第5章 絶望 【前編】

 病院を出た時には、外はすっかり暗くなっていた。

ポツリポツリと街灯の灯る夜道を、俺は力なく自転車を転がしていた。

残酷な真実を前に、ペダルを漕ぐ気力はない。自転車にまたがっているものの、幼児の乗るストライダーのように、足で地面を蹴って進むのが精一杯だった。

 ……ちくしょう! 最悪の未来は回避されたんじゃねぇのかよ……

確かに、「さくらが死ぬ」という「最悪」は回避された。しかし、「首から下が不随になる」では、結局さくらにとっては最悪なことには変わりない。

 ……さくらだって、まだ27だ……

人生100年時代とか言われる世の中で、残りの70年近くを寝たきりだなんて、さくらがかわいそうすぎる……。 

……さくら……俺は思った。

……俺がお前を不幸せな運命から救ってみせる‼︎……

 ペダルを漕ぐ気力はまだなかったが、それでも俺はできるだけ力強く地面を蹴り込んだ。


 ふと気が付くと、俺は青空の下にいた。

……!? はぁっ!? どこだよ、ここ……

 俺はさっきまで、暗い夜道をストライダー乗りで自転車を転がしていたはずだ……。

……どうなってんだよ、今日……

ドッペルゲンガー、最悪の未来の白昼夢、あらぬ場所へのワープ。もしかすると、俺は精神を病んでしまったのかもしれない……。

 辺りを見回しているうち、俺は気が付いた。どうやらここは、俺の家の近くらしいということに。

……はいっ!? 何で昼間?!……

家の近くに帰り着いているのであれば、辺りは夜で、物悲しく街灯がポツリポツリと点いているはずだ。それに、ストライダー乗りで中央病院から戻っていたとしても、帰りが翌日の昼になるということは絶対にあり得ない。

「今何時だ?!」俺は慌ててスマホのロック画面を点けた。

スマホのロック画面のデジタル時計は今日の昼下がりの時刻を示していた。

……はいっ!? 時間が巻き戻った?!……と一瞬思い、……いやいや、そんな訳ないだろ‼︎……と打ち消す。

何にしてもこうなった以上、家に戻らなくては仕方ない。

……でもって、ここ、どこだ?……

俺はそのままスマホのマップアプリを立ち上げた。

 そこでさらに俺は驚愕することになった。

なんと、今俺がいるのは、自分の家の近くなのだ!

何がどうしてこうなったのかは分からないが、自宅近くにいるのは好都合だ。

 俺はひとまず自分の家を目指すことにした。

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