15-6
「いいんだ江蓮、これからのお前の人生には、女の子を連れ込むチャンスなんていくらでもある、本当だ、俺を信じろ。
むしろ俺は安心した。
いいか江蓮、男女交際を始めるなら、まずは俺に相談しろ。
安全で後腐れのない付き合いの方法ってやつを伝授してやる。
だがまあ、雰囲気的に先にそんな感じになったときは仕方がない、そういうこともある。
それでもだな、こんな場所に連れ込むのだけはやめておけ、ここは女の子が嫌がる。
虫はいるし、汚ねえし、すぐ側は住宅街なんだぞ、ちょっとは人目を気にしろ。
それに危険だ。
あそこのちっせえトンネルみたいなやつ、お前がチビの頃には、鉄格子が設置されていなくて中に入れたらしいが、そのせいでずっと昔に、どこかの女の子があの中に入っていったまま行方不明になったらしくてな、それがきっかけで入り口は塞がれたらしい。
そんな薄気味悪い横穴がすぐ側にある場所に、女の子を連れて行こうと思うな、そもそも夜の野外はレベルが高すぎる、覚えておけ」
…このひとは、また何という勘違いをしているんだろうなんて、最初は話半分で聞いてきた犬彦さんの言葉の一部に、俺の意識は完全に持っていかれてしまった。
「女の子が…暗渠のなかで行方不明になったんですか…?
それは、いつ頃の話です?」
熱心に男女交際について語っていた犬彦さんは、それとまったく関係のない質問をしてきた俺に興をそがれたようだったが、きちんと答えてくれた。
「さあな、俺も人から聞いた話だから、正しくは分からないが…おそらく十年以上前の話だったと思う」
「季節は…その女の子が、行方不明になった季節は聞いていませんか?」
「季節? たしか、年末だったような気がしたな。
ただでさえクソ忙しい時期なのに、女の子がいなくなったと、この辺りは蜂の巣をつついたような大騒ぎだったみたいだ。
その年は強い寒波のせいで雪もかなり積もったらしい、その子は雪の中に埋もれたんじゃないかと言った奴もいたそうだ。
結局、その女の子はこの暗渠のなかにいて、井戸の跡だか何だかの穴に落ちたとかで、もう戻ってこなかったって話らしいがな。
わかったら、もう二度とフェンスを乗り越えてまで、こんな薄暗い川なんかで一人で遊ぶんじゃねえ、いいな」
わかったらもう帰るぞ、そう締めくくると犬彦さんは、俺の手をつかんで歩きだした。
犬彦さんにひっぱられながら、俺も歩きだす。
俺のこの手を、ついさっきまで掴んでいたのは、柊子だった。
さっきまで柊子は俺のとなりに、すぐそばにいた。
犬彦さんが突然、俺の目の前に現れて、なんて言葉をかけていいかわからず、混乱していたあのとき、絶対に柊子はすぐ近くにいて、俺と犬彦さんのようすを見守りながら、勇気をだせと俺を励ましてくれていた。
そのことに確信がある。
だけど、いま、柊子はどこにもいなかった。
もう、暗闇のなかで馴染んでよく知った彼女の気配を、どこにも感じない。
それが『真実』を俺に教えてくれる。
きっと、柊子は帰っていったんだ、と。
自然とそう思えた。
なぜなら、ゲームをしているとき、柊子の答える『真実』が、どうやら嘘でも適当なことを言っているわけでもないらしいのに、しっくりと理解できない部分があったからだ。
それはちょっとした、ズレのような違和感だった。
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