5

「お返しがしたい···。」

「誰に?なんで?」

 教室の自分の席に着いてそう呟くと、前の席の花純ちゃんが不思議そうな顔で私を見ていた。

「花純ちゃん、おはよう。あ、楓くんから聞いたよ、昨日楓くん呼んでくれたの花純ちゃんなんでしょ?ありがとう。」

「いいよいいよ、大丈夫だった?」

「うん、楓くん来てくれて連れ出してくれて···。楓くん、かっこよかった···。」

「そっか、良かった。まあ、それはさておき···」

 そこまで言って花純ちゃんはニヤリとした。

「お礼って誰に?」

「も、もちろん楓くんにだよ〜!」

 そう、楓くんに···。昨日の事もあるし、今日だって迎えに来てくれて···。

「私、助けてもらってばっかりだから···。」

「そうだね···。ところで、咲良ってなんで楓の事好きになったの?告白だってずっと断ってたよね?」

「本当はずっと好きだったんだよ。でも、釣り合わないって言って断ってたの。」

「そうだったんだ。で?なんで好きになったの?」

 花純ちゃんに急かされて、ゆっくり話し始めた。


 あれは、去年の冬のこと。私は泣いていた。もともと写真を撮るのが好きで部活も写真部に入った。でも、なかなかいい写真が撮れなくて、部活で出したコンクールの品評で、散々な事を書かれてしまった。

『誰にでも撮れる写真』

 そう言われている気がして、私は部活を早退してしまった。

 家から学校の間の小さな公園で、雪が降る中人がいないことをいい事に泣いていた。

「大丈夫か?」

 温かい飲み物と共にそう声をかけてくれたのは楓くんだった。私は引っ込み思案で、あまり話すこともなかったからびっくりした。

「あ、秋野くん···。」

「コンクール、そんなに酷い事書かれたのか?」

 心配そうに見つめる彼の優しさに、私は全て話してしまった。

「そんな事書かれたのか···。」

「撮りたい写真撮ってるだけなのに、そんな事言われるなんて、もう嫌だよ···。」

 そう言ってからハッとした。そんな事言っても仕方ないと思っていたのに、言葉に出してしまった。気を悪くするかもしれないのに···。

「なら、出さなくてもいいと思うぞ?」

 なのに、楓くんは優しく助けてくれた。

「そっか、そんな方法があったんだ···。」

 その時は考えもしなかった。 驚いて、同時に希望が見えて、涙が止まった時、プッと楓くんが吹き出した。

「あはは、三波って、頭いいと思ってた。そういう事気づかない方なんだな。」

 そう言って笑う彼が、少し可愛いと思ったのは内緒。

「そ、そんな笑わなくても···。」

「わ、悪い悪い。は〜あ、笑った。」

「もう···。」

 満足そうにそう言うと楓くんは立ち上がった。

「まあ、そんな感じで頑張れ。」

 そう言って去って行く背中がかっこよかった。

 その後も、部活で少しずつ、少しずつ話していくうちに、好きになっていった。


「って感じかな〜。」

「おお、なかなかやるじゃん、楓。」

「ね、かっこいいよね。顔がいいから人気なんだって思ってたけど、それだけじゃなかっただねって思ったよ。」

「ちょ、咲良それは酷い···。」

「咲良ー!」

 そんな話をしてると楓くんが教室の外から呼んでいた。よく見ると楓子先輩もいる。昨日の事謝らなきゃ。そう思って近付いた。

「楓子先輩、昨日は···。」

「あ、楓から聞いてる。大変だったね。咲良が謝る事じゃないよ。」

「は、はい···ありがとうございます。」

 謝ろうとしたら先手を打たれてしまった。ここは素直に甘えとこ。

「あ!楓子もいる〜!」

 そう言いながら後ろから花純ちゃんも来た。

「こら、学校では先輩を付けろって言ってるだろ!」

「はーい。」

 花純ちゃんと楓子先輩は幼なじみで恋人同士。だから、こういう会話がよくある。

「咲良、今日一緒に昼飯食わね?」

 そんな二人を無視して楓くんがそう言った。

「え?その、いいの?」

「ん?なんで?」

「えっと、今まで楓くんとお昼食べた事なかったから···。」

「ああ、そう言う意味か···。」

 そう、今までお昼を一緒に食べたという事がない。楓くんはいつも取り巻きの女の子に連れてかれてしまっていた。

「ほら見ろ、だからこうなるって言ったろ?」

「今までの自分が仇になってるね。」

 先輩と花純ちゃんが口々にそう言う。その二人をギロっと睨んで咳払いをして楓くんは言った。

「その、アイツらに見せつけた方がいいかなって思って···。俺の彼女は咲良だって。」

「そ、そっか···。」

 そんな事して、楓くんは大丈夫なのかな。変な事言われたりしないかな。

「大丈夫だよ。」

 そう言ってくれたのは楓子先輩だった。

「これで何かあっても、二人でなら大丈夫だよ、きっと。だよな、楓?」

「はい、もちろんっす。なんとかなります!」

 力強くそう言ってもらえて嬉しかった。私も、やられっぱなしじゃいやだし···。

「分かった!じゃあお昼一緒に食べよ!」

「ああ。ありがとな。じゃあ、昼迎えに来るから。」

「うん。」

 そう言って楓くんは帰って行った。なんだかドキドキするな。

「あ、でも、花純ちゃん一人になっちゃうかな?」

 いつも私と花純ちゃんで食べてたのを今思い出した。

「ん?ああ、大丈夫。楓子センパイが迎え来るから。」

「そっか、ならいいね!」

 そう言って二人で笑い合うと予鈴がなった。

 ああ、早くお昼にならないかな!

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