第一章
陽キャはさっさと火で焼けろ
——高校生。
一生のうち僅かしかない『女の花の時期』と呼ばれる比喩される三年間だ。
放課後には友人とスタバで談笑し、帰宅してからもオンラインでゲームを楽しんだり。
長期休暇になれば合宿やお祭りもあるだろう。
そして桜舞い散る青空の元、あんなことやこんなことやエトセトラ。
私——高梨凛はそんな人生の一ページの過ごし方を、今度こそ、と意気込んで綿密に決めていた。
その一、切磋琢磨し合える一生モノの親友を見つけること。
その二、商業で通用するレベルのイラストレーターになること。
その三、勉学や部活動に励み、青春を謳歌すること。
上記はその一端でしかないが多くはこれに類する目標だ。
第一歩として私はこの『創作部』に入ったのだ。
己で掲げた信念だから——と。
「こほん、よくぞ創作部の部室に集まってくれました。ほ、本日はお日柄も、大変良く…… 三年生は生徒会の仕事で来れず、しかも朝から大雨で——」
「話し長ぇんだよ加奈! いいからカンパァイ!」
緊張してガクブルな白崎加奈先輩——私を部に誘ったうちの一人だ。
緩くウェーブを描く白いその髪は床に届きそうなものだ。小柄で表情が豊かで、天真爛漫という言葉がよく似合いそうな彼女は。
『友達ニなろうヨ、一緒ニ何カ作ロウヨ?』——とあからさまに誰かの受け売りで勧誘してきた。
そして話に耐えられなかったこの短気な男子が赤坂ちひろ先輩。
名の通り赤みがかったオールバックで、私への口説き文句は『ここの先輩はみんな国立大学行ってる』——だった。
言葉巧みにその気にさせるタチの悪い先輩方だ。
新歓やその後の、やたら個人に拘るその勧誘方法に違和感を覚えたのは入部後だった。
割と流されて入部したわけだが、自分の意で入部したのは確かだ。
だからそこに後悔はなかった。
……ついさっきまでは、の話だが。
その理由——いや元凶はこいつ、東条陽介だ。
「ちひろ先輩、オレンジじゃなくてリンゴジュースがいいです。交換してください」
「はあ? 俺もリンゴがいいんだよ、自分で注げよ」
「陽介君リンゴどうぞ、お菓子も食べてね」
……おい待て、まだ新歓から三日だぞ。これだからコミュ強はずるいし嫌いなんだ。
「凛ちゃんもリンゴいる? お菓子もどんどん食べてね」
「あ、ありがとうございます……」
私はこのザマなのに。
注いでもらったジュースを両手に持ち、肩幅を狭めて飲む。
繋げられた机は距離が近く、私のパーソナルスペースは着席と同時に侵されていた。
「あ、やっぱり高梨凛さんだよね? 俺のこと知ってる? 同じ中学の東条陽介って言うんだけど」
白崎先輩が発した私の名前で確信を得たのだろう。
自分のことをピクピクと指さすこいつとは確かに同じ出身校だ。
しかし関係という関係はそれ以外なく、もちろん一言も話したことは無いし、まともに目を合わせた覚えもない。
それなのに何故名前を知っているのかと疑問に思いながらこくりと頷く。
「なんだ、お前らやっぱ知り合いだったのか。後で名簿で確認したからもしやと思ってな」
ガララッと教室の扉が開き、全員の目がそちらに向いた。
現れるは無精髭を生やしてスーツをだらしなく着崩した男性。
「先生どこ行ってたんだよ。もう始めちまったぞ」
「買い出しですよ」
「あー燈火ちゃん戻ってきた! 待ってたんだよ」
部の顧問であろう先生の後から姿を見せた長身に向かって駆けていく白崎先輩。
佐渡燈火——それが先輩の名前だ。
ベージュの長髪で裏地はチェック柄。
チェック柄に言及したら白崎先輩は軽い過呼吸を起こし、赤坂先輩は白目をむいた。
その時は怖くなって、何でもないです、と言って地雷を踏まずに済んだ。
二人が持つ袋から出てくるのはそれぞれ酒とお菓子の束。
どちらが何の袋を持っていたかは明白だろう。
「これでとりあえず三年以外は揃ったな、よし本格的に始めるぞ!」
と言って酒瓶の蓋を開ける先生。
ここで酒を飲んでもいいのかという疑問はあるが、それを言葉にする勇気もなく——
「学校で酒飲んで平気なんすか? 俺、校長先生にチクっちゃいますよ」
「おいおい一年がすぐに先生を売ろうとするもんじゃないぞ。誰だ、東条を部活に呼んだ奴は」
「悠先輩ですよ。今日三年生は来ないんですか? せっかく俺らの入部祝いなのに、な?」
こっち向くな。白い歯見せてくんな。
——だからこいつは大嫌いなんだ。
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