第11章 新町通の違和感【3】

 途中何度か信号待ちに引っかかったものの、どうにか8番目と9番目の信号機の間の交差点までやってきた。またしても赤に変わった信号機をにらみ付けながら、俺は自転車のハンドルグリップの端をタッピングしていた。

……早く変われよ、セミスクランブルのバカ信号……

 その時俺は、遠くに人影を見つけた。

交差点2つを挟んでいるのでよく分からないが、おそらくあれは事故当日のさくらだろう。

「……さくら!」

信号が青に変わるや否や、俺は自転車を急いで発進させようとした。

ところが、異様なものが俺の目に飛び込んできた。

 さくらと思しき人影が進もうとしている進行方向から、どこぞの幼稚園の送迎バスと思われる派手なカラーリングの車が姿を現した。

しかし、ふらふらと定まらない走りをしていて、明らかに様子がおかしい。

「さくら!」

ヤバい! と悟った俺は、大慌てで自転車を発進させた。

だが、ふらふら運転の幼稚園バスと思しき車は、速度を落とすこともブレーキをかける様子もなく、そのままさくらのほうに突き進んでいく。

「さくらぁ‼︎」

俺の必死の叫びが通じたのか、さくらと思しき人影はこちらを向いた。

「さくら!」俺は叫んだ。

「今すぐそこから逃げろ! ヤベぇ園バスが突っ込んでくる‼︎」

しかし。

 俺の叫びが届かなかったのか、むしろ人影はその場で脚を止めてしまった。

その直後。

ふらふら運転のバスのボンネットが、ドンッ‼︎ ととんでもない音と共に人影を直撃し、人影の華奢な身体が宙を舞う。

「さぁくぅらあ〜〜‼︎」

俺はあらん限りの脚力を持って、ペダルを回した。ところが、どういうわけだか、自転車は思ったように前進しない。

……クソッ、パンクはしてないはずなのに、なんでだよ!……

ノロノロとした走りのまま、俺は9番目と10番目の信号機の間の交差点に差し掛かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る