第6章 一夜明けて【2】

 俺が内心安堵していたその時。ドアホンがピーンポーン! と高らかに鳴り、俺はドキっとした。

あたふたとドアホンの受話器に向かい、押した主を確認すると、ハ七三はなみ警部補だった。

「はい!」通話ボタンを押して返事をする。こんな朝から俺に何用だろう?

西浦にしうらさん、おはようございます。ハ七三です』

「はい。今開けます」言うなり、終了ボタンを押し、玄関に向かい、鍵を開け、ドアを開いた。

ハ七三警部補は、昨日と同じくスーツ姿だ。

「西浦さん、おはようございます」警部補は改めて挨拶をした。

「おはようございます、ハ七三さん。朝からどうされたんですか?」

「西浦さん、今、敢えて私の階級呼ばない選択をしたでしょう?」突然警部補がいたずらっぽく尋ねてきた。

「……なんで分かったんですか?」

「昨日、私があなたに身分を名乗った時、私は自分の階級までは名乗らなかった。でも、あなたは始終私のことを階級付きで呼んでいた。ということは、あなたは私が警察手帳を掲げた時に階級の表示に気付いていたからですよね」

「確かに階級のところには目をやりましたけど、さすが警部補の地位にあるだけありますね。……鋭いな……、ってか、俺、何か問い詰められてます?」

「あぁ、ごめん、ごめん。つい、職業柄、ね。……本当は昨日のあなたの様子がいろいろ気がかりだったから」

「観察眼が鋭いな、とかですか?」

「それもあったけど、昨日病院の控え室で嫌に静かだったから。普通はもっと取り乱してワーワーあるものなのに、あなたはひたすら黙って待っていたから」

「……まぁ、白石の小母さんがあれだけワンワンやってたら、娘の彼氏としてはフォロー役に徹するしかなかったって言うか、何て言うか……」

「でも、一人で黙って抱え込むのは良くないですよ。私で良ければ、相談してください」

そう言うとハ七三警部補は、連絡先の書かれた名刺を差し出した。

俺は慌てて就活生時代の記憶を手繰り、どうにか「頂戴ちょうだいします」と受け取った。

「私はこれから職務がありますので。それでは」

「わざわざご配慮、ありがとうございます!」

俺は警部補の背中が見えなくなるまで見送り、それからドアを閉めた。

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