第4話 盗賊の髪は明るい茶色


 信じられない。

 信じられない、信じられない!

 血に塗れていない、五体満足のアーロンがいる。

 青褪めてもいなければ、倒れ伏してもいない。

 愛の奇跡は、起きたんだ…。

 やっぱり私達の愛が奇跡を起こしたのね、そうに違いないわ!!

 だってその証拠アーロンが目の前にいるんだもの!!


「アーロン!」


「おっと、近寄らないでくんない?」


 飛び付こうとして、チビの盗賊シーフに邪魔される。私と並ぶくらいの身長しかないくせに、すばしっこくてドブネズミみたい。


「邪魔しないで!」


「二人は早く治癒医院に行って来て」


「…僕は杖が壊れたぐらいで」


「はい、嘘〜。右手、自分の過剰魔力で大火傷してた癖に我慢しな〜い」


「僕は回復薬で…」


「治癒医院が苦手なのは知ってます。が、すでに二人分で予約しましたので、大人しく行ってきて下さい」


 さっきから盗賊シーフのせいで全然近づけない。

 私とアーロンの感動の再会よ? 何様のつもりなのよ!!


「分かったよ、アーロン。おら、行こうぜ」


「……仕方がないですねぇ…」


「あ、コイツの相手すんなら言っとく。たぶん、冒険者の特権を知らねぇぞ」


「え、ギルドの講習会は受けてるはずですよね」


「受けてねぇと冒険者登録出来ねぇしな、頭やべぇからまともに聞いて無かったんじゃね?」


「あり得るねぇ」


「はいはい、二人は早く行った行った」


 武道家と魔法使いどうでもいい二人組が冒険者ギルドを出て行った。

 盗賊シーフも一緒に出ていけばいいのに、変わらずアーロンの前に立って私の邪魔をする。


「アーロン! 私は貴方を助け」


「実は少し前から君の話を聞いていましたが、色々と誤解があるようですね。ボクに対しての誤解はそのままでも別に構いませんが…これだけは確認しておきましょうか。冒険者の特権を答えて貰えますか?」


 え? そんなのどうでも良くない? 感動の再会で、愛の告白が先じゃない?

 …そう思ったけど、まぁでも、アーロンの質問には答えてあげるべきかな。


「記憶力には自信あるの。冒険者ギルドを利用出来る事、国々の移動がで楽に出来る事、ダンジョンに入れる事、でしょ?」


 大まかにはこの三つよね。

 冒険者ギルドは国を跨いで世界中にあるから、冒険者ギルドはとても頼りになる存在。

 その冒険者ギルドの後ろ盾があるから、国境を超えるのも身分証明だけで済む。

 ダンジョンだって場所によっては国や町が管轄している所もあるけど、冒険者なら誰でもいつでも入ることが出来る。

 講習会で鬚もじゃの男が言ってたし、漫画にもちょろっと説明があったもの。


 まぁ、漫画は基本的に落ちこぼれの貴族の三男坊主人公が色々あって成長して、仲間と共に荒れた辺境にある自分の領土を治めていくって話が主軸メインストーリーだったから、冒険者については仲間からの話しか出て来なかった。貴族は権力とか派閥?だとかの問題で、国家に対しても中立の立場を持つ冒険者ギルドに登録出来ない仕組みみたいだし。


「他には?」


「他?」


「神の祝福については?」


「……宗教の勧誘みたいな話があったような気がするわ」


 宗教には興味無かったからスルーしてた。困った時の神頼みとかは分かるけど、お布施目当てってことが丸わかりなのに教会通えって言われてもね。


「うわ…一番大事なとこ抜けてるじゃん」


「冒険者には、探求の神の祝福を受けることが出来る特権がある…と教えられているはずなんですが。だからこそ冒険者ギルドの隣に教会があるのに…だから君は誘っても付いて来なかったのですね」


 探求の神の祝福…? なにそれ、冒険者って実はカルト宗教だったの?

そんなの漫画にも出てこなかったじゃない。


「一応説明しやるけどさ、教会で祝福を受けた冒険者は、回数制限付きだけど神の奇跡で蘇生が出来るし、本人の意思と仲間の任意によってその場で蘇生も可能になるんだぜ」


 ……え?

 神の奇跡で、蘇生…?

 え、出来るの? 設定では確かに神の奇跡でってあったけど、そんなに簡単に??

 いえ待って、クズの盗賊シーフの言葉なんて信用出来るわけが…。


「前回のボクの場合は、ボス戦で蘇生しました。そういう取り決めを前もってしてありましたからね」


「安全を優先するなら冒険者ギルドか教会で蘇生も可能だし、探求の神様ってすっげ~よな」


「小まめに教会に通っていた甲斐はありましたよ」


 アーロンが盗賊シーフの言葉に否定するどころか、当然のように会話してる。

 もしかして、本当のことなの?


「じゃあ、アーロンの死体が消えたのは…?」


「蘇生は新たに身体を構築する形なので、死んだ古い身体は光の粒になって跡形もなく消えます。この時、装備も新たな身体の方にそのまま移転してくれるので便利なんですよ」


 は? なにそれあり得ないでしょ? 

 都合が良すぎるし、なにより愛の奇跡は? あれってそういうイベントだったんじゃないの?

 だから私、あんなに頑張ったのに。まずい薬も飲んだのに!

 …でもアーロンが私に嘘つく理由がない。


「ダンジョンに食べられたって、思って…」


 あの時の絶望を思い出すだけで涙が出てきそうになる。


「あんな与太話、信じてたって?」


「アンタには聞いてない!」


 あざ笑う盗賊シーフに強く言い返したら、涙が引っ込んだ。

 納得は出来ないけど、つまりは…アーロンの蘇生は、愛の奇跡では無かったみたい。

 勘違いしてた私、ちょっと恥ずかしい。

 うん、でもまたアーロンと一緒にいられるならこれぐらい平気よ、平気。


「知らなかったわ…、教えてくれてありがとう、アーロン」


「冒険者としての常識ですよ」


「って言うか、コイツが講習会で話聞いてなかっただけじゃん。バカだな〜」


「えぇ、バカですね」


「…アンタみたいなクズよりマシよ」


 盗賊を睨みつけて言い返そうとしたけど、アーロンも同意しちゃったから否定出来ない。

 それぐらい当たり前の情報だったわけね…。アーロンももっと早く教えてくれてたら良かったのに。

 ああもう、話題を変えなきゃ。


「それより、次はどうするの? ダンジョンの依頼が終わったら町を移動するって話だったよね」


「……もちろん、移動しますよ、この辺りのダンジョンは制覇してしまいましたから」


「そっか、じゃあ次の町はどこにするの?」


「それは秘密ですね」


「え~、サプライズってこと? 楽しみだけど、次は港町とか海辺がいいかな~」


「君は港町に向かうんですね、ボク達とは違うようで安心しました。では、お元気で」


 行きましょうか、とアーロンが私に背を向ける。

 盗賊シーフがずうずうしくその後ろを着いて行こうとしてるけど、アンタとはここでお別れよ。


「待って、アーロン」


「着いて来ないで下さい」


 ほら見なさい。

 アーロンは私と――


「ボクの仲間をクズと呼ぶような人、もう会話すらしたくない」


 振り向いたアーロンの鋭い目線は、真っすぐ私に向いていた。

 あれ?


リリナきみをパーティから追放して正解でした」


 …あれ?


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