【余話】校正の魅力を体験
コオロギが数分かけて校正愛を語っていたが、先のエピソードでは省略した。
省略した部分は別に掲載しなくてもよかったんだけど、コオロギがあまりにも熱心だったから完全スルーは悪い気がして……。
だから読者を巻きこむことにした。
あのときコオロギは、
「校正の良さは体験したほうがわかると思うから問題をだすよ」
――と言ってきた。俺はめんどうくさいから断ったんだ。
そしたらさ、コオロギはあからさまにショックを受けたんだよ。
⋯ ⋯
「別に問題ださなくてもいいよ」
「……そう…なの……」
えっ、なんだその、
親が子どもに「いいところに連れて行ってやる」と言って外出し、到着地が期待はずれで落胆したときの子どものような顔は!
――罪悪感をもつぞ。
おいおい、なにその、
飼い犬が遠出の散歩だと思ってうきうき気分で車に乗りこみ、着いた先が動物病院と知って絶望したときのような背中は!
――俺がまるで極悪人みたいじゃないか。
ああっ、もうっ。
「コオロギ、ごめん。
やっぱり校正がどんなものか気になるから、教えてもらってもいいか?」
「しかたがないなあ」
くるりと振り向いたときのコオロギの顔を見たら……付き合うしかないだろう。
放置したままだと俺の良心が一生
⋯ ⋯ 回想 終了 ⋯ ⋯
コオロギはわざわざスマートフォンを使って問題をつくっていく。
そして「
✿
その一.間違っている箇所はどこ?
• ホ―ムページを開設した
その二.半角になっているのはどれ?
(1)① オリンピック ② オリンピック
(2)① Sunday ② Sunday
(3)① 12月 ② 12月
その三.どの漢字が入る?
(1)左右〔
① 対照 ② 対称 ③ 対象
(2)今年度から総務課へ〔
① 移動 ② 異動 ③異同
✿ ✿
俺にはちょろい問題だった。
「その一」だけで終了したかったけど、期待をこめた目で見られて、子どもみたいにわくわくされたら最後まで付き合ってやらないと罪悪感が
全問正解した俺にコオロギは「千秋チャン、やるねえ!」と目を丸くして驚いていたから、俺は気を良くして「まあな」と答えた。
そんなの簡単だぜ。
編集の仕事をかじってたんだよ、コオロギくん。
―――って、俺もなにのせられてんだよ!
校正の良さを問題形式で伝えてきて、それに付き合うのは手間だったけど、作った問題を見てコオロギの校正スキルが少しわかった。校正業務が務まるか半信半疑だったが最低限のスキルはあるようでほっとした。
それでもコオロギに対して校正できるのと心配する読者もいると思うので、先のエピソードでは翻訳できなかったコオロギの言葉を追記しておく。
コオロギは仕事をさがす場合、「初心者でもOK」「つき合わせがメインの業務」など自分ができそうな内容を選んでいるそうだ。
校正は扱う対象によって求められる知識が変化するし、作業も誤字脱字のチェックなど簡単なものから校閲までと業務内容が異なったりする。コオロギは身の丈に合った仕事を受け、間違いさがしが得意という能力を発揮しているわけだ。
コオロギが「校正は向いている」と豪語したことに納得できたけど…… ん?
ええっ!?
コオロギのやつ、まだ校正愛を語っている!
さっきの問題を解いたから満足できて終わりじゃなかったのかよ!
「でも校正って正誤チェックだけじゃないんだよ。ほかにも――」
おーい、コオロギ――……
これ、まだ続くのかよ……
日本人のほとんどに備わっているといわれている空気を読むスキルを発動させないコオロギの話はしばらく続いた。
✿ ✿ ✿
おっと、コオロギの質問の【答え】が気になった人はこちら。
その一.間違っている箇所はどこ?
• ホ―ムページを開設した
↓
【正解】ホームページを開設した
(
その二.半角になっているのはどれ?
【正解】(1)② オリンピック
【正解】(2)① Sunday
【正解】(3)② 12月
その三.どの漢字が入る?
【正解】(1)左右〔② 対称 〕な図形
【正解】(2)今年度から総務課へ〔② 異動 〕になった
__________
※ 注意 ※
校正の問題は、『カクヨム』の小説のビューワー設定が「フォント:明朝」、「組み方向:横組み」となっている状態で作っています。
スマートフォンも想定して作成していますが、わかりづらいかもしれません。
※ 注意 ※
小説内では業界用語はわかりやすく置き換えているので、正式な言い方ではない場合もあります。
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