8
咲良の部屋は、とても可愛らしい女子の部屋だった。
「適当に座って。後でお姉ちゃんがお茶持ってきてくれるから。」
「あ、ああ。」
そう言われて座ると咲良は正面に座った。
「身体、大丈夫なのか?」
「うん、お医者さんにも行ったけどストレスと疲れだって。テスト近いから最近頑張っちゃって···そのせいかな?」
「そっか、ストレスか···。」
ストレス、昨日のことも関係してるのか?そう思っているとドアが叩かれた。
「お待たせ、お茶入ったわよ〜。楓さん、ゆっくりしていってね。」
そう言って明日佳さんが入ってきた。
「ありがとうございます。」
「お姉ちゃん、ありがとう。お父さんは···。」
「怒って帰って行ったわ。しばらく来ないって。」
「そ、そっか〜。良かった〜。」
そう安堵の声をこぼした。あのお父さん、厳しそうだったもんな。
「じゃあ、ごゆっくり。」
そう言って明日佳さんは部屋を出ていった。
「あれ?そう言えば部活は?」
「自分で言ったろ?テスト近いって。今日からテスト期間で休み。」
「そ、そう言えばそうだっけ。」
咲良はカレンダーを確認すると頷いた。テストまであと二週間くらいしかない。
「なあ、本当にテスト勉強だけか?他に何かあるなら、力になるぞ?悩み事とか、考え事とか、厄介事とか、困り事とか···。」
「ないない!大丈夫だよ!」
俺の心配を笑って否定する咲良が、なんだかとても心配になってきた。
「本当に?」
「え、えっと、ちょっとだけ···ある···。」
しつこく聞くと咲良は目を逸らしてそう言った。
「学校の事か?」
「へ?」
「昨日の事もあるし、もしかして、その前から何か嫌がらせされてたのか?」
そう聞くと咲良は首をぶんぶんと振った。
「それはない!と思う。気づかないだけかもしれないけど、昨日のが初めてだったよ。それに···。」
「それに?」
恥ずかしそうに咲良は続ける。
「何かあったら、楓くんに言うよ。」
「そ、そうか、それなら良かった···。」
「うん。」
なんだか、俺まで恥ずかしくなってきた。
「で、困り事って?」
俺が聞くと咲良は俯いてしまった。やっぱり何かあるんじゃ···。
「えっと、悩み事からでも、いい?」
「ああ。」
頷くと咲良は少し笑って、それから姿勢を正してこっちを見た。
「あのね、お父さんの事なの。」
「あの、お父さんか?」
「うん。お父さんに、付き合ってる人がいるって報告したの。」
「え?そうなのか?」
意外だった。咲良はこういう事は人には言わないような気がしていたから。
「うん。嬉しくて、つい···。」
嬉しそうにはにかむ咲良は可愛いから許そう。
「そしたら、『成績は落ちないのか』とか、『その相手は信用出来るのか』とか、そんな事ばっかり聞いてきて、挙句の果てに『確かめに行く』って言って昨日来たの。それで、写真見せたら『こんな相手ダメだ!』って怒り出して···。楓くんの話、いっぱいしたけど否定されて···。」
「そう、だったのか。」
俺、そんな不誠実な見た目してたっけ···。ちょっとショックを受けていると咲良が急に泣き始めた。
「楓くんのこと、否定されて、なんだか、私まで、否定されたみたいに思って···悲しくて、辛くて···。」
「咲良···。」
「一晩中、どうしたらいいか、考えたけど、分からなくて···。私、どうしたら良かったのかな···?」
本当に、真剣に悩んでくれたのか。よく見たら目の下に薄く隈がある。朝気付いてやれれば良かったのに。でも···。
「咲良、そりゃ分かるわけないだろ?」
「え···?なんで?」
泣きながらキョトンとする咲良が少し可愛いのは内緒だ。
「それは二人で考える事だからだよ。それでも、時間がかかる問題を一人で考えたらそりゃ分かるもんも分からないだろ。な?」
俺がそう言うと、咲良は少ししてから納得したように頷いた。
「そっか、そうだよね。···ねえ、楓くん。」
「ん?」
「これから、時間掛けて一緒に考えてくれる?」
「当たり前だろ?」
そう言うと、咲良はパッと目を輝かせてニコッと笑った。
「じゃあ、よろしくお願いします!」
「ああ!」
こういう時のナレーションは、こうだろう。
『ここから俺たちの戦いは始まった』
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