★番外編だよっ★②
★夢小説に異世界転生★
私は小林純子。ブラック企業に勤め33歳だ。仕事帰り、トラックに引かれ、気づけば異世界転生していた。この世界は、「戦花物語」という、戦国時代をモチーフにしたゲームの世界…否、私が書いた夢小説の世界だ。
転移したのは戦場のど真ん中だった。逃げ回る私の脳裏に、古の記憶がよみがえる。
ようこそ、あなたは〇〇〇人目の迷える子羊。
♰長編♰ ♰短編♰ ♰シリーズ♰
ここからは危険地帯ですが、よろしいですか?
「私、作者の花畑かすみです★キャラクターたちに質問していきまーす★」
やめろ、この走馬灯は心を殺す。なんでこんな世界に異世界転生してしまったのか…。
そうやって逃げ回っていると、馬に堂々と乗っている男と目があった。あ、やばい。
「ん?なんで戦場に女がいるんだ?」
この展開は、やばい。
男、いや、「戦花物語」で一番人気だった本田忠勝だ。やだかっこいい。いやそんなことを考えてる場合ではない!
「なんだ?俺を前にして逃げ出さないのか?」
ハッ…このセリフは…やばい!やめてくれ!心臓止まっちゃう!
「お前、面白い女だな」
止まった。いろんなものが止まった。心臓も時間も、視界も聴覚も…。
「あの、大丈夫ですか?」
聞いたことのない女性のキャラクターの声を聴き、覚醒する。目の前にはメガネっ娘。
「私、株式会社HOMEという、異世界転生者を連れ戻すことを生業にしている会社の社員で、片岡と申します。あなたを連れ戻しに来ました」
何を言っているかよくわからないが、早くこの世界から出たい!これ以上黒歴史を掘り起こさないでくれ!
私は彼女の手を掴んだ。
「早く私をここから連れ出してください!!!!」
「あなたもしや」
彼女のメガネがキラリと光った。
「この世界に選ばれし一人目の迷える子羊ですね」
「やめてーーーーーー!!!!」
私の黒歴史と共に、私は異世界から逃げ帰った。なんか全部どうでもよくなって、ブラック企業を辞めて、今はホワイト企業で働きながら、楽しく同人漫画や小説の読専として生きている。
★漫画の世界に異世界転生★
俺は波多野元気。26歳独身だ。結婚詐欺にあい、心に深い傷を負ったかわいそうな男だ。自室で泣きはらしていたところ、気が付いたら異世界に転生していた。
ここはよく知っている世界だった。なぜなら、俺が小学生の頃に描いた漫画の世界だったからだ。当時はやっていた少年漫画に強く影響された、王道の少年漫画。小学生の時分はそれが面白いと思っていたし、なんなら友達に見せて自慢していたくらいだった。
そう、この世界は、小学生が描いた漫画の世界。
人や魔物は全部ガタガタの線。真っ白な背景。気障なセリフ。もう全体的に目を背けたくなるほどの、酷い漫画の世界だ。
もしあのまま漫画家になっていたら、絶対世に出さないような絵と内容だ。
頭が痛い。吐きそうだ。これを自慢げに友達に見せていた自分を殴りたい。結婚詐欺で負った傷など可愛い物だ。なにここ死んで地獄に来たの?と思うほどだ。
「あの、波多野元気さんですか?」
突如、知らない男に声を掛けられた。
「初めまして、俺は株式会社HOMEから来ました、日野と申します。あなたを元の世界に…」
「戻してください!早く!お願いします!」
俺は男に縋りつく。早くこの悪夢から目覚めたい。
「良かった、どう説得しようか迷っていたんです。帰る意志があるんですね。大丈夫、元の世界で色々あったかもしれませんが、元の世界に戻れば、必ず良い方向に、あなた自身の力で歩むことが出来るでしょう。必要なら、僕も相談に乗り…」
「もういいから!!早く返してください!!!!」
元の世界に戻った僕は、実家にあった例の漫画を捨てようとした…が、ふと漫画家になりたかった夢を思い出した。そして、再び諦めた漫画の勉強を始めた。
★黒歴史にエールを★
なるほど、と鷹明は過去のケースを見ながら頷いた。
「異世界転生する先って、自分の過去と深いつながりがあったりするんですね」
「だいたいは黒歴史として扱われますけどね。だからそういうケースの【回収者】は戻る意志が強くて助かります」
片岡は鷹明が持ってきた京菓子を食べつつ、温かいお茶を飲んだ。
「黒歴史と称されていますが、意外といい思い出だったり、大事な宝物だったりしますけどね。誰にも言えない。自分だけの歴史。思い出すたびに頭を抱えたくなる気持ちはわかりますが、それはそれで、大事な思いでとしてしまっておく方が、案外気持ち的に楽だったりしますし」
「片岡さんにもそういう黒歴史ってあるんですか?」
「頭抱えたくなるほどではありませんが、レイヤー初期のころは、ねぇ」
「へぇ、じゃあ見せてくださいよ、レイヤー初期のころの写真」
片岡は、持っていた湯呑を、ドン、とテーブルに置いた。
「だから、黒歴史とは、自分だけの歴史です。他人が掘り返すものではありません」
片岡の纏うオーラが黒い。これ以上聞いてはいけないと、鷹明は、はい、と小さな声で返事をした。
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