『深夜の事故』【紫桃のホラー小説SS】
『
作:紫桃
場所は都市部ではなく、少し郊外。
片側が一車線ずつの二車線道路がぶつかる突き当たり―― つまり丁字路に当たるところに住んでいたときのことだ。
アルファベットで表すなら「T」という文字の上の部分、横に走る道路と縦に走る道路がぶつかる場所にある家の2階に住んでいた。部屋は縦に伸びる道路の真正面に位置していて、一直線の道は2階からだと見晴らしがいい。
眠れない夜はよく道路を見た。
部屋の明かりをすべて消したあとにカーテンと窓を開き、窓辺に座ってぼんやりと道路を眺める。それだけだがけっこう気に入っていた。
この日もなかなか寝つけなかったからベッドにいることは諦めた。
窓を開くとからりとした涼しい風が入ってきて心地がいい。窓辺へ座り、いつものように直線道路を眺めていた。
夜中の3時を過ぎると車はなかなか通らない。なにも考えずぼうっと目の前の風景を見ていたら明かりが現れた。
二つに並んだようすから車のヘッドライトとわかり、車体が現れた。車は対向車のない道をゆっくりと走っている。
「車」と認めたら、ふと『事故が起きる』と思った。考えが浮かんだことに驚き、なぜそう思ったのか理由をさがすように車を見続けていた。
少しして走行している車のようすがおかしいことに気づいた。車はまっすぐ走らずに、ゆっくりとした速度で左右にふらりふらりとくねっている。
やばい……わき見か、居眠り運転だ……。
車は止まる気配はない。ひやひやしながら見ていると、ふらつきながらも確実に突き当たりとなるこの家へ向かっている。
惰性のようにゆっくりと進行する車に、わき見ではなく居眠り運転と気づく。危険な状態だとわかったところで対処はできない。窓際でハラハラしながら運転手が目を覚ましてくれることを願うだけだ。
どんどん迫ってきて、家がある場所まで10メートルを切ったときから、用心して窓辺から少し離れた位置から見ていた。
迫ってきた車体が窓枠の下へ入ったときは、ぶつかると確信した。距離を取ったつもりだけど衝撃で
ほかに音がいくつか続いた後、室内にハザードランプの光が入ってきた。大きな音がしなくなったところで、おそるおそる窓辺へ行き外のようすを見た。
家の壁に激突したのだろうと予想していた。ところが車がもう1台増えている。2台とも停車してハザードランプを点けており、破損状態から推測するに横から直進してきた車と衝突したようだった。
大きな衝突音ではなかったから、あまりスピードが出ていなかったか、ぶつかる直前でブレーキをかけたのかもしれない。エンジンが止まった車の横には運転手と思われる人がいて、両者とも怪我はないようだ。
夜なので周りに配慮しているのか当事者たちの声は大きくない。事故処理を始めたようで連絡を取るような会話が聞こえている。しばらくすると赤いライトが見えて、サイレンを鳴らさずにパトカーがやって来た。
ベッドに寝転び、耳をそばだてて外のようすをうかがう。現場の事情聴取が部屋の中まで聞こえていたけど、1時間も経たないうちに夜の静けさが戻った。
静かになった空間で事故の興奮から寝つけずにいて、再び窓辺へ向かった。窓の外を眺めると、東の空がうっすらと白んでいたのであわててベッドに戻った。
無理やり眠ろうとするけど、『事故が起こる』と考えが浮かんで、本当に事故が発生した現場を見たから神経が高ぶっている。だが外は何事もなかったように静かだ。
こんなに静かだと夢でも見ていたのかと思ってしまう。
翌日、明るいときに家の前を確認してみた。
あの出来事は夢でもなく、
現場には車のライトカバーの破片が落ちていた。
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紫桃が執筆している
『予知はハズレのほうがいい』より
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