第6章 一夜明けて【4】

 高架橋の向こうに出た俺は愕然がくぜんとした。なぜか俺の家から数ブロック離れた地点に出てしまったからだ。

……はぁあああ!?……

 兎にも角にも、中央病院に向かわなければならない。

仕方がないので、俺はもう一度先程の高架下を目指すことにした。


 数ブロック先の角を曲がろうとした時、俺は誰かとぶつかりそうになった。誰にぶつかりかけたのかは薄々察しが付いていたが、俺は相手の正体を確認することにした。

 俺がぶつかりかけた相手は、予想通り俺自身だった。

……はぁ!? 今日もドッペルゲンガー!?……

 ぶつかられかけた俺は、相も変わらず間抜け面をさらしている。

こうなったら、こう言うしかないだろう。

「平行世界から自転車で来た。さくらが危ない」

それだけ言うと俺は、ぶつかられかけた俺の背後へ走り去った。


 しばらく走って、俺は自転車を止めた。昨夜は、このタイミングでさくらに電話をかけて地獄を見た。

……だから……

俺は電話をかけない、という選択を決めた。電話をかけなかったから、さくらは事故に遭わずに済んだ、という都合の良い展開は期待しない。それでも、俺の電話が事故原因でなくなるのであれば、それは俺にとって、ささやかな罪滅ぼしになる、それくらいの考えだ。

 ……さくら、待ってろよ……

俺は一路、新町通を目指して自転車を漕ぎ出した。


 気が付いた時、俺は見知らぬ道にいた。

……ありゃ? どこだ? ここ??……

周囲を見渡しても、今いる場所ががどこなのか、全く検討がつかない。仕方がないので、スマホのマップアプリを立ち上げた途端、俺は驚いた。

何と、今いるのは、中央病院へ向かうルートの途中なのだ!

あらぬ所に出てしまったと思ったが、実際は昨日通った道から3本ほど内側のブロック沿いに走っていただけのようだ。

……待て、待て! 俺は新町通を目指していたはずだぞ!?……

すると、そこで、……何を言っている? お前はさくらに謝りたくて、中央病院に行こうとしていたんじゃなかったのか?……という思いも蘇ってきた。

……そうだ……

俺はさくらに謝りたくて、会いに行こうとしていたんだ。

……だから……

「待ってろよ、さくら!!」

俺は中央病院目指して自転車のハンドルを切った。

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