6-5


 「『秘密』はやめる。


 やっぱり『真実』を選ぶ」



 怒ってしまったのか、エレンの声は淡々として抑揚がない。


 それにしても『真実』を選びなおすとは、これはまた意外だった。

 俺は注意深く耳をそばだてる。



 「『真実』

 これまでの人生のなかで、私がやった、最も悪いこと。


 それは…」



 一度ここで言葉が止まる。

 エレンは続きを話すことをためらっているのかもしれない。


 しかし次の瞬間には、凛とした声で高らかと、彼女は自分の『真実』を語った。



 「ひとを殺したこと」



 そこでまた言葉は止まり、エレンは口を閉ざした。


 なんて相槌をうっていいのか分からず、一度は発言のために口を開いたものの、迷ったままで俺も沈黙する。


 ふたりとも息をつめて黙り込んでしまうと、辺り一面をコンクリート壁で囲われた闇は、何の音もしなくなる。


 周囲の闇がまた一段と、さらに深くなったような気がした。

 重さを感じるような、深い静寂。


 ああ、そうだ。

 エレンとのゲームに夢中になっていて忘れていたけれど、ここは、都市の地下に広がる、多くの人々からは忘れ去られた寒々しい暗渠の中なのだった。


 そして、あらためて考えた。

 俺の目の前にいる、彼女のことを。


 この暗い世界を、自分の庭のようなものだと語り、自らをエレンと名乗る、この女の子は何者なのだろうか。


 体がすこし冷えてきたことを俺が自覚しはじめたとき、彼女は突然、くすくすと笑いだした。

 楽しくて笑っている、というよりも、何かを滑稽だと感じて見下しているときのような、粘り気のある笑い声だった。



 「どう? これなら、きみのイチゴ牛乳の話より面白くて、視力がいいって話なんかより刺激的でしょう?


 それに、きみが先に『真実』として答えた、よく意味の解らない『黙っていたこと』っていう悪事よりも、罪が深いと思わない?」



 どうと言われても、なんて答えていいか分からない。


 いつも何かに困ったとき、それが表情に出てしまうのを隠すために、自然とあいまいな笑顔を浮かべてしまう癖が俺にはあるんだけど、それが顔に表れただけだった。


 もちろん、この暗さと、俺たちがそれぞれ立っている位置、二人のあいだに広がる距離からして、夜目が利くというエレンにも、さすがにそれは見えなかっただろうけれど。

 

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