第14話 苦渋の決断
魔力探信儀に反応はなく、呼びかけにも応じないまま再び雲の中へと船影は消えた。ハルベルトさんの説明を聞いたフローラは思い当たる節があったようだ。
「それは潜雲艦かもしれません」
「魔力探信儀で探知できないっていうあれですか?」
「そうです。大戦末期、魔王軍が開発したとされる幻の兵器です。その開発技術がアイスロカヤフに流出していたことは既に確認されております」
「まずいですね。それだと見張りによる目視確認だけが頼りです。ただそれも限界があります。雲海が続く限り、襲撃の兆候を事前につかむのは難しいかもしれません」
「これで後手に回る可能性が高くなりました。剣聖の名にかけて乗員乗客の身の安全を保証致しますと申し上げたいところではありますが少し厳しいかもしれません」
フローラは超近接戦闘に特化した格闘型の剣聖だ。
襲撃のタイミングがわからないと初動で出遅れる可能性が高くなる。
それは乗員乗客の生命に直結する由々しき問題だった。
「雲の中に逃げるのはダメなんですか? 雲の中なら相手からも見えないんじゃないんですか?」
エルアーリアが素人なりの意見を口にする。
「ダメでしょうね。潜雲艦には
ハルベルトさんに否定されたエルアーリアの意見だが、フローラに新たな着想を与えるきっかけにはなったようだ。
「
「本当ですか?」
「ええ。ただ、広域に探知網を形成するとなると、私はそれにかかりきりになってしまうので、襲撃の初動対応には当たれなくなります。これでは本末転倒です」
「いいアイデアだと思ったのですが、うまくいかないものですね」
振り出しに戻ったことでハルベルトさんは表情を暗くする。
「平気なのだ。その為の生け
「え、私?」
「こう見えて弟子のエルアーリアはすごいのだ。テロリストなんてイチコロなのだ」
ロパの言葉を聞き、ハルベルトさんの表情が晴れていく。
それとは対照的にエルアーリアの顔が青ざめていく。
「そうですわね。ここはエルアーリアに任せましょう。エルアーリア、お願いできるかしら?」
「あー、いやー、私にはまだ早いような気が……」
「大丈夫よ。自分を信じなさい」
フローラの手がエルアーリアの肩に置かれる。
「はい……」
完全に逃げ場を失ったエルアーリアはうなずくことしかできなかった。
「やられてもきっとフローラ様がなんとかしてくれるから大丈夫なのだ。バッラバラのグッチャグチャになっても元通りにしてくれるのだ」
調子に乗ったロパが触手でエルアーリアの背中をバシバシと叩く。
「フローラ様、私一人では不安なのでローちゃんを連れて行ってもいいですか?」
ロパの頭をエルアーリアの手がむんずとつかむ。
指がめり込むほどの力でつかまれたロパの頭が形を変える。
「ローちゃんをですか? うーん、そうですねぇ……」
「絶対ダメなのだ! ボクはただのマスコットなのだ!」
ロパがジタバタするごとにエルアーリアの力が強まる。
もちろん、すごく痛い。
痛すぎるのだが、触手でエルアーリアの手を
「わかりました。ローちゃんにも行ってもらいます。賊は
フローラの言葉を聞いたエルアーリアの力が弱まる。
賊の船内侵入は絶対阻止せよ、というフローラの命令に動揺したのだろう。
ロパは一瞬の隙を見逃さず手を振り
「ローちゃん、急にお腹が痛くなったのだ……」
目を潤ませながらフローラの袖をクイクイ引っ張るロパ。
「痛いの痛いの飛んで行けー。はい、これで大丈夫ね♪」
フローラはお腹を優しく撫でてくれるだけで命令を取り消すつもりは全くなさそうだった。
「はい、それでは各員配置につきましょうか♪」
「はい……」
「了解なのだ……」
初動対応という無理難題を押しつけられた二人は生気を失った顔でトボトボと歩き出す。
「大丈夫でしょうか?」
ハルベルトさんが不安を口にする。
「まあ、何とかなる……と思いますわ」
フローラの言葉が全てを物語っていた。
ロパは一抹の不安を感じながらも、涙目になっているエルアーリアと共に
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