18

 咲良が泣き止んだ頃、兄貴は公園についた。そのまま分かっていることだけを話すと、俺達の家に向かってくれた。

「おかえりなさい。玲緒、楓。」

「ただいま、かーさん。それと···。」

 後ろに隠れていた咲良を見るて言うとかーさんはすぐに頷いた。

「わかってるわ、咲良ちゃんでしょ?寒かったでしょ?お風呂、沸いてるから入りなさい。」

 かーさんが、言うと咲良はすぐに首を振った。何か言おうとしたが、その前に俺が言った。

「あんな寒い中に一人でいたんだ。身体冷たかったし、入っとけって。」

 俺がそう言うと、咲良は頷いた。


 咲良が風呂に入っている間に、咲良と俺に降りかかる全ての事をかーさんたちに話した。

「そんな事が···。」

「ひでーな、その父親。」

「ああ。多分、今日のこれもその父親が関係してると思う。咲良に聞いたら、頷いてたし。」

 俺がそう言うと二人は悩む様に頭を抱えた。


「楓くん···。」

 しばらくして、咲良を脱衣場まで迎えに行くと、困ったように俺を見て言った。。

「これ、ほんとに貰っていいの?」

 咲良が着ているのはかーさんが昔買ったワンピースだ。あまり着ていなかった物を引っ張り出してくれた。

「おう、かーさんが、良いって言ってたからな。サイズは大丈夫か?」

「うん。おかーさんにお礼言わなきゃ。」

 咲良はそう言って少し明るい顔をした。

「一応、これまであったことはかーさんたちに伝えたけど、良かったか?」

「うん。話さなきゃ、今回の事も説明出来ないから、ありがとう。」

「どーいたしまして。じゃ、二人のところ行くか。同じ男親が居れば心強いんだか、悪いな単身赴任中で海外なんだ。」

「そうなんだ。でも、玲緒さん達が居てくれるだけで嬉しいし、私には楓くんも居るからもっと心強いよ。」

「無理すんな。こんな時くらい、笑わなくていいから。」

 無理して笑う咲良に、そう言ってからリビングに向かった。

「あ、来た来た。うん、似合うわね。その服、ほとんど着てないからこれから着てあげてね。」

「はい、ありがとうございます。」

 ああ、また無理して笑ってる。バレバレなのにな···。

「まあ、座りなさい。色々話聞く前にご飯にしなくちゃ。シチューでも大丈夫?」

「はい、シチュー好きです。」

「そ、ならいいわ。」

 そう言ってかーさんは台所に入った。咲良と並んで座って、すぐに料理が出てきた。かーさん、準備してたんだな。


 夕飯が終わると、咲良が今日起こった事を話してくれた。簡単にまとめると『楓子先輩とこれから同棲して、先輩が卒業したら結婚しろ。』ということらしい。

「なにそれ?それ、親が決めること?」

 そう言ったのはかーさんだった。その言葉に咲良は俯く。

「そりゃ、未成年の結婚は親の許可が無きゃ行けないけど···。咲良ちゃんはその、楓子先輩と結婚したいの?」

 兄貴の言葉に、咲良は顔を上げ首を振った。

「私は、楓くんと、結婚したいです。」

「それは···嬉しいな。」

 俺がそう言うと咲良はカーッと顔を赤くした。

「はい、そこ!惚気ない!」

 兄貴に言われてビクッとする。気付いたら咲良に近づいていてびっくりした。咲良も目を丸くしていた。

「わ、悪い···。」

「う、ううん···。」

 パッと俯いて首を振る。かわいいな、こいつ。

「話戻そう。」

 軽く咳払いをして兄貴が言うと、すぐ咲良が真面目な顔になる。

「とにかく、その父親を何とかしないとね。」

 かーさんがそう言うと咲良はまた首を振った。

「真正面からぶつかっても、なんにもなりません。父は、人の話なんて聞かないでしょう。」

 咲良は、なんだか諦めてるように見えた。

「咲良?」

「私、どうしたらいいんだろう···。」

 独り言だったんだろう。口を手で覆った。ただ、それを聞き逃さないのがうちのかーさんだ。

「好きなようにしなさい。」

「え?」

 かーさんの言葉に、咲良はきょとんとした。

「自分の好きなように、頑張んなさい。じゃないと後悔するよ。」

「好きな、ように···。」

 咲良はピンと来ていない様だった。かーさんが少し悩んでいた。

「そうね〜···今まではお父さんに対してどうだったの?」

「今までは、お父さんの言う通りに成績を維持して、お父さんの言う通りの塾に通って、お父さんの言う通りに高校に通って···。」

「ずっと支配されてたのね。」

 咲良は首を振った。

「分かりません。それが普通だと思ってたから。」

「そう···。でも、今は?」

「今?」

「そう。楓を好きになったのは、誰なの?」

「私です。」

 そこだけはキッパリと言った。悩む事なく。それが嬉しかった。かーさんは続ける。

「楓が好きでお父さんに反抗してるのは?」

「私です。」

 かーさんはふっと笑った。

「それは好きなように頑張ってるって事よ。」

「これが?」

「そう。」

 かーさんがそう言うと咲良は俺を見た。

「そういう事だ。頑張ろうぜ。」

「···っ!うん!」

 俺が言うと咲良は頷きながら泣き出した。

「さ、咲良!?」

「良かった。ここに来て、良かった。」

 そう言いながら泣く咲良の頭をそっと撫でる。ボロボロと泣く咲良を見て、俺は絶対守ってやると改めて思った。

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