16
あの後、咲良のお父さんが帰ったあと、少し二人で話そうという事で咲良の部屋にいた。
「ごめん、ごめんね、楓くん、ほんとごめん···!」
咲良はずっとそうやって謝っている。
「いや、咲良だって知らなかったんだし、咲良のせいじゃねーよ。」
「でも、でも···!」
「それより、これからどうすっかな〜?」
「へ?」
俺が言うとようやく咲良は俺の顔を見た。
「どうするって?」
とりあえず、ぐしゃぐしゃになった顔を拭いてやる。
「んー?ほら、どうやったら婚約破棄出来るかな〜って···。ほら、花純だっているし。」
そう、楓子先輩には幼なじみの恋人がいるんだ。楓子先輩だって、知らない可能性がある。その事を、説明すると咲良は少し希望を持った顔をした。
「そっか、そうだよね!」
「ああ、だからまだ諦めるには早いってこと!まずは明日、花純と楓子先輩にこの事話そうぜ!」
「うん!そうだね!」
やっと笑顔になった。咲良はやっぱりこうじゃないと。そう思いながら、明日の事を話していた。
次の日。昼休みに先輩達を屋上に呼んで早速話した。
「そんな···。」
花純はショックを受けていた。
「···。」
楓子先輩は何も言わない。その態度がなんだか気になった。
「楓子先輩?」
咲良も気になったのか声を掛ける。楓子先輩は申し訳なさそうに咲良を見た。
「ごめん、俺、知ってたんだ。咲良との事。」
「え···?それって···。」
「どういうことよ!?」
咲良が聞くより先に、花純が楓子先輩に詰め寄った。
「説明してよ!!」
「花純ちゃん!」
咲良が止めに入ると、花純は大人しくなった。
「説明、してもらえますか?先輩。」
「うん、俺からも説明させて欲しい。でも、一つだけお願いがあるんだけど。」
楓子先輩はそう言うと花純をみた。
「俺の一番は、花純だって事を忘れないで欲しい。」
「分かった。いいからさっさと話して。」
「うん。」
楓子先輩は、静かに話始めた。
「まず、知らない振りして話さなかったことなんだけど、親にそう言われてたんだ。話しちゃいけないって。」
そこを皮切りに、色んな事を話してくれた。
咲良が今まで知らなかったのは咲良のお父さんが口止めしていた事。その代わりに楓子先輩の家が報酬を貰っていたこと。もう話していいと言われたのがつい最近で、俺と咲良が付き合い始めた頃だったこと···。
「最低、だよね。こんな事ないだろって思った。ごめんね、咲良、それに花純も。」
話終えた先輩は、下を向いて、二人に向かって頭を下げた。
「そんな事情が···。」
「最低だね。」
そう言ったのは花純だった。
「花純ちゃ···」
「咲良の父親、まじサイテー!」
その意外な言葉に皆反応出来ずにいた。
「だってそうじゃない?咲良を絶望させようとしてるだけに聞こえるよ!」
そう言って咲良の方を向く。
「咲良、大変だね。私、楓と咲良の幸せのためならなんでもするよ!」
「花純ちゃん〜!!」
その言葉で咲良は泣いてしまった。その咲良を花純が包み込む。咲良に花純がいて良かった。
「で、どうする?」
いつの間にか隣のいた楓子先輩が聞いてくる。俺は首を傾げながら言った。
「どうしましょう。今日はとりあえず楓子先輩に話すことしか考えてなかったんで。」
「そうだよな。今の俺達って、無力だよな···。」
楓子先輩はそう言って天を仰いだ。本当にそうだ。俺達はなんて無力なんだ。
でも···。
「俺は、咲良のあの笑顔を守りたいっす。」
俺が言うと楓子先輩は少し間を置いて言った。
「···そうだな。俺も、花純の笑顔を守りたい。頑張ろうな。」
「はい!」
そう言って俺達は拳を合わせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます