東京に行きたい人

 東京行きの列車に揺られながら僕は考えた。

 東京に行きたい。

 東京で夢を掴んで成功したい。

 そして、次の階段を駆け上ろう。

 東京に行きたい人は成功したい人。

 成功した人は東京に満足しない。

 次の世界を夢見るものさ。

 夢の舞台はニューヨーク。

 東京に行きたい人はニューヨークに行きたい人。

 ニューヨークに行きたい人は成功したい人。

 成功した人はニューヨークに満足しない。

 ニューヨークに行きたい人はパリに行きたい人。

 成功した人々はパリに集まる。

 花の都パリ。


 それなら、パリにいる人は何処に行けばいいのだろう。

 パリがこの世の最果て。

 成功の階段を、駆け上った人々の吹き溜まり。

 どうしようもない、どん詰まりの街がパリなんだ。

 僕はどうしよう。

 成功を掴んでも、パリが行き止まりなのなら、今からパリに行こう。

 終着点がパリなら、今行こう。

 手っ取り早い結論だ。

 その後、僕は何処に向かえばいいんだろう。

 ロンドン、ベルリン、バルセロナ、違いが分からない。

 そうだ。ローマに行こう。

 永遠の都ローマ。


 すべての道はローマに通じる。

 行き止まりのパリから、唯一通じる道はローマ行。

 ローマの道は世界に通じる。

 コンスタンチノープルに通じアレキサンドリアへ向かう。

 エルサレムを片目に観て、チグリス河を越えよう。

 砂漠と山岳を越え、サマルカンドに至ると、空漠たる草原が広がる。

 広大なステップを、羊の後を追いかけて東に向かおう。

 シルクロードを逆走だ。

 やがて黄砂の向こうに長安の都が見えるだろう。

 僕は遥々日本から長安にたどり着いた。

 この次に向かう場所は決まっている。

 

 天の原ふりさき見れば春日なる 三笠の山に出し月かも


 僕は大和の国に来てしまった。

 なんだ。結局、日本に戻ってくるのかよ。

 出発地点が到達地点だなんて、よく聞く話さ。

 僕は東京に向かう列車の中で、世界一周してしまう。

 

 東京行きの列車に揺られながら僕は願った。

 東京に行きたい。

 東京で夢を掴んで成功したい。

 そして、次の階段を駆け上ろう。

 誰もたどり着けない高みを目指すのだ。

 どこまで行けるか分からない。

 東京なのかニューヨークなのかパリなのか。

 それはだれにも分からない。

 今は東京に行こう。

 最後にどこにたどり着くか、分かっていたとしても。

 今は東京に行こう。


               終わり

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文学なんて大嫌い 加藤 良介 @sinkurea54

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