第二章 童貞ローパー北へ!
第10話 豪華飛空客船『霜の巨人(ヨートゥン)号』
フローラの発案で目的地であるアイスロカヤフ連邦の消滅都市までの移動は飛空船を使うことになった。飛空船は先の戦争中に魔王軍が開発した兵器であったが、戦後、その技術が人類側に転用され、今では民間の交通手段として広く定着しているらしい。
今回ロパ達が乗ることになった『
航路は神聖エウローマ帝国の首都フリューセリオンとアイスロカヤフ連邦の首都ヴァーシュカをつなぐ一本のみ。約2,300㎞の距離を平均時速56㎞で進む。所要時間は約四十一時間。夕方四時にどちらかを出発し、翌々日の朝九時に到着する便がいずれかの首都で五日ごとに運行されている。
とても人気があるのでチケットの予約は一年先まで埋まっているそうだが、エルアーリアは所有する船会社の株を大量に保有しているということでチケットを確保してくれた。なんでも愛人二人とお忍びで温泉旅行に行こうとしていた重役にキャンセルさせたらしい。色々と気の毒なことをしたと思うが、それ自体は大した問題ではなかった。
問題は辺境都市モルテネクから首都フリューセリオンへのルートをフローラが事前に把握していたということだ。ちゃんと出港の一時間前に着けるようにあらかじめ調べ上げられていた。魔動列車や魔動バスの時刻表を見せて説明するフローラに、エルアーリアは何の不信感も抱かなかったが、ロパは何か引っかかるものを感じていた。
とはいえ、それが最短ルートであることは紛れもない事実である。特に反対することはせず、フローラの指示通りに移動し、予定通り
そして、船内見学も程々にレストランで早めの食事を取ったロパ達は、本来なら重役が愛人と過ごす予定であったロイヤルスイートに戻ってきていた。
「あ、冷蔵庫にビールとワイン入ってますよ!」
食べ放題のレストランでしこたま飲み食いしてきたエルアーリアが冷蔵庫を物色する。ロパも一緒にのぞき込むと、ガラス張りの大きな冷蔵庫の中には、飲み物だけでなく、デザートやつまみも入っていた。
「二次会と行きましょうよ!」
酒を取り出すエルアーリアを見てフローラが苦笑いを浮かべる。
「おまえの胃袋は底無しだな。それも法術なのか?」
「そんなわけないでしょ。ロパさん、面白い冗談っすね」
エルアーリアは隣にいるロパの頭をバシバシ叩く。
その顔は真っ赤で既に出来上がってしまっている。
「ね、フローラさんは何飲みます?」
「私はお水をいただくわ」
「水ぅ? ダメダメ! もっと飲まないとダメですぅ! というわけで、フローラさんの飲み物は私が作ったウイスキーの水割りに決定!」
「まったく、仕方のない
「いいですよぉ。いくらでも脱いであげますよぉ」
エルアーリアは知らない。
レストランでフローラに勧めた酒のほとんどが
エルアーリアからは死角になっていたが、フローラの足下には猿によく似た精霊が控えていて、フローラの渡したグラスを一瞬で空にする芸当を見せていた。そいつは今もフローラの近くにいるが、上手く身を隠しているのでまだエルアーリアには見つかっていない。このままだと何も知らないエルアーリアは早々に裸にされてしまうだろう。
「おい、調子に乗りすぎだぞ!」
「大丈夫ですってレストランであれだけ飲ませたんですからすぐに潰れますよ」
自信たっぷりのエルアーリアは小声でしゃべることすら忘れていた。
「そうか。なら、せいぜいがんばってくれ。俺は少し外で夜風に当たってくるわ」
ロパは冷蔵庫を離れ、ソファーに座るフローラに近づく。
「おい、あのアホ天使に少し世の中の厳しさというものを教えてやってくれ。俺は外で寝ているから一晩掛けてみっちりと頼む」
「よろしいのですか?」
「あいつは少し思い知った方が良い。あれは少し痛い目に遭わなきゃ反省しないタイプだよ」
「では遠慮無く」
妖艶な笑みを浮かべるフローラを残してロパはベランダに出る。
さすがはロイヤルスイートだ。船内なのにラブホのベランダ以上の広さがある。サマーベッドもあるので、また星を見ながら眠ることにした。
そして、夜が明け部屋に戻ったロパはベッドの上で泣きじゃくるエルアーリアの姿を見ることになった。布団で見えないが恐らく裸なのだろう。うつぶせになり、枕に顔をうずめてシクシクと泣いている。
「ぐすっ…もう…お嫁に行けない……」
とか呟いている天使の隣には同じように裸と思われるフローラの姿がある。
こちらは仰向けになって、何かをやり遂げたような顔を見せている。
「おはよう、フローラ」
「おはようございます。
「え? こいつ処女だったの?」
「はい、間違いありません。もっと苛烈に攻めて差し上げたかったのですが、ここで散らすのも気の毒に思いまして、まあ、ほんの入り口をかわいがってあげただけですわ」
「なんか、泣いてるんだけど……」
「きっと歓喜に打ち震えているだけですわ」
「え、あ、うん、そういうことにしておく……」
ロパは冷蔵庫から缶のお茶を取り出すと再びベランダに戻っていった。
そして、サマーベッドの上でお茶を飲む。
「ちょっとやり過ぎたかぁ」
雲海に昇る朝日が目にしみる。
今日も良い一日になりそうな予感がする爽やかな朝だった。
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