17

 楓子先輩達と話してから数日後。私は部屋で勉強をしてた。楓くんと一緒にいるには成績を落とすわけにはいかない。

「うーん···少し休憩···。ココアでも持ってこよ···。」

 そう言って部屋を出るとお父さんが立っていた。

「休憩か?」

「はい。」

「なら、少し話をしたい。リビングに来なさい。楓子くんも来ているからちゃんとした格好でな。」

「···はい。」

 着替えて、リビングに行くと楓子先輩がいた。いつからいたんだろう?

「楓子先輩、こんばんは。」

「こんばんは。隣どうぞ。」

 そう言われて私は先輩の隣に座った。すると先輩は小さな声で私に言った。

「話が終わったら楓と寄る公園に行くんだ。」

「え?」

「実は二人に話があるんだ。」

 なぜか聞く前にお父さんが話を始めた。

「実はな、二人に同棲してもらおうと思っているんだ。」

「は···?なにを、いって···。」

「高校を卒業したら結婚するんだ。今のうちに二人での生活に慣れた方がいい。」

 何を言っているのか分からなかった。卒業したら結婚?それって、どっちが卒業したら?

「もちろん、楓子くんが卒業したらだ。」

 私の心を読んだようにお父さんがそう言った。今が十二月だから、あと四ヶ月ない···。

「おじさん、さすがにそれはちょっと···。咲良は学校があるんですし、せめて咲良が卒業してからの方が···。」

「何を言っている?早い方が良いだろう?」

 楓子先輩の意見も否定して、さも自分が考えた事が正しいと思って笑っている。それがとても悔しかった。

「ふざけないでください。」

 気づけば、そう声を出していた。

「···ふざけているつもりは無い。本気でそう考えている。」

 そう言われて、『もう、何を言っても無駄だ。』そう思った。

「それで、まず場所だが···。」

 お父さんが話し始めると、私は席を立った。

「どこへ行く?まだ話の途中だ。座りなさい。」

「楓くんの、所へ行きます。」

「なんだと?」

 お父さんが呆気に取られているのを後目に私は家を飛び出した。

 でも、どうやって行けばいいんだろう?あの時は柳さんが連れていってくれた。お金もない。あるのは携帯電話だけ。

 途方に暮れてると、いつもの公園についた。そう言えば、楓子先輩に、ここに行けって言われたっけ。

 ここに居よう。そしたら、何となくだけど楓くんに会えるかも。

「楓くん···。」

 楓くんの事を考えていると、涙が出てきた。雪の振る中、一人で泣いてる。楓くんと初めてちゃんと話した日と同じだ。

 これからどうしたらいいんだろう。もう、お父さんの説得は無理なのかもしれない。そう思ってボロボロ泣いていた。

「咲良!!」

 そんな声が聞こえた。パッと顔を上げると楓くんが息を切らして立っていた。

「楓くん、どうして?」

「楓子先輩から、咲良が家を飛び出したって聞いて慌てて来たんだ。兄貴に車出してもらって···。でも、渋滞にハマったから、そこから走ってきた。」

「そう、なんだ···。」

 よく見ると楓くんは自分が着ているのとは別にもう一つコートを持ってた。そのコートを私に掛けてくれた。

「何があったんだよ?こんな寒い中、そんな薄着で。」

「楓くん···。」

 本気で心配してくれてる。そう思うともう、我慢出来なかった。

「お願い···助けて···。」

「···っ!」

 私が言うと、楓くんは痛いくらい抱き締めてくれた。私はボロボロ泣いて、楓くんのコートに幾つもシミを作った。

「もう少ししたら、兄貴が来る。きっとお父さん絡みだろ?なら、俺の家で話そ。そのつもりでかーさんにも話してあるから。だから、気が済むまで泣いていいぞ。」

 楓くんの言葉に頷く。

 玲緒さんが来るまでの間、私は、楓くんの腕の中で泣き続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る