第98話 《三人の旅路 ①》
大陸を繋ぐ転移ポータルを利用して、西の大陸フレセトから、南の大陸カーダへ——。シュテラが記した道筋通りに、イブキたちは旅を続けていた。
魔女の町を出てすぐに、運良く商人のチュンチュン車に拾われポータルのある港へと向かった時は、「楽勝かも!」と思っていた。……だが、そう甘くはなかった。
南の大陸カーダへやって来た時にはすでに夜だったため、波音の聞こえる港の宿に泊まり、翌朝には出発したのだ。それから、かれこれ十二時間以上、歩きっぱなしだ。今では、あたりはすでに夜闇に包まれている。
三人は、サーバの町へ向けて取り憑かれたように足を動かし続けている。南の大陸はかなり気温が高い。太陽が隠れた今はマシだが、日中は体力を奪われ続けるだけだった。
途中、大きな国を見つけたが、大陸内で起きている争いのせいで、入国することすらできなかった。村も見つけたが、そこはすでに廃墟となっていたのだ。
「……もう、無理ぃ……」
先に根を上げたのは、イブキだった。先導していたシャルとテトが振り返る。シャルは汗を拭いながら、辺りを見渡し始めた。
「この近くに、夜を明かせる場所があるといいのですが……」
シャルが辺りを見渡すが、街灯のない道の上ではよく見えない。月明かりだけが頼りで、うっすらとした影しか見えない。
だが、それはイブキには関係ない。休めるとわかった途端、イブキは力が湧いてきた。
「任せてよ。……視覚補正――《暗視》」
魔力を眼へと集中させる。すると、辺りの景色が昼間のようにはっきりと目に映った。。
ここはなんの変哲もない平原のど真ん中だった。離れたところには、草食の魔物の群れがいる。捻れた一角を持つ牛、みたいな魔物だ。
さらに進んだところに、盛り上がった丘が見えた。そこに、背の高い木が見える。高い位置にあるあの場所なら、凶暴な魔物が近づいてきてもすぐに見つけられるだろう。
「……あそこがいいかなぁ。二人とも、着いてきて」
イブキは力を振り絞り、先導する。二人は、「魔術って便利」と呟いていた。役に立てて嬉しいのか、イブキは幼女らしい無邪気な笑みを浮かべている。
それから、目的の場所まで来た。木の根元まで来ると、さっそく三人は腰を下ろした。そして三人揃って、
「ふぅー……」
と息を吐いたのだった。すると、イブキのお腹が「ぐぅ」と可愛らしい音を立てた。シャルとテトに笑われ、イブキは唇を尖らせる。
「仕方ないじゃん。港を出てから、水しか口にしてないんだから」
「じゃあ、夜ご飯にしよっか」
テトが、背負っていた鞄の中から、魔法の布袋を取り出す。調理器具と食材が入った袋だ。
さらに、テトは辺りに転がっていた枝を使って焚き火を作ろうとしていた。そして、手を止めた。
「……どうやって、火をつけよう。あんたは?」
とイブキへ問いかける。イブキは首を横に振った。
「魔術は火を生み出せないのよ。袋の中に、マッチとか入ってないの?」
「うん。入ってないっぽい」
二人で悩んでいると、シャルがそっと手を上げた。
「私の雷魔法で、火を起こせますよ」
「「え?」」
二人の間抜けな顔に、シャルはくすっと笑う。それからシャルは薪に手を近づけ、中指と親指を一度だけこすり合わせた。するとどうだろう。青白い電撃が弾けたかと思うと、たちまち薪に火が付き始めた。
シャルは当たり前のように顔をあげたが、イブキとテトは表情を輝かせていた。
「すげー!」
シャルが恥ずかしそうに「これくらい、誰でもできますよ」と顔を伏せる。
焚き火が出来上がったところで、テトが調理器具を取り出した。そして、思い出したかのようにこう言った。
「――で、誰が料理するの?」
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