第99話 《三人の旅路 ②》
誰が料理をするのか?
テトの言葉に、イブキは余裕の笑みを浮かべる。
「ふっ。わたしは無理よ。初の手料理で家族を殺しかけたことがある」
「不名誉なことでかっこつけんな! ……シャルさんは?」
テトはイブキを見捨て、シャルへ希望を見出そうとする。
シャルは、かわいいものに目がないビョーキを除けば、容姿も性格も完璧だ。しかも、リーゼロット家のお嬢様ときている。あとは料理ができれば、女性として完璧だ。
シャルを見ると、さも当たり前かのように頷いた。
「もちろん、料理くらいできますよ」
イブキは、やっぱりね、となぜか自慢げに胸を張る。しかし、シャルが続けた言葉に、イブキは肩を落とすのだった。
「でも、私が料理しようとする度、リリスが止めようとするんです。砂糖を入れれば美味しくなるのに……。なぜでしょう?」
(あっ、自覚ないタイプの人だ……)
自覚があるだけイブキの方がマシかもしれない。
さあ、殺人料理のイブキと、自覚なしスイートパラダイスのシャル……残るはテトだ。
テトは顔を引き攣らせている。イブキは、テトの反応にむっとして言い返した。
「そういうテトはどうなんだよっ」
「あ、あたし? あたしは……料理くらいできるけど……でも……」
「でも?」
「家族以外に食べさせたことないから。恥ずかしいなって……」
「そんなこと言ってられないでしょ! わたし、お腹空いて死んじゃうわよ!」
「うー……わかったわよ! 作ればいいんでしょ! 不味いとか言ったら怒るからね」
それから、テトは袋の中から食材を取り出し、あれこれ吟味し始めた。
長旅になると聞いていたため、生の肉や魚は買っていない。代わりに、日持ちするベーコンの燻製などを買っておいたのだ。
テトはナイフを器用に扱い、野菜を刻んでいく。イブキが冗談で、「《剣聖術》だ」と呟いた時には睨まれてしまった。
イブキとシャルは、戦力外通告を受けてしまったため、手伝いたくても手伝えない状況だ。代わりに、あっちの世界でのできごとを話しながら、星空を眺めていたのだった。
どれくらいかして、とてもいい匂いが漂い始めた。煮込まれた鍋の中にはシチューらしきものがある。鉄網の上には溶けたチーズをかけたパンが並べられている。テトは腕を止め、ふぅと息を吐いた。
「できたわよ」
先に、イブキが身を乗り出した。幼い顔に笑みを浮かべ、まだかまだかと急かしている。
テトが器へシチューらしきものをよそっていく。知らない野菜や肉が入っているが、紛れもなく匂いはシチューそのものだ。イブキはスプーンでそれをすくい、口元へと持っていく。
少し甘い味付けだ。あっちの世界のシチューよりも、ミルクの味が濃い。だが、母親が作ってくれた料理に負けていなかった。
「おいしー……」
イブキは素直に声を漏らすと、次にパンへとかぶりついた。テトはその様子を眺め、恥ずかしそうに口元を震わせている。
直後、テトははっと我に返った。
「あ、当たり前じゃんっ。このあたしが作ったんだから」
「本当においしいです。いいお嫁さんになれますね」
とシャルが追い打ちをかける。もちろん、シャルに悪気はない。
「お、お嫁さ……っ!?」
テトの恥ずかしメーターが臨界点に達する。猫耳がぴょこぴょこ動き、顔は髪色に負けないくらい真っ赤だ。
シャルはスープを啜りながら、テトの反応を不思議そうに眺めている。
イブキは言った。
「大丈夫。平常運転だから」
兎にも角にも、料理担当が決まった瞬間だった。
それから三人は、その場で一夜を明かした。寝ている最中は、イブキの魔術によって、魔力をセンサー代わりに解き放っていた。これで、近づく魔物がいれば探知できるというわけだ。初めてやってみたが、なんとかなるものだ。
結局、三人は朝までぐっすりで、テトの朝食を済ませてからサーバの町へ向けて歩き始めるのだった。
歩き続ける程に、辺りの緑がどんどん少なくなっていく。空気も乾燥し始め、熱さとは別に息苦しさまで感じるようになってきた。砂漠が近い証拠だ。
――サーバの町に到着したのは、さらに5時間ほど歩いた頃だった。
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