13 霊が「視える」と「見えない」の差はなんだ?
俺――
異能は簡単にいうと霊感があるという意味だが、その異能者・コオロギ――
小説や漫画、映画に登場する霊感がある人って、幽霊とか妖怪など
ところがコオロギの異能は変わっていて、
今回のようにコオロギに視えた経験が増えることは、俺にとってありがたい。なぜかというと、コオロギの体験をもとにしたホラー小説を書いているが、
コオロギの異能をわかりやすく五段階の★で表すと、こんな感じになる。
【異能スペック】
視覚:★★
聴覚:★
嗅覚:★★★★★
触覚:★★★
味覚: ―
★の数=コオロギの奇妙な体験
コオロギは圧倒的に
俺自身は
未知の世界は俺を引きつける。
なにが視えていて、どんな風景なのか。視えているときの異能者の状態はどうなっているのか。知りたくてうずうずしてくる。
コオロギから
✿
「紫桃は物が見える仕組みって知ってる?」
「幽霊は見えないけど物が見える仕組みは知ってるぞ。
物を見るには光が必要で、光がない暗闇では物はおろか自分の姿すら見えない。
俺たちが見ているのは、物に光が当たって反射した色をとらえていて、物体の形までわかる仕組みだ」
「さすが紫桃!
なら、同じパーツをもってて幽霊が視える人と見えない人がいることを、ふしぎに思ったことはない?」
『パーツ』って……。人体の組織を機械のように言うなよ。
これだからパソコン慣れしているやつは。
「確かに角膜・水晶体・網膜など目の構成は一緒だ。
正常な組織なら同じように見えていてもおかしくない……。
どうして違いがあるんだろう?」
「自分の考えだけど、視えてても気づいていない人はけっこう多いと思う」
「幽霊が視えていても気づいていない?
なんでそう思うんだ?」
「フォーカスだよ。
例えば自分と紫桃が同じ場所に立ち、渋谷の街風景を見ていたとする。紫桃は道を行く女の子をとらえて、自分は店の前にいる猫に目がいく。
この場合、紫桃のフォーカスは女の子に合っていて、ほかは背景となり、猫の存在すら気づいていないかもしれない。そして自分は猫にフォーカスが合っている。ただ女の子は猫よりサイズが大きいから存在は認識されるけど詳細まで覚えていることはない。
つまりフォーカスを合わせた対象は詳細まで注意深く観察するけど、その他もろもろは背景と処理されてしまうから認識されにくいんだよ。
これに当てはめると、街の中に
「言いたいことはわかったが……
俺を女好きのように言うのはよせ!」
「ごめん、ごめん。わかりやすくていいかなと思って(笑い)」
「ったく」
「まあまあ。お
なんだと!?
しらふのときにコオロギのほうから進んで体験談の提供だと!?
不吉なことの前ぶれか!?
ちょっと怖いぞ!
とりあえず気が変わらないうちに聞いとけ!
「しょ、しょうがないなあ。それで許すよ」
「新宿駅
「新宿西口の地下通路……。ああ、あそこって人が多すぎるよな。
たまに対面した人と進行方向がかぶる『お見合い』を、同じ人と何度もしているのを見たら、東京に来たばかりで人混みに慣れてないんだろうなあと思ってしまう」
「自分はよくやるけど」
「…………(まだ慣れないのかよ)」
「とにかく、その日の新宿西口も往来する人であふれていたよ。
東京の街を歩く人たちは動きが早く、あっという間に通り過ぎるから印象に残る人なんてあまりいないけど、雑踏の中で目にとまった人がいたんだ――」
✿ ✿
その人は四角張った顔をした男性。白髪交じりの髪は全体的にくたびれてて、風でも吹いたのか髪の一部が顔にかかるように乱れている。
新宿駅で
でもねえ、思い返したらその人は変だったんだ。
まず、踏み台に乗っているみたいに頭二つ分くらい周りより高い位置にいた。胸あたりまで姿が見えて目立っていたことから存在に気づけた。
次に、遠近感がおかしくて、周りの人よりひと回りくらい姿が大きかった。白い衣装のせいか全体的に色素が薄く、一人だけモノトーンのように見えている。色彩が多い中で違和感をもった。
最後に、立ち止まっている人がいると歩行者はぶつからないようによけるから遠目でもわかる。でもその人の周りは誰もがすいすいと歩いていて、まるで厚みがないようだった。
✿ ✿ ✿
「その人を視たときは『目立つ』と思っただけだった。
思い返したときに目立っていた理由を考え始め、周りと比較をしてチョット違う存在、
思い返したのは偶然で、帰りの電車で『そういや、ひさしぶりに托鉢している人を見たな』と浮かんだことがきっかけなんだ。回想して
ここまで話すとコオロギは首をかしげた。顎に手をやると、黙りこんで思考をめぐらせている。少しして口を開いた。
「ほ――ん……。紫桃に話してるうちに疑問がわいた。
新宿西口で見かけた
白い服は、もしかして
「…………」
「ん? 紫桃、なんで黙ってるの?」
「……怖いんだよ……」
「えっ、怖いか?」
「怖いよ! なんでコオロギは平気なんだ!?」
しかしコオロギの体験談や、コオロギと一緒にいて俺自身も体験してしまったふしぎな現象などから、コオロギの話す
今話したその不気味な男は新宿にいるんだろう?
得体のしれない霊体がいたら、見えなくとも怖いに決まってるじゃないか!
「すぎたことだし、害もなかったからなあ。
んじゃ、安心させてあげるよ。
もしかしたら新宿駅で見たのはただのコスプレかもしれない」
「なんでだよっ!」
「だってさ、東京っていろんな服装の人がいるじゃん?
アニメキャラやゾンビの格好をしている人がいても驚かないよ。
だから最初に見たときも、
確かに東京だと奇抜な格好をしている人は多い。見たときは
コオロギの楽観的な考えを聞いてビビっていた俺の不安は薄らぐ。気持ちに少し余裕がでてきたので、これを機に奇譚をいろいろ聞いてやろうと思いついた。
「コオロギ、もっとふしぎな体験を話してくれよ」
「やだよ、恥ずかしい」
「『恥ずかしい』? なにが?」
「恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ!」
「基準がわからないぞ!」
コオロギの思考回路は理解不能なところが多すぎる!
しらふのときに体験を語りたがらない理由が「恥ずかしい」だと!?
エロそうな百〇やB〇の漫画は堂々と買うくせに、恥じらう部分が違うだろっ!
⋯⋯⋯✎ 紫桃のメモ ⋯⋯⋯
〇〇年〇〇月〇〇日
コオロギからの情報
・新宿駅西口の地下広場あたり
・白い和装姿の男性幽霊が出没する
⋯⋯⋯⋯⋯⋯✐
_________
【参考】
✎ ネットより
*1 新宿駅について:
新宿駅はJR東日本の統計データによると、乗車人員第1位となっている。
JR東日本「各駅の乗車人員 駅別乗車人員(ベスト100)」
1位:新宿駅(77万5386人)
2位:池袋駅(55万8623人)
3位:東京駅(46万2589人)
※数字は「乗車した人」の一日平均。2019年度のデータより
※JR東日本のWebサイトより
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます