。あなたはそっと後ろを向いて、静かにその場を去ろうと試みるが、あなたの後ろでは何人もの人間が世間話に花を咲かせている。

 あなたは観光バスに乗って、俯瞰視点で景色を眺めている。いろは坂のように曲がりくねった坂をバスが登りきると、巨大な木造建築——旧い豪勢な日本家屋が100も積み重なったような旅館が見えてくる。

 あなたはそこで巨大なうわばみに追いかけられ、西ウイング丸ごとを使って逃げ回り、うわばみは破壊の限りを尽くすが、それはまた別のお話である。

 うわばみは搔き消える。

 そしてその時、扉をくぐって消えようとしていた老婆、あるいは老人が恐ろしい勢いで此方に向き直る。

 あなたの全身を恐怖の波が襲い、ぶわりと鳥肌が立つ。

 老婆、あるいは老人は、静かに皿をひっくり返す。あなたは目を瞑ろうとするが、間に合わないか、そもそも瞑れない。覆水盆に返らず。あなたの世界はスローモーションで進んでいる。深紅の鮮血が膜のように広がり、壁や床に跳ね返るのがゆっくりと見て取れ、そして、巨大な力が津波のように迫って来た。

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