第67話 《決断》


 3日目の正午――。


 2日目のクリア者は、王城の一室へと集められた。

 

 どうやら、この中に犯人がいるのではないか、と考えられているらしい。


 クリアした6人は、大きなテーブルを囲み待機させられている。イブキは、顔を上げ他のクリア者を確認した。


 一人はテト。テトについてはまあ……説明不要だろう。


 後の4人は、ニードル兄弟という若い二人組と、髭の大男、30代の細身の女だった。


 ニードル兄弟は貴族らしいが、とても嫌味ったらしい性格の持ち主だ。

 イブキへ「《災禍の魔女》さんは、いつ《おチビの魔女》に名前を変えるんだ?」と兄。

テトへ「子猫ちゃんは貴族に飼われるつもりはないのか?」と弟。

 冗談ではなく、本気で人を見下しているらしい。


 髭の大男はガドナーといって、小さな村の門兵だという。《星火祭》の戦闘イベントに憧れ、今年初参加なのだそうだ。


 細身の女性は、シェリナという名前だ。だが、警戒しているのか素性は明かしてくれていない。気の強い女性だ。



 イブキは頬杖をついて、思案した。幼女姿に似合わないが、あっちの世界での癖なのだ。


(なんのために、みんなを殺したの……?)


 しかも、20人近くもだ。

 平気で人の命を奪うなんて、どうかしている。前回優勝者のグライファルトは、一筋縄ではいかない相手だった。彼のことも殺したということは、よっぽど強い相手なのだろう。


 この中に犯人がいるとみんな疑心暗鬼になっているが、イブキは鵜呑みにしていなかった。理由は……なんとなく、だ。


 と、部屋の扉が開いて鎧を身にまとった短髪の男が現れた。イブキたちへ頭を下げ、挨拶を交わす。


「国王の護衛部隊、スノウ騎士団隊長エリックです。この度は、お集まりいただきありがとうございます」


 すると、細身の女性――シェリナが爪の手入れをしながら鼻を鳴らした。


「あたし、殺してないからね」


 他のみんなも、口々に同意する。隊長のエリックは苦笑した。


「まずは、状況を説明させていただきます。聞いていると思いますが、昨夜の戦闘イベントで、クリア者以外が惨殺される事件が起きました。全員、首元を鋭利な物で切り裂かれていたのです」


 鋭利な物――。


 イブキ以外の視線が、テトへと集まる。他の参加者は魔法を扱うのに対し、テトは《剣聖術》を使う。連想されてしまうのも無理はない。


 テトは必死に首を左右に振って否定する。イブキは、「テトがそんなことするわけがない」と一瞥をくれることすらしなかった。


 隊長のエリックは続ける。


「あの山には人が寄り付きません。……そこで、クリア者であるあなたたちの中に、犯人がいると考えているのです」


 ニードル兄弟は「俺たちは関係ない」とばかりに互いに談笑を続けている。大男のガドナーは、険しい表情を浮かべ問いかけた。


「監視水晶を配置していると聞いていたが、そこに犯人は映っていないのか?」


「はい。すべて、監視水晶に映らない場所でした。今回集まっていただいたのは、皆様からお話を伺いたいのと、もう一点。――国王は、この《星火祭》を中止しようと考えているのです」


 それには、イブキとテト以外が反論した。


 ニードル兄弟は、

「冗談じゃねぇぜ」

 と声を揃える。

 シェリナは

「ちょっと、それはないんじゃない?」

 と呆れ、大男のガドナーはただ頷いているだけだ。


 他の四人とエリックがやり取りをしている間、イブキはテトへ耳打ちをした。


「どうして、みんな《星火祭》を続けたがるの? 人が死んでいるのに……」


 テトは即答する。


「そりゃ、《星火祭》戦闘イベントの優勝者は、有名人になれるからね。目の前にその権利があるから、なんとしても欲しいのよ」


 そして、慌てて付け足す。


「あ、あたしは別にいらないけどね。早く、犯人を探し出さないと、街のみんなまで危険だわ」


「……だよね」


 すると、隊長のエリックがみんなをなだめ終えたらしい。


「まずは、昨夜のあなたたちの行動履歴を探らせていただきます。監視水晶に、ヒントくらいは映っているはずですから。……《星火祭》を継続するかどうかは、国王と相談させていただきます」


 それから、順番に個別の部屋へと呼ばれ、昨日の戦闘イベントでの行動履歴を質問された。クリアの早かったイブキとテトは、どうやら疑われてはいないらしい。

 

 一通り個別のやり取りを終え、いざ解放……とはならなかった。この中に犯人がいる可能性が高いことから、一旦夜まで王城内で監視を受けることになったのだ。


 そして夜。

 国王は《星火祭》について、決断を下す。


 《星火祭》は――中止、だそうだ。しかし、そのアナウンスを国王が行っている途中、再び事件は起きた……。

 

 


 

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