【余話】こういうときは勘がいい
予知――未来のことがわかる。
あらかじめわかっていれば危険を回避できるし、選択するシーンでは良いほうを選ぶことができる。予知する異能は、未来を知っているから余裕をもって選べるものと勝手に考えていた。
予知の異能があれば人生が楽だろうと思っていたけど、コオロギの体験では望むものが視えるとは限らないし、無意識に行動しているから予知していること自体気づいていないようだ。
漫画や映画のように自在に操れる異能じゃなかったことにはがっかりしたけど、無意識のうちに危険回避できているのはすごい。
歩きながらコオロギの体験談を思い出していて、「無意識でも予知できる異能はすごいな」とこぼしたらコオロギはきょとんとしていた。そこから始まったのが次の会話だ。
「
「あるわけない」
「正夢は見たことないのか?」
「正夢?」
「正夢を知らないのか?
正夢とは夢で見たことが未来で事実となる――」
「単語の意味は知ってるぞ!」
「ふぅ、よかった。知らなかったらどうしようと焦ったよ」
「まったく。正夢は知っているけど、夢が現実になったことはないよ」
「 ?? 」
「なんでふしぎそうな顔してるんだ?」
「そう……なんだ……?
ほ―――ん? 夢は正夢にならないのか……?」
首を左右に傾げながらぶつぶつと始まった独り言。これはコオロギが思考の迷宮へ入る合図のようなものだ。俺はあわててコオロギを引きとめる。
「コオロギは正夢を見たことがあるのか?」
「……よく見るものじゃないのか?」
いぶかしげに聞いてくるようすから俺は察知して心の中でつっこむ。
正夢は一生のうちで数回見るくらいのレアなことだと思うぞ!
コオロギは珍しい動物でも見るような目で俺を見てきて、確認するように質問してきた。
「就活で職場見学をしたら、夢で見たオフィスだった……ってことない?」
「……ない」
「旅先で石碑を見たときに、夢に出てきたやつだった……ってことない?」
「ない!」
「あれ? 正夢って……珍しいことなのか??」
なんなのっ、本当になんなんだ!?
なんで『ふしぎ』がコオロギには『ふしぎ』じゃないんだよ!
人は寝ているときに必ず夢を見ているといわれている。見ていたとしても俺は夢を覚えていることはほぼない。夢の内容を覚えているだけでも珍しいというのに、コオロギは激レアの正夢を珍しいと思ってないなんて異常だよ!
俺からすれば『超常現象』なのに、コオロギには『日常』という感覚の差がある。ホラー体験をしているのに本人は怖いと思っていないし、ふしぎな体験をしたという自覚もないから、埋もれたままの
さらっと出てきた正夢の体験談も、詳しく聞けば興味深い話がわんさか出てくるはずだ。「もっと詳しく聞かせろ!」と言おうとしたら、さっきまで横にいたコオロギの姿が消えている。
さては俺の好奇心に捕まると察知し、そそくさと逃げたな?
街路を見回すと、俺から逃げるように早足でコオロギが歩いている。このパターンは、今は話したくないぞの合図だ。
こういうときは勘がいいんだよなあ。
くそう。いずれ聞きだしてやる。
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