貴方のためだけのコーヒー

ちょっと久しぶりの場所に行ったら、お洒落なコーヒー屋ができていた。


最近はやはりコロナの影響で、この界隈でも空き店舗がかなり目立つ。かつては人混みでろくに歩けなかった原宿の竹下通りでさえ、多くの店にシャッターが下りている。


それでも入れ替わりに次のお店が入っていることもあり、このコーヒー屋も、この近くに多いノマドワーカー向けのカフェ的な雰囲気で、新しくできたんだろう。


この手のカフェの特徴は、内装がこざっぱりとして、喫茶店というよりオシャレな企業の休憩スペースのような感じであるところ(いや、外からのぞいただけだけど)。

リモート会議みたいのをしてるような人が大半。

っていうか、本当にカフェじゃなくてコワーキングスペースなのかもしれない。

そして、「いかにも」なのは、入り口の隣に窓がついていて、テイクアウト専用の注文口になっているところ。



通りかかると、その注文口に男性が一人、壁に寄りかかってコーヒーを待っていた。

ふと見ると、何と、コーヒーはコーヒーでも、一杯ごとにその場で淹れてくれるドリップコーヒーのようだ。

店員さんが、あの、注ぎ口がストローみたいに細い急須みたいなやつ(ぐぬぬ、お分かりいただけるだろうか…)で、ゆーーーっくりと、湯を注いでいる。


へえ~~、何だか贅沢な気持ちで、おっしゃれー。


その上、店員さんが美人だから、それ目当てに並んじゃったり…ね。


うんうん、コーヒーをゆっくり静かに淹れてくれる美人のおねえさ…。


…。

…ちょ、長髪の、お兄さんだったーーーっっ!!!(歓喜)



急いで振り返る私。

エプロン姿で、肩までの髪をハーフアップ(?)にした店員Aくん。

壁に頭をもたれて、一歩離れた距離から、静かに何事かを話しかけているカジュアルスーツのBくん。

ものすごく微かな笑みで、でもコーヒーから目を離さず、やわくうなずくAくん。


…あーー。

ゆーーっくりとコーヒー一杯を淹れる、この時間。

自分だけのためのコーヒーを目の前で淹れてくれる、この関係。


友人が訪ねてきた時、お決まりのセリフで「コーヒーでも淹れようか」ってのがあるけれども(男同士で、実際にはどれくらいあるのか分からないが…)なぜかその友人関係よりも、店員と客というこの関係に、コーヒーというものを介した蜜月のようなものを感じた。


…ちょっと、何か、芽生えちゃってもおかしくないんじゃないだろうか。いや、もう芽生えているんじゃないだろうか!!(願望)



豊かなコーヒーの味わいと香りをお裾分けしてもらったような満足感で、私は歩き去った(妄想しながら)。





そして。


後日、再びそこを通りかかった。

前は昼下がりだったけど、その日は朝。


コーヒーを待っている男性がいた。先日のBくんではなく、もうちょっと「とっつぁん坊や」な雰囲気の男の子(笑)

何と、スマホのカメラを構えている。

コーヒーを淹れる様子を撮っているのだ!

やっぱり、目の前で淹れてくれるドリップコーヒーは少し珍しいようで、はしゃいでいる。


そして、店員さんは、今度こそ美人のお姉さん!(笑)


そうそう、こういうのがね、お約束だよね、普通。

私も何か、感じたんだよ。

『自分だけのためのコーヒーを目の前で淹れてくれる、この関係』…っていうのが、まるで、アイドルとの撮影会や握手会みたいじゃないかって(身も蓋もない)。


でも、あの時の二人はそういう雰囲気ではなくて、もっと、静かな夜にジャズがかかってるような、そんなオーラが出てたんだよ。

そしてたとえ、Bくんが一方的に、500円とか600円を払うことで手に入れている蜜月だったとしても、その憂いに、Aくんは応えている感じだったんだよ…!!(←もはや妄想)


…いや、最初から最後まで妄想だけどさ(笑)



熱いコーヒーが美味しい季節。

皆さんはコーヒーお好きですか?(なんか綺麗に締めてみる)

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