15
放課後、久しぶりの部活でウキウキしていると、電話がかかってきた。相手は、お父さん。
「もしもし。」
『もしもし、咲良。』
「なんでしょうか?」
『授業は終わったな?』
素っ気なく応える私を気にもとめずそう聞いてくる。
「はい。」
『なら、すぐ帰ってきなさい。結果が知りたい。 』
「これから部活があるので、それは出来ません。」
『なに?』
私、強くなったな···。昔だったら部活なんて後回しにしてたのに···。
「友達と、楓くんと一緒にいられる時間なんです。これだけは譲れません。」
『···分かった。部活はどれくらいかかるんだ?』
「えっと、一時間くらいです。」
『分かった。あの男も連れてくるように。』
「はい。では失礼します。」
『ああ。』
その声を聞いて私は電話を切った。
「ふう···。」
「お父さんか?」
隣で聞いていた楓くんが心配そうに言った。
「うん。あ、帰り家寄ってくれない?お父さんが結果を知りたいって。」
「そ、そうか。なんかいちゃもん付けられないか不安だ···。」
「う〜ん、そんな事ないと思うけど···、でも、何言われても私達なら大丈夫だよ!」
「うん、そうだな!」
そう言って私達は笑いあった。
そして、ついにその時はきてしまった。部活が終わって、家に着くとお父さんはリビングで待っていた。そのまま成績の話になる。
「お父さん、楓くんの成績ですが、五位でした。」
先生に頼んで印刷してもらった順位の紙。そこには楓くんの順位と私の順位が書いてある。ちなみに私は今回一位を取っていた。
「ほう?二人とも、頑張ったんだな。特に、咲良。よくやったな。」
「ありがとうございます。でも、今重要なのは楓くんの順位です。」
「分かっている。」
私が言うとお父さんは考え込むようにそう言った。
「これは、不正をしたのではないか?」
お父さんはそう言った。頭が真っ白になった。何を言っているか分からなかった。そこで楓くんとの話を思い出す。
『なんかいちゃもん付けられないか不安だ···。』
そんな話をしてた。まさか、現実になるなんて···。
「ふざけないでください···!」
沈黙を破ったのは楓くんだった。
「俺は、全力で頑張ったんです!それに咲良も助けてくれた!それを不正したなんて言わないでください!!」
「楓くん···。」
楓くんは怒ってた。あの日、私を助けてくれたのと同じ目をしてた。いや、あの日よりもっと鋭い目を。
「君が本当に頑張ったとしても、この順位を取れるとは思わないから言ったんだ。言われたくなければまず見た目を···。」
「やめてください···!」
今度は私が怒る番だった。
「楓くんのどこが悪いんですか!?見た目ですか?人は見かけで判断してはいけないと言うでしょう?そんな事で判断してどうするんですか!?楓くんは頑張りました。それをなんで認めないんですか!!」
そこまで言うとお父さんは黙ってしまった。
「お父さん。」
二度目の沈黙を破ったのは私でも楓くんでもなく、お姉ちゃんだった。
「いいじゃないですか、咲良がどなたと付き合っても。咲良が幸せなら。」
「そうはいかない。咲良、目を覚ませ。お前には許嫁がいるだろう?」
「は?いい、なずけ?」
楓くんはそう言って私を見た。私も知らない。
「だ、だれですか?その人は?」
「おや、忘れたのか?ほら、この方だよ。」
そう差し出された写真に写っていたのは、会ったこともないの男の人だった。
「この方は、どなたですか?私、お会いした事が···!」
いや、ある。よく見たら似てる。
楓子先輩に···。
「ん?ああそうか、これは十年以上前の写真だからな。だが、同じ学校に···。」
「はい···、今、分かりました。齋藤、楓子さん、ですよね?」
私が言うと楓くんは小さい声で「楓子先輩···?」と呟いた。私は泣きそうだった。
「そうだ。」
「でも、許嫁だなんて一言も···。」
「おや、言っていなかったか。でも、決まっていることだからな。仕方ない。」
「そんな···!」
そこで、私は悟った。何を言っても無駄だと。私は泣くしかなかった。
「それでも、俺は諦めません。」
力強く言ったのは楓くんだった。
「楓くん···。」
「俺は、咲良との未来を、諦めません。」
そう言って楓くんは私を見た。その目は『咲良は?』と言っていた。涙を拭ってお父さんを真っ直ぐ見る。
「私も、諦めません。婚約破棄を、申し出ます。」
私が言うとお父さんは、顔を真っ赤にした。
「ふざけるな!!婚約は破棄出来ん!大人しくその男と別れろ!」
「別れません!」
「もういい!私は帰る!」
そう言ってお父さんは家を出ていった。
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