第5章 絶望 【後編】

 数ブロック先の角を曲がろうとした時、俺は誰かとぶつかりそうになった。慌ててブレーキを引くと、俺はぶつかりかけた相手を確かめた。

俺がぶつかりかけたのは、まさかの俺自身だった。

……はぁっ!? またドッペルゲンガー!?……

 さすがに俺は本日三度目だから、そこまでビックリはしなかったが、ぶつかられかけた俺は、呆れるほど間抜けな顔をしている。

こうなったら、こう言うしかないだろう。

「平行世界から自転車で来た。さくらが危ない」

そうして俺は、ぶつかられかけた俺の背後へと走り去った。なぜ、そちらのほうに向かうのか分からなかったが、ぶつかられかけた俺と同じ方向に向かってはいけない、という予感はしていた。

 それからしばらく走ったところで俺は自転車を止めた。

……もし、これが今日の昼間なら……

さくらを事故に遭わせずに済むかもしれない。

 俺はスマホを取り出すと、着信履歴からさくらのケー番に発信した。

プルプルプルと呼び出し音が鳴り、「もしもし」とさくらの声がした。

「さくら、今、どこにいる?」

『いきなりどうしたの? たっくん?』

「なんでもねぇよ! ……それより、今、どこにいる?」

『今? どこにいるって……、新町通しんまちどおりだよ。……ほら、市美術館のある……』

 その時、聞くに堪えない、キキキキキーッ‼︎ という凄まじい音が聞こえ、ドーン‼︎ というとんでもない衝撃音がしたあと、電話がブチッ! と切れて不通になった。

 ……まさか……

さくらが事故に遭ったのは、俺が電話をかけたせいなのか……。もし、そうであるならば、俺はこの手で彼女を半身不随の身に追い込んだことになる……。

「……さくら……」

俺は震える手で、さくらの番号にリダイヤルした。しかし、散々呼び出し音が鳴った挙句、『この電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていません』という自動応答のメッセージが返ってきただけだった。

……嘘だ……

俺は一度電話を切り、再度かけ直す。しかし、呼び出し音が鳴った末に自動音声が聞こえるだけだった。

「……さくら……」

 行かなくちゃならない。さくらが事故った、その場所へ。

「……新町通、だったよな……」

俺は力なくサドルにまたがった。そしてそのまま新町通を目指して地面を蹴った。


 気が付くと、俺は夜道にいた。

……ここ、どこだ?……

顔を上げた俺ははっとした。俺は自分の家の前で自転車に跨っていたのだ。

「……ゔっ……」これまで抑え込んでいた何かが爆発しそうな気がした。

「ゔわぁ〜〜〜〜‼︎」俺は嘆きの叫びを上げた。

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