『仏壇』【紫桃のホラー小説SS】
『家 ――還る場所――』
作:紫桃
家はふしぎだ。
家は建てられると住む人を守り、生命を育む場所を与えてくれる。成長を見守り、巣立っても帰省したときに温かく迎えてくれる。どっしりと堅固で雄々しくもあり、人に安らぎを与える穏やかなものでもある。
家は丈夫そうだが、無人になると
今、生活している人たちだけでなく、亡くなった祖先も家に住んでいる。そう感じた瞬間があった――
✿
祖父母の家を訪れたとき、いつものように仏間へ向かう。
まずは手を合わせて先祖へ挨拶をする。これがうちのルールだからだ。仏間へ足を踏み入れた
人がいない……?
いきなり感じた無人の空間。物を収納するだけの倉庫、放置された土地、手入れされていない林など、人の生活感がない場所にきたときに感じる空気だ。
一言でいうなら「無」。無音で無味無臭。空虚という言葉がしっくりくる。仏間で空虚を感じたと同時に、これまで常にナニカがいたんだと気づいた。
しかし……なぜ急に無になったのか。
これまでにも仏間で一人きりで手を合わせることは何度もしている。なにもないと感じたのは初めてのことだ。
今まで味わったことのない仏間の空気になじめなくて、手を合わせたらすぐに祖父母のもとへ行った。
人の気配が消えて「無」を感じたことで、今までナニカがいたことがわかった仏間。目には見えないけど、ナニカがいて…… たぶんそのナニカはヒトだ。
「仏壇にはね、ご先祖様がいるんだよ。
だから家に来たら最初に挨拶しなさい」
これは祖父母の口癖だ。子どものころからうんざりするほど聞かされ、はいはいと流していた。居るのが当たり前だったから気づけなかったけど祖父母の言っていたとおり、仏壇には霊体がいるんだ。
だから家人が留守にしているときでも家には人の気配があり、温かくて生き生きとしているのだろう。
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紫桃が執筆している
『においと霊の存在』より
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