我楽多島の傀儡

宮古遠

我楽多島の傀儡

序幕

御子屋氏の手記

 

     一 



 わたしがこの、自称じしょう魔術師まじゅつし―――斑目まだらめとがめという人物に出逢であったのは、わたしがまだ年若い、純粋なる学生のころであったと。そう、記憶しております。

 が、なんと云いましょうか。

 彼というものはあの頃もいまも、まったく姿が変わらぬのです。

 あこがれの、ままなのです。

 華奢きゃしゃな、けれどすらっとした、足と手と、柔らかな指。―――赤く発色をする、腰元ほどまで伸ばされた髪。―――切れ長の、長い睫毛まつげの、三白眼さんぱくがんの、万華鏡まんげきょうのようなひとみ。―――浮き出た首筋くびすじの、鎖骨さこつの。………

 あの頃と同じ美麗びれいの姿で、斑目まだらめというのはわたしを眺め、わたしのことを見透かして、わたしと話をするのです。大人びた青年とも、うるわしき少女ともとれる様相のまま、ずうっとこの世にあるのです。

 それだけが、確かなのです。

 そんな彼にうために、きっと、今日もわたしは―――このような文章を書くことにより、日々のたつきを立てている、御子屋みこや千央ちひろというものきは―――鬱蒼うっそうとした森林の、険しい山の中のみちを、上ったり、下りたりして。周囲を取り囲む竹藪たけやぶの中を、あっちへ行ったり、来たりして。―――いろいろのつたおおわれた、深い深い霧の中、洋燈ランプの灯りの中に浮かぶ、古ぼけた、灰色はいいろ煉瓦れんがの、西洋館のその前に、ぼんやりすくんでいることでしょう。彼とのおだややかなる時間のために、至福を、得るために。………

 が。

 その日は違いました。

 わたしというのは明確に、寸刻すんこくを争うようにして、彼―――魔術師まだらめという男に、助けを求めていたのです。


 ―――連続れんぞくバラバラ分解ぶんかい事件じけん


 ヒトを球体関節人形きゅうたいかんせつにんぎょうに変え、「よい」と思った一部分パアツを綺麗さっぱり奪い去り、残りをバラっとててしまう———傀儡師くぐつし比玖間凛恩ひくまりおんの引き起こした、常軌じょうきいっした怪事件に、わたしの従妹いもうとというものが、巻き込まれて、しまったために。………



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る