第39話 《魔術、復活》
魔術は、イブキが望む通りの事象をこの世界に引き起こす。しかし薬のせいか、「思考から発現」の間になにかフィルタが掛かっているかのような違和感を感じていたのだ。おそらく、思考に関与するような薬を使われたのだろう。
魔術を使うコツを、イブキは自分なりに理解していた。
自分はなんでもできると、信じ込むこと。
そして、引き起こしたい事象を思い浮かべ、世界に「命令」を下すこと。
それらが上手く噛み合わないと、魔術は発動しない。まずは、思考を邪魔するフィルタを取っ払わなければならない。
目を瞑ると、脳裏に点と点が浮かび上がる。「思考」と「発現」――いわば魔術を使うためのスタートとゴールだ。
それらを、線が結ぶ。だが途中でフィルタが掛けられており、「思考」の大半をブロックしてしまっている。そのフィルタを、魔術を使って消し去ろうと試みる。脳内で魔力を操る。フィルタは魔術に包まれ、じわじわと溶けるように消えていく。
イブキは目を開けた。試しに、近くにあった瓦礫に「浮かべ」と念じてみる。すると魔術を封じ込められていたのが嘘みたいに、瓦礫は勢いよく宙へ浮かび上がり、その場で停止した。
(いける……! ってか、魔術ってほんとチートじゃん!)
喜びで、イブキの口元が緩む。と、瓦礫が音を立てて地面へ落ちた。これも、ハーレッドの助言のおかげだ。
「ハーレッド!!」
上空では、ハーレッドとレーベが取っ組み合っている。ハーレッドはレーベを突き飛ばすと、翼を畳んで急降下してきた。地面へ着く直前、翼を一度だけ大きく羽ばたかせ、降下の勢いを殺して地面へ着地する。と、ハーレッドが頭を垂れ、『乗れ』とイブキの脳内へ指示を出してくる。
言われたとおりにし、イブキがハーレッドの龍鱗へ足をかける。そして角へ跨り、魔術を使って、振り落とされないように体を固定した。これから、ハーレッドが何をしようとしているのか分かっていたからだ。
ハーレッドが四足に力を込め、弾かれたように宙へ飛ぶ。翼で風を切り裂きながら、どんどんレーベへと向かっていく。耳元で風が唸る。魔術を解いたら、簡単に振り落とされて、地面へ真っ逆さまだ。
「グウウッ、ジャマ、ネ」
竜と一体になったレーベの顔に、苛立ちが浮かぶ。まだ、多少の意識はあるようだった。
ハーレッドが、牙の並ぶ口を大きく開ける。喉の奥で、熱気が渦巻いてるのがわかった。直後、口元から炎が吐き出された。凝縮された炎を、レーベが巨体を翻して躱そうとする。しかし、イブキがそうはさせなかった。
イブキが右手をレーベへ向け、躱されかけていた炎に意識を集中させる。直後、炎がぐにゃりと軌道を変え、避けようと身を翻していたレーベの首元に打ち込まれた。
『いいぞ、その調子だ。だが、まだ足りない。まずは、奴を地上へ引きずり下ろすぞ』
「ふん、偉そーに言っちゃって。わかってるわよ!」
レーベが、長い尾をハーレッドの体へ叩きつけようとする。しかし、イブキが魔力を凝縮した障壁で弾き返すと、レーベは堪らず旋回して距離をとった。
「魔術が使えりゃこっちのものよ。あの時は、よくm――」
レーベへ言いたい放題言ってやろうとしていたイブキの言葉を、ハーレッドの飛翔が遮る。レーベはイブキたちに背を向け、逃げようと翼を必死に動かしている。
ハーレッドが、翼を大きく動かして瞬時に加速する。そのまま、逃げ惑うレーベの頭上を取った。
それが合図だったかのように、イブキがハーレッドの頭部から飛び降りる。レーベの背中――翼の付け根部分へ着地すると、イブキは手の平を地面の方へと向けた。
イブキを振り落とすべく、レーベは体を回転させようとする。だが、イブキのほうが早かった。
「――落ちなさい、レーベ」
突然、激しい重力に捕らえられたかのように、レーベの体が急速落下する。イブキは魔術でしがみついたまま、レーベを地面へ落とそうと必死だ。そして、ハーレッドへと叫んだ。
「ハーレッド、レーベはわたしに任せて! あなたは、街をお願い!」
イブキがやってみせたのは『重力魔法』のそれに似ている。だが、重力魔法とは仕組みが異なる。イブキはただ「落ちろ」と念じただけだ。そしてそれを現実とするべく、『世界』が重力を一点に集中させ、レーベを叩き落としたのだ。
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