『交差を楽しむ妖怪』【紫桃のホラー小説SS】


『ふわふわ』

   作:紫桃




 東京都内で街路を歩いていたときのことだ。


 ナニカが足にからんできた。


 ソレは右足の外側にふわっとふれたら、右足の前を通ってそのまま左足のふくらはぎにふれて去っていった。


 なんだ今のは?

 おそろしく俊敏なやつだな。


 成猫ほどの大きさに感じたソレは歩いている足をぬうように抜けていった。


 異様なモノとの遭遇に自然と足はとまり、いないとわかっていても足元を見る。

 やはりなにもおらず、周囲を見渡しても該当しそうなモノの姿は見当たらない。


 現実的に考えると、動いている両足の間をすり抜けられる生き物がいるとは思えない。

 あり得ない動きをしたソレは、おそらく妖怪のたぐいだろう。


 イタチみたいに長い体していたな。

 でも柔軟さは猫っぽい。


 猫を飼ったことがある人は経験があるはずだ。

 猫は甘えるときに足にからみついてくる。はじめはためらいがちにすりっと体をつけ、反応を観察して大丈夫だとわかったら、すりすりと体をよせて甘えだす。


 遭遇したナニカは猫みたいな動きだった。

 ふわふわした長毛の猫がやって来て、すりっと体をよせて去っていった――。そんな感覚があった。


 ふれてきた感覚は猫に似ていたが、実在する生き物ではないと確信している。

 アレには厚みがまったくなく、空気のようにすっと足の間を通り抜けた。風のような圧はあれど重さは感じなかったからだ。


 姿の見えないナニカとの交差。

 たまたま交わったのか、それともかまってほしかったのか……。


 なんのへんてつもない街路で遭遇したふしぎな出合い。


 どうやら東京には、ふわふわな毛皮をもつ俊敏なナニカが生息しているらしい。






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 紫桃が執筆している SS ショートストーリー

 『ふれてくるアヤカシたち』より


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