第68話 《崩壊》



 その日の夜、1日目と同様に城の庭にイブキたちは集められた。


 ここにいるのは《星火祭》の招待者たちと、前日のクリア者だ。住民たちは、城下町でアナウンスを聞いているだろう。


 城の後ろにある塔。その最高部に、ストラルン国王が立っていた。


「今回お集まりいただいたのは、《星火祭》の中止についてだ。昨夜、クリア者以外が殺される惨殺事件が起きたのをみんなも知っているだろう。犯人はまだ、捕まっていない」


 みんなの視線は、クリア者に向けられている。この中の誰かに、犯人がいると他のみんなも感じているのだ。


(本当に、そうなのかな)


 イブキには、他のクリア者がそんなことをするような人にには見えなかったのだ。テトは「ニードル兄弟が絶対犯人よ!」と恨み丸出しにしていたが。


 招待者の家族も、昨日参加していたらしい。愛する人を亡くし泣き崩れる者もいる。イブキは胸が苦しくなった。大切な人を失う悲しさは、イブキも痛いほど理解している。

 大好きだった祖父が、小学校に入る前に亡くなったのを思い返していた。ランドセルを買ってくれると約束していたが、それすらも叶わなかったのだ。


 イブキは拳を握った。また、事件に首を突っ込むことになるが、犯人を許しはしない。


 ――国王が再度中止を宣言すると、招待者たちも渋々納得した。その中の一人が手を上げ、国王へ問う。


「犯人を、どうやって見つけるつもりですか?」


「それについては、調査中だ。みんなの安全は、スノウ騎士団が保証する」


 国王と招待者のやりとりは続く。


 と、イブキはふと空を見上げた。テトが肩を叩いて、イブキの顔を覗き込む。


「どうしたのよ?」


「……いや、なんか、嫌な感じがして……」


「嫌な感じ?」


「うん。そもそも、クリア者の中に犯人がいるのなら、なんのために殺したんだろう? 彼らが優勝を目指していたのなら、わざわざそんなリスクを冒す必要がないでしょ。それに、こんな目立つように事件を起こす必要がないわ。……犯人は、わざと死体を見つかるようにして、事件を起こしたんじゃないかな」


 テトは眉根を寄せる。


「なんのために?」


「わからない。人が集まる《星火祭》を利用して、なにかをしようとしているのかも」


 招待者は、貴族や有名人がほとんどだと聞いている。このシチュエーションも、犯人が望むものだとしたら……。


 イブキははっとして辺りを見渡す。人数はかなり多い。みんな、国王の方へ視線を向けている。


 と。


 夜空が一瞬、明るんだ。なにか光が弾けたみたいに――。


(……ッ!?)


 イブキの背筋を、悪寒が貫く。なんの前触れもなく、イブキは魔術を展開した。衝撃を防ぐバリアを展開しようとする。みんな遅れて夜空を見上げた。

 

 この状況に気づいていたのはイブキだけだった。この感じ、どこかでも経験したことがある。いつ、どこでかはわからない。だが、はすぐに起きるはずだ。


 イブキは無意識の内に叫んでいた。


「みんな、わたしの傍に――!」


 声と共に、魔術の障壁を四方へ放とうとする。


 しかし、間に合わない。夜空から、なにかがこぼれ落ち――。

 そして大地が揺れ、同時にイブキの意識もそこで途絶えた。



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 ――耳鳴りがする。なにも聞こえない。

 鼻をつく焦げたような臭い。自分が倒れているのか、立っているのかすらわからない。


「……っ、つう……」


 イブキは呻き、意識を取り戻した。どうやら、うつ伏せに倒れているみたいだ。体中が痛い。咳き込みながら、体を起こす。


「いったい、なにが……」


 顔を上げ、イブキは息を飲んだ。


 辺り一面が吹き飛んでいた。至るところで火の手が上がっている。土を被った死体が、何十体も転がって――いや、招待者のほとんどが死んでいた。

 

 イブキは胃の中のものを全て吐き出しそうになった。魔術の障壁で防ごうとしたが、間に合わなかったのだ。


 思考の整理が追いつかない。

 誰が? なぜ? の繰り返しだ。


 イブキの横で、テトも倒れていた。体を揺すると、声を漏らした。長いまつげを震わせ、テトが意識を取り戻す。


「あれ、あたし……」


 どうやら、隣にいたテトのことは守れたらしい。イブキは胸を撫で下ろし、テトと共に立ち上がった。


「なによ、これ……」


 テトもこの悲惨な状況を見て唖然としていた。目を見開き、唇を震わせている。


(あれ……?)


 そこで、イブキはあることに気が付いた。

 目の前には死体だらけの地獄が広がっている。その中心で、誰かが背を向けて立っていた。イブキたちから、そう距離は離れていない。


 肩まで伸びた胡桃色の髪。丁寧に手入れされているのか、とても綺麗だ。体つきは華奢で、漆黒のローブを羽織っていた。


 その人物が、イブキの方へ振り返る。その瞬間、イブキは息を飲んだ。


 肌の白い女の子だ。年はあっちの世界で言う高校生くらいか。左右の瞳が赤と青と色が異なっている。一見すればただの可愛らしい女の子だ。



 


  



 



 






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