19
たくさん泣いたのに、楓くんは何も言わずにただ頭を撫で続けてくれた。玲緒さんやおかーさんも、落ち着くまで見守ってくれた。それがすごく嬉しかった。
「咲良ちゃん。」
やっと落ち着いた頃におかーさんが言った。
「今日は泊まっていきなさい。お家の電話番号教えて。私から連絡するから。」
「はい···。ありがとうございます。」
家の電話番号を教えるとおかーさんはスマホを持って廊下に出た。
「咲良、今日どこで寝るか···。」
そう言ったのは楓くんだった。
「へ?」
「そうだよな〜。かーさんの所はちょっと散らかってると言うか、物が多くて二人は寝れないし、かと言って俺の部屋はちょっとな。」
玲緒さんもそう言って首を傾げる。
「あの、私はそこのソファでいいので···。」
「「それはだめ!」」
私が言うと二人は声を揃えて言った。
「女の子がこんな所で寝ちゃいけません!」
「そうだぞー!そんな事したらかーさんにめっちゃ怒られるし···。」
「そうそう。『女の子は大事にしろー!』ってな。」
笑いながらそう言う二人はなんだかんだ楽しそうで。とても仲のいい家族なんだと思った。
「咲良ちゃん。お姉さんの許可もらったわよ。大丈夫だって。」
「ありがとうございます。」
「明日の朝迎えに来るって。」
「分かりました。」
「で?なんの話してたの?」
「いや実は···。」
そう言って楓くんが事情を話すとおかーさんはうーんと悩んだ。
「咲良ちゃんの寝床か···。この家客間が物置状態だしね···。まあ、緊急事態だし、楓の部屋に布団持ってって二人で寝たら?」
おかーさんがそう言うと楓くんと私は顔を見合わせた。
「いやいやいやいや!何言ってんのかーさん!」
「あら、布団は楓よ。」
「分かってるわい!そういう事じゃなくて···。」
そう言って楓くんは私を見る。
「咲良が、嫌なんじゃ···。」
楓くんは俯きながらそう言った。するとおかーさんは「あのねぇ」と言って続けた。
「そういうのは咲良ちゃんの気持ちを聞いてから言いなさい!咲良ちゃんはどう?」
「え?わ、私は···嫌じゃない、です。」
急に振られて、恥ずかしいながら言うと楓くんは驚いた顔をした。
「いいのか?」
「うん、楓くんが変なことしないって分かってるし、誰かと一緒の方が、今は嬉しいかな。」
「そ、そっか···。」
楓くんは嬉しそうにそう言った。
「じゃあ決まりね!もう遅いし布団出すから持って行ってもう寝なさい。」
そう言われてみるともう十二時を過ぎていた。あっという間だ。おかーさんは布団を持ちに出て行ってしまった。
「かーさんが布団出してる間に部屋片付けてくるから、ちょっと待っててな。」
「うん。」
そう言って楓くんも一度出て行く。残ったのは私と玲緒さんの二人だった。
「ねえ、咲良ちゃんはなんで楓が好きになったの?」
「え?」
急に聞かれてびっくりした。
「いや、聞いた事ないからさ。やっぱり顔?」
そう聞かれて私は首を振った。それから、あの日の話をした。
「へー!楓らしいな。」
話終わると玲緒さんは嬉しそうにそう言った。
「そうなんですか?」
「うん。あいつ、そういうのほっとけないタイプなんだよ。」
「そうなんですね。」
「そうそう。だから、楓が咲良ちゃんを、一人の女の子を決めた時はびっくりした。」
「え?そうなんですか?」
私が聞くと玲緒さんは「俺が言ったって内緒ね。」と言って続けた。
「楓って、無自覚だけどめっちゃお人好しだから、恋人が欲しい子の恋人代わりをやってたんだよ。まあ、無自覚だから自分から振ってるんだけどね。」
玲緒さんは笑いながら言う。
「でも、お人好しすぎて、一時期自分がどんな女の子が好きか分かんなくなってたんだ。」
「そんな事が···。」
「うん、その時はあいつ、退屈そうでさ。それが、咲良ちゃんと話すようになって変わったみたい。」
「え?私と?」
「そ。咲良ちゃんと話すようになったら君の話ばっかり。」
「そう、なんですね···。」
「そうなんです。だから、咲良ちゃん。」
「はい。」
「頼っていいからね。」
「え?」
「頼っていいのかなって思ってるでしょ?」
図星を当てられてドキッとする。それを玲緒さんは見逃さず「ね?」と言って続ける。
「いいんだよ。俺たちの楓を救ってくれたんだから。」
そう言われて、ふと、楓くんの笑顔が浮かぶ。あの笑顔を、守ったって事だよね。そっか、そうなんだ。私、楓くんの役に立ってたんだ。
「ありがとね、咲良ちゃん。」
「···はい!」
めいっぱいの笑顔で言うと、玲緒さんも笑ってくれた。
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