詩(夜の穴、ひとり)

野口マッハ剛(ごう)

夜の穴 ひとり

1

手に握りしめたギターで夜の壁をぶち抜く

好きな片思いの女性の名を叫びながら

手応えなんてなかった

あるのは空いた穴の先にこちらを見つめる目が六つ

その人たちはこちらに入って来る

夜の壁なんて初めからなかった

手に持っているギターの弦は一本取れている

その時にわかったのだ

これは起こるべくして起こったのだ

夜の壁をぶち抜いたのではなくて

好きな人への恋を歌ったのだと

その人たちはあちらへ帰ってゆく

残されたのは夜の静けさ

失われたのは片思いを叫ぶ勇気

ひとり布団に入る

ぶち抜いた夜の壁の穴を見つめながら

悲しいひとりの男


2

私はひとりになったのだと(昔をなつかしみながら)

そう思えたら急にさびしくなって

私は夜にひとりぼっちの夢の中

呼吸が出来る 息が吸える 生きている

私の足跡を本棚から引っ張り出しては眺める

もう何も戻って来ないんだよ!

泣いても無駄なんだよ!

私は泣かなかった(とうに涙を流し尽くしたから)

生きているから

私はひとりでも涙を流さない

ひとり

夢の中で遊ぶ

ひとり

夢の中で迷子になる

ひとり



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詩(夜の穴、ひとり) 野口マッハ剛(ごう) @nogutigo

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