第11章 新町通の違和感【4】

 次の瞬間、俺は陽の落ちた夕暮れの道にいた。

どうやら、知らぬ間に白昼夢の中から現実に戻ってきていたらしい。

 息が荒いのは、先ほどの白昼夢で、さくらと思しき人影が事故に遭うところを見てしまったからか。それとも全力で自転車を飛ばしたからか……。

……今、何時でどこだ?……

意図していなかったとは言え、一度白昼夢に飛び込んでしまったので、今が何時でどこにいるのか感覚がない。

素早くスマホを取り出してロック画面を点けると、時計は18時過ぎを示していた。

……18時過ぎなのは分かったから、ここはどこだ?……

そう思いながら、マップアプリを立ち上げようとして、俺はあることに気が付いた。

……あれ? さくらが事故った相手って、朦朧もうろう運転の幼稚園バスだっけ?……

俺の記憶に間違いがなければ、新町通しんまちどおりに立っていた目撃者看板の文言は、「大型トラック」だった。しかし、今回の白昼夢での事故の相手は、朦朧運転の幼稚園バスと思しき車だ。

……何で事故った相手が違うんだよ……

理解できない相違が生じているのも「白昼夢だから」と言ってしまえばそれまでだが、それにしたって、腑に落ちない。

……一体何がどうなって……

その時。俺の脳内にこの数日散々聞かされた俺自身の声が再生された。

『平行世界から自転車チャリで来た。さくらが危ない』

……もしかして……

俺が白昼夢だと思っていたのは、実は本当に並行世界……例えば、最初の「最悪の未来の白昼夢」だと思ったものは、「事故でさくらが死んだ世界」で、次の「電話越しとは言え、さくらの事故の瞬間に出会した白昼夢」が「間接的とは言え、俺がさくらの事故のきっかけを作ってしまった世界」だったとしたら……。

……とすると、さっきのは「さくらが朦朧運転の幼稚園バスと事故って、且つ俺がそれを目撃している世界」だったのか?

説明が付かないことに変わりはないが、それでもどこか納得できる気はした。

 ……待ってろよ、さくら……

俺は中央病院を目指して自転車を漕ぎ出した。

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