第1章 最悪の未来へ【後編】

 さくらの家までは、自転車でおおよそ20分。何か動きがある前には辿り着けるはずだ。

「くそ……、一体今日は何だってんだ……」

自分のドッペルゲンガーに遭遇し、慎重派の彼女は交通事故に遭う。これを厄日と言わずして何と言おう……。

俺は、ペダルを漕ぐ脚に一層力を込めた。


 それから、10分ほど走ったろうか。俺は地元の駅の近くに差し掛かっていた。さくらの家に向かうには、この先の高架橋の下を通ることになる。

「……よしっ!」俺は薄暗い高架橋の下に走り込んだ。


 高架橋を抜けた先は開けた道だった。一瞬拍子抜けしたが、すぐに何かおかしいと気付いた。さっき走り込んだ高架橋を抜けると、出た先は駅前商店街の端の交差点だ。ところが、ここは住宅街のような場所で、高架橋も駅も影も形も見えない。つまり、俺はあらぬ所に出てしまったようだ。

「……マジか……。どこだよ、ここ……」普段の通い慣れた道から、突然見覚えのない場所に出てしまったのだから、動揺は隠せない。しかし、俺は急いでさくらの家に向かわなければならない。

……大きな通りにぶつかれば、ここがどこだか分かるだろう……

 とりあえず俺は自転車を漕ぎ始めた。


 2ブロック分ほど自転車を飛ばしていたその時。どこからか、パーーーーーッ! と車のクラクションを長鳴らしするような音が聞こえた。

一瞬、……うるせぇ!!……と思ったものの、クラクションが聞こえるのなら、大きな道路が近いのだろう、と当たりを付け、音の聞こえた方に向かった。


 音の聞こえた方に1ブロック半ほど近付いたところで、音の正体が分かった。半ブロック先から、西洋式の霊柩車れいきゅうしゃが滑るように道路に出て、左に曲がっていったのだ。要するに、さっきのパーーーーーーッ! は、出棺時の弔笛だったのだ。続けて、会葬者を乗せていると思しきマイクロバスが1台道路に現れ、霊柩車を追うように左の角へ消えて行った。

 ……葬儀屋があるってことは、幹線道路が近いんだよな?…… とりあえずデカい道路に出たい俺はそのまま半ブロック先を目指した。

……彼女が事故ったって、聞かされた時になんだけど、一体どんな人の葬式だったんだろう?……

 好奇心に駆られた俺は、葬儀屋の駐車場から出てくる車がないか安全確認するついでに、故人の名前を知ろうとした。ところが、そこに書いてあったのは……。

『故 白石さくら儀 葬儀式場』

……嘘だろ!?……

よくよく見ると、通夜式の日時は今日から4日先だった。つまり、今日は事故から5日経っているということになる……。

……はぁ!? 俺、未来にタイムスリップした?!……

そんなことを思い、……いやいや、そんなはずはないだろ!……と打ち消した。

しかし、一体、これはどういうことなんだ……。

「ゔわぁ〜〜〜〜〜!」

俺は絶叫しながら、左へ曲がった。自転車で霊柩車やバスに追い付くのが不可能なのは分かっている。だが、さくらが死んだなんて信じたくはない。

「ゔわぁ〜〜〜〜〜!!」

俺は脚がもげそうな勢いで自転車のペダルを漕いだ。

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